治療と仕事の両立支援対策の推進について
厚生労働省は、働き方改革実行計画(平成29年3月28日、働き方改革実現会議決定)において、「病気の治療と仕事の両立を社会的にサポートする仕組みを整え、病を患った方々が、生きがいを感じながら働ける社会を目指す」こととされたことを受けて、治療と仕事の両立の可能性がより一層拡大されるよう、「治療と仕事の両立支援の総合的対策」を定め、関係施策を総合的かつ横断的に推進することとされました。
基発1005第10号
平成30年10月5日
治療と仕事の両立支援の総合的対策
厚生労働省は、関係行政機関、地方公共団体、関係団体等と連携を図りつつ、疾病等の 治療を行っていても、病状と治療の状況に応じた就業上の配慮の下に、本人の希望に応じた能力発揮の機会(以下「仕事」と総称する。)が継続的に確保される社会の実現に向けた 施策(以下「本施策」という。)について、以下のとおり推進する。
なお、参考「治療と仕事の両立支援の総合的対策の解説」も参照されたい。
本施策の対象者
本施策は、治療と仕事を両立するために継続的な社会的サポートを必要とする者を広く対象とするものとする。
本施策推進の基本的な方針
(1)本施策推進の基本的な枠組み
本施策においては、下記に掲げる中核的取組をはじめとして、労働基準局安全衛生部労 働衛生課に設置された「治療と仕事の両立支援室」が本施策の総合的な企画及び調整を行 いつつ、厚生労働省所管の関係政策分野を通じて関係各部局が連携して総合的に推進する ものとする。さらに、本施策の効果的な推進を図る上で有効と考えられる他府省等との連 携施策にも積極的に取り組むこととする。
①支援拠点の確立と関係者・関係施策の相互連携体制の整備 ②支援人材の育成及びトライアングル型支援等の推進 ③支援ノウハウの共有・普及 ④治療と仕事の両立に資する経済的支援のための条件整備 ⑤企業文化の改革・国民的理解の促進
(2)支援拠点の確立と関係者・関係施策の相互連携体制の整備
ア 地域における推進体制の強化、支援拠点の整備等
(ア)都道府県レベルでの地域のニーズ及びリソースに応じた推進体制の整備
各地域における支援ニーズを的確に把握しつつ、当該地域の人的、組織的リソー スの状況に応じ、「地域両立支援推進チーム」を的確に構成し、運営する。
(イ)郡市・圏域レベル等の連携した支援体制の強化
より具体的な支援ニーズの把握と対応を進める観点から、可能かつ効果的と認められる場合においては、郡市、圏域レベル等での関係支援機関の連携体制の確立・ 強化を含む支援体制の強化を図る。
(ウ)医療計画に基づく都道府県レベル、医療圏域レベルでの推進
医療機関における、がんの治療と仕事の両立支援については、厚生労働省として、各都道府県の医療計画に位置付けることを推奨し、多くの都道府県の医療計画に盛り込まれるに至っており、今後においては、先進的なモデルとなる事例を収集、展開すること等により効果的な推進を図るとともに、脳卒中や心臓病等の循環器病等 の他の疾病への取組の拡大を促す。
イ 国における推進体制の整備等
本施策に関する地域における推進体制の強化、支援拠点の整備等の円滑かつ効果的 な推進が図られるよう、関係者のより広域的又は全国的なレベルでの連携協力体制の 構築等、国において取り組むことが効果的であると考えられる事項については、国に おいて行う。
ウ 障害者福祉施策、障害者雇用施策との連携
厚生労働省においては、同一人が、その疾病又は障害の状態の変化に伴い、両施策 間を移行(双方向的な移行を含む。)することがあることを踏まえた、関係施策の整 合的な構築と運用に努める。
(3)支援人材の育成及びトライアングル型支援等の推進
ア 総合的かつ計画的な人材育成及びトライアングル型支援の推進
治療と仕事の両立支援を担う人材の育成計画及びトライアングル型支援を推進し、 その結果を治療と仕事の両立支援室が取りまとめる。
イ 主治医と産業医の連携強化の推進
平成30年度診療報酬改定において、就労中のがん患者の療養と就労の両立支援の ため、主治医と産業医との連携により、治療計画の再検討又は見直しを行うことを評 価する「療養・就労両立支援指導料」が新設された。がん以外の患者への対象拡大に ついては、今後、今回の改定の影響を調査・検証し、関係者の意見もよく聞きながら検討を行う。
(4)支援ノウハウの共有・普及
厚生労働省は、産業保健総合支援センターと連携して、あらゆる機会を捉え、「事業場 における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」(平成28年2月23日付け基発0223 第5号、健発0223第3号、職発0223第7号)及び参考資料「企業と医療機関の 連携のためのマニュアル」の周知を行う。
(5)治療と仕事の両立に資する経済的支援のための条件整備
健康保険等の傷病手当金に係る見直しの際には、断続的な一時休業を伴う治療と仕事の 両立をより効果的に支援できる仕組みを念頭に整備を進める。
(6)企業文化の改革・国民的理解の促進
ア 「健康経営」等との連携
疾病に罹患した従業員の企業組織への円滑な受入れと治療と仕事の両立支援に向 けた具体的な取組を含む形で「健康経営」が推進されるよう適切に促す。 労働安全マネジメントシステム(事業場における安全衛生水準の向上を図ることを目的として事業者が一連の過程を定めて行う自主的活動)における取組事項としても、 治療を仕事の両立に向けた支援を含めて取り組むことを適切に促す。
イ 患者・労働者本位の支援の充実、国民的理解の促進等
治療と仕事の両立について、患者・労働者が主体的かつ合理的な判断や選択が可能 となるよう、患者・労働者に対するより機動的かつ継続的な情報提供、相談・支援が 可能となる体制の整備等施策の充実を図る。 当該患者・労働者が両立を図ろうとする仕事その他の社会的活動については、人事 労務担当者や上司・同僚をはじめ企業等における関係者の当該患者・労働者の状況に 対する理解と配慮が不可欠であり、その効果的な啓発に取り組む。 本施策の意義と内容についての国民的理解を促進するため、効果的な広報、周知を行う。
【参考】治療と仕事の両立支援の総合的対策の解説
これまでの経緯等
厚生労働省においては、第2期がん対策推進基本計画(平成24年6月8日閣議決定) 及び第3期がん対策推進基本計画(平成30年3月9日閣議決定)において、がん患者等の治療と仕事の両立支援・就労支援に取り組むこととし、がん診療連携拠点病院等における両立支援やハローワークにおける再就職支援の取組を推進しているほか、難病相談支援センターにおける難病と仕事の両立支援の取組も開始しており、一定の取組体制の整備、支援の実践を通じた政策的知見の蓄積を経て今日に至っている。
また、厚生労働省所管の独立行政法人労働者健康安全機構においても、約10年間の研 究成果を踏まえ、平成26年に「治療就労両立支援モデル事業」を開始し、がん、糖尿病、脳卒中、メンタルヘルスの4分野について、労災病院における支援部門の設置、復職コーディネーターの配置等による治療と就労の両立支援の実践を通じた事例収集・分析・評価 等を行い、その成果を活用しつつ、医療機関向け支援マニュアルの作成・普及に取り組んでいる。
さらに、厚生労働省においては、上記の各取組や関連する民間セクターの研究成果等を 踏まえ、平成28年2月に「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」を策定し、その普及を図っているほか、働き方改革実行計画に示された社会的なサポート体制を地域の実情に応じて構築していくための「地域両立支援推進チーム」を平成29年度から各都道府県労働局に設置し、都道府県レベルでの行政、労使、医療等の関係者 の連携体制を整備するするとともに、平成30年3月には、疾病を抱える労働者の治療と仕事の両立をサポートする人材である「両立支援コーディネーター」の役割、求められる能力及びその養成のための研修の在り方を具体的に示した。
平成30年度からは、治療と仕事の両立支援を同年度から始まる第13次労働災害防止計画(平成30年2月28日策定)にも位置づけつつ、関係施策の充実・強化を進めている。
なお、働き方改革実行計画を踏まえ制定された「働き方改革を推進するための関係法律 の整備に関する法律」(平成30年法律第71号)による改正後の「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」 (昭和41年法律第132号。旧雇用対策法)第4条に規定する国の施策の一つとして、「疾病、負傷その他の理由により治療を受ける者の職業の安定を図るため、雇用の継続、離職を余儀なくされる労働者の円滑な再就職の促進その他の治療の状況に応じた就業を促進するために必要な施策を充実すること。」が明記されたところであり、今後、これについて講ずる施策に関する基本的事項を、同法第10条に基づく基本方針において定める予定となっている。
現状と課題
現在、我が国においては、労働力人口(6,720万人)(※1)の約3分の1に相当する約2,076万人(※2)が、疾病を抱えながら就業している現状にあるが、その中には、当該疾病の治療と就業の両立に関する種々の問題を抱えている者、更には離職等を余儀なくされる者も少なくない状況がみられる。
※1 労働力調査2017年(平成29年)平均
※2 2016年(平成28年)国民生活基礎調査。内訳は、高血圧330万人、糖尿病160万人、アレルギー114万人、脳血管・心臓疾患103万人、メンタル65万人、がん31万人等治療と仕事の両立が可能となるか否かは、当該疾病に罹患した者の治療上の事情と当該事情に対応した就業上の対応の双方に大きく影響される。
これらのうち、治療上の事情には、当該疾病の特性、その治療の状況、罹患及び治療に伴う心身の状態の変化その他の事情が含まれるが、がん等、従来は治療における患者本人の心身の負担が大きく、仕事との両立が困難となる場合が多かった疾病についても、近年、診断技術や治療方法の進歩や、治療後のフォローアップ体制の整備等により、患者の心身の負担が軽減され、疾病罹患後においても就業継続の可能性が大きく増大している。
一方、こうした治療上の事情の改善にもかかわらず、本人(その家族を含む。)や事業 者(人事労務担当者等を含む。)が当該事情を必ずしも十分認識せず、疾病への罹患後の 離職はやむを得ないと考えている場合が多い。また、治療上の事情の改善を認識している場合でも、病気休暇など社内制度の見直しや個別配慮に伴うコストの増加、更には他の労 働者の負担の増大の懸念等により、治療の状況に応じた就業上の配慮等が適切に講じられない場合も多く、これらの結果として、離職に至ること(※3)や、就業を継続するために適 切な治療を受けない場合(※4)も少なくない状況にある。
※3 がん患者・経験者へのアンケート調査結果「2013がん体験者の悩みや負担等に関する実態調査」(「がんの社会学」に関する研究グループ(研究代表者:静岡県立静岡がんセンター 山口建) )によれば、がんに罹患した者の35%が離職している。また、別の調査(平成27年度厚生労働科学研究費補助金(がん対策推進総合事業) 「働くがん患者の職場復帰支援に関する研究」 (研究代表者:国立がん研究センター高橋都))によると、離職時期についても、離職者中治療開始前の段階で離職した者の割合が約4割となっている。
※4 例えば、糖尿病患者の約8%が通院を中断(*1)しており、その理由としては「仕事(学業)の ため、忙しいから」が最も多くなっている(*2)。
*1 厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患等総合研究事業)「糖尿病予防のための戦略研究」の研究課題2(J-DOIT2)「かかりつけ医による2型糖尿病診療を支援するシステムの有効性に関する研究」(研究リーダー 小林正、野田光彦)における「パイロット研究」(実施年:2006年~2007 年)。
横田友紀、菅野咲子、多田純子他「糖尿病外来における通院中断例にみられる意識の調査」糖尿病 50:12 883-886,2007
*2 平成25年厚生労働科学研究(循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策実用化研究事業)「患者データベースに基づく糖尿病の新規合併症マーカーの探索と均てん化に関する研究―合併症予防と受診中断抑止の視点から」(研究代表者:埼玉医科大学病院 野田光彦教授)
企業においては、労働安全衛生法に基づく定期健康診断やストレスチェックをはじめ、労働者の健康確保に向けた様々な取組が行われ、企業の経営層がこれに積極的に関与する動き(いわゆる「健康経営」等への取組もこれに該当する。)も活発化している現状にある。その一方で、疾病に罹患した労働者に対する治療と仕事の両立支援については、社内制度の未整備や支援の経験・ノウハウの不足等により、悩みを抱える企業も多いと考えられる。
このため、疾病に罹患した労働者の就業継続の支援は、治療の各段階における治療・就業の両面における当該患者・労働者の個別事情やニーズを踏まえた個別的でかつ多面的な 対応が求められるため、支援対象者の事情やニーズを継続的に把握しつつ支援をコーディネートする役割を担う人材(以下「両立支援コーディネーター」という。)の配置と、多面的な支援に関わる関係者の効果的な連携体制の構築・運用が不可欠である。
なお、両立支援コーディネーターの育成及び関係者の連携体制の運用においては、疾病治療の各段階を通じて当該本人の主体性を最大限に尊重すべく、その時々の主体的選択に基づいた継続的かつ多面的な支援の組立てが求められることについて、十分な留意が必要である。
また、治療と仕事の両立に係る社会的なニーズについては、いまだ十分に把握されていない部分も多いと考えられることから、こうした潜在的なニーズを含め、支援ニーズを的 確に把握しつつ、人材育成を含む支援体制の整備に取り組むことが必要である。
本施策の対象者について
「仕事」は、労働者としての就業を念頭に置いている。なお、労働契約関係に基づかない職業活動に従事する個人についても、一定の範囲で、本施策における事業を利用可能とするよう検討する。
(対象者の範囲に係る留意事項)
•当該者の疾病の中には、その治療終了後も、経過観察や障害その他就業上の支障等により就業の継続に 当たって適切な支援が必要となる場合があることにも十分留意しつつ、本施策を推進することとする。
•本施策は、疾病を抱える者の治療と仕事の両立を、その者の真に主体的な選択に基づくものである限りにおいて支援するものであり、治療への専念を希望する者に対して、その真意に沿わない就業継続を促すものではない。
本施策推進の基本的な方針
(1)本施策推進の基本的な枠組み
「厚生労働省所管の関係政策分野」には、次のものが挙げられる。
① 労働条件政策(企業における雇用継続支援体制の整備)
② 雇用・人材政策(就職支援及びキャリア形成支援体制の整備)
③ 保健医療政策(病院における支援体制整備、疾病類型ごとの支援の充実、医療保 険による支援、企業と保険者の連携による予防・健康づくりの取組の充実)
④ 福祉・介護政策(雇用就業が困難である間の支援体制の整備)
⑤ 総合政策(両立支援に資する健康経営の充実及び民間保険の普及、中央・地域に ける官民協同体制の整備等)
⑥ 情報政策(EBPM の強化)
「他府省等との連携施策」には、次のものが考えられる。
① 健康経営(経済産業省との連携)
② 健康教育(文部科学省との連携)
③ 医学教育(文部科学省との連携)
④ スポーツ振興(スポーツ庁との連携)
⑤ 所得保障保険の普及(金融庁との連携)
(2)支援拠点の確立と関係者・関係施策の相互連携体制の整備
ア 地域における推進体制の強化、支援拠点の整備等
(ア)都道府県レベルでの地域のニーズ及びリソースに応じた推進体制の整備
「地域両立支援推進チーム」とは、「治療と仕事の両立支援のための「地域両立支 援推進チーム」の設置について」(平成29年5月19日付け基発0519第11号)に基 づき、各都道府県労働局において、当該都道府県における治療と仕事の両立支援に係る関係機関等をメンバーとして構成し運営している協議組織である。
治療と仕事の両立支援の推進は、本施策に関わる多数の関係者の協力が不可欠であ ることから、地域レベルにおいて具体的な支援を実施する地域レベルにおけるこれら 関係者の協力体制の構築とその効果的な運用を図る必要がある。本施策は、これらを 念頭に定められている。
(体制整備に係る留意事項)
• 推進体制の整備と共同的取組が継続・強化されるよう、効果的と認められる場合においては、関係者間の合意文書等の作成(その変更を含む。)及び公表、並びに当該推進体制の下での各年度における対応の実績と今後の方針を確認する会議の開催又は文書の取りまとめ(その公表を含む。)について検討する。
•都道府県及び都道府県労働局は、上記の推進体制の整備に当たり、その中核的な役割を担うものであるが、本施策の性質上、それぞれの行政組織内において、がんのみならず難病その他の疾病担当課との連携等、部局横断的な連携を行うとともに、都道府県及び都道府県労働局それぞれの窓口となる部局等を明確化すること等により、効果的な連携を図ることとする。可能かつ効果的と認められる場合においては、本施策に関する都道府県知事及び都道府県労働局長との相互の連携協力に関 する協定の締結等、連携協力の継続・強化に資する対応を検討する。
•当該連携に当たっては、保健師等の人的リソースの効果的な活用の視点を含め、産業保健施策と職域及び地域保健施策の的確な連携について、特に留意する。
(イ)郡市・圏域レベル等の連携した支援体制の強化
がんその他治療と仕事の両立が特に困難な疾病に係る疾病ごとの相談機関の整備 に当たっては、その円滑な周知と効果的な活用に資するよう、都道府県レベル及び圏域レベルの関係支援機関間の的確な連携の強化に努める必要がある。
(ウ)医療計画等に基づく都道府県レベル、医療圏域レベルでの推進
各都道府県の医療計画に基づき治療と仕事の両立支援を推進する場合には、関係機関間及び関係諸施策間の効果的な連携強化を念頭に置きつつ、施策の対象疾病の拡大等地域のニーズを反映した施策の展開に留意する必要がある。
イ 国における推進体制の整備等
国において取り組むことが効果的であると考えられる事項には、次のものが挙げられる。
①官民の関係者の連携体制の構築
②両立支援コーディネーターのネットワークの構築
③その他スケールメリットを活かして推進すべき事項
このうち、②については、産業保健総合支援センターに設置されている両立支援コーディネーター等のネットワークの構築に努め、全国で支援の均てん化を図る。例えば、事業場と病院が県をまたぐ場合や、両立支援コーディネーターが不在となる地域 への支援を行うことを想定している。 ウ 障害者福祉施策、障害者雇用施策との連携 本施策の対象となる患者・労働者については、その疾病(障害)の状態により、継続的又は一時的に、障害者基本法(昭和45年法律第84号)その他障害者福祉施策及 び障害者雇用施策の関係法令における障害者に該当する場合があり、その場合には本施策及び障害者関係施策の双方の対象となり得るため、当該患者・労働者のニーズや状態に応じて、最も適切な支援が図られるよう関係者の連携その他適切な対応が求められる。なお、症状に波のある疾病に罹患している者の場合には、疾病の治療を受けている 間において適用可能な支援策が変化する場合もあり得ることから、本人の了解の下に 各支援策の行政窓口が連携するとともに、本人に対する適時適切な情報提供、相談支援等に努める必要がある。
(3)支援人材の育成及びトライアングル型支援等の推進
治療と仕事の両立支援室は、治療と仕事の両立支援を担う人材として、両立支援コーディネーターの育成を効果的に推進するとともに、人材育成に係る留意事項に示す人材の育成は各担当部局が効果的に推進する。
(人材育成に係る留意事項)
•企業内における支援人材による支援活動(産業保健部門等)、医療機関における支援人材による支援活動(医療提供体制等)を更に進めるとともに、支援機関(産業保健総合支援センター)のほか、企業や医療機関に所属せずに地域、NPOその他の社会的基盤を拠点として活動する支援人材の整備にも取り組む。
•当面の人材育成については、既に上記支援拠点において、一定の専門職として患者・労働者の支援を行う人材について、治療と仕事の両立支援に必要な幅広い知識を適切に付与し、既存の専門性を効果的に 用いた支援が可能な人材としての養成を進めることとする。
〇医療機関の、看護師、医療ソーシャルワーカー等
〇企業の産業医、産業保健スタッフ、人事労務管理担当者等
〇社会保険労務士、産業カウンセラー、キャリアコンサルタント等
その他、両立支援に関わる若年性認知症支援コーディネーター、ハローワークの就職支援ナビゲーター等の人材を整備し、企業や医療機関、上記の支援人材等との連携を推進する。
(4)支援ノウハウの共有・普及
ガイドラインを周知するとともに、好事例の収集、各種の手引き、広報資材等の充実・ 強化やポータルサイトの開設等に取り組む。
(5)治療と仕事の両立に資する経済的支援のための条件整備
治療と仕事の両立に当たり、疾病及び業務の状況により、休業その他就労しない期間や労働時間を短縮する期間が継続的又は断続的に生じること等により、当該患者・労働者に おいて減収を余儀なくされる場合がある。治療継続中の生活費や治療費の負担の必要性を 考慮すれば、適切な減収補てんや費用支弁のための条件整備が重要である。
健康保険等の傷病手当金の支給限度期間を超えて長期にわたり治療が継続し、その間に おいて減収等が生じる場合については、福利厚生としての民間保険の活用も考えられ、具体的には会社が加入する団体保険で、加入企業の従業員の疾病への罹患に伴う減収分の一 部を長期間にわたり補償する「団体長期障害所得補償保険(GLTD)」等がある。
(6)企業文化の改革・国民的理解の促進
働き方改革実行計画においては、治療と仕事の両立支援に関する会社の意識改革と受入れ体制の整備を進めることとしており、そのためには、従業員の心身の状態及びその変化 に係る多様性の受容と適切な対処を導く企業文化又は企業の社会的行動規範の確立・強化 が必要である。また、近年、企業価値や労働生産性の向上に資するものとして、企業において「健康経営」の取組が進んでいる。
「労働安全マネジメントシステム」について、平成30年3月に国際標準化機構(ISO) が発行した労働安全衛生マネジメントシステムに関する規格(ISO45001)を踏まえ、厚生労働大臣は、工業標準化法(昭和 24 年法律第 185 号)に基づく主務大臣として、JISQ45001(労働安全衛生マネジメントシステム)及びJISQ45100(労働安全衛生マネジメントシステム(安全衛生活動等に対する追加要求事項))を制定している。これらは、ISO45001に おける要求事項に加え、我が国企業の多くがこれまで取り組んできた安全衛生活動、我が国における安全衛生管理体制を要求事項として追加した規格となっており、JISQ45100附属書A(組織が取り組む必要のある事項の決定及びこれを実行するための取組を計画する際の参考事項)においては、働き方改革の対策として、時間外労働の削減、勤務間インターバル制度導入と並んで「治療と仕事の両立に向けた支援(がん就労支援など)」が示さ れている。
国は、国民的理解の促進のために、治療と仕事の両立支援に係る広報活動を積極的に行うこととする。例えば、シンポジウムの開催や、地域セミナーの開催を予定している。
【問い合わせ先】
厚生労働省労働基準局安全衛生部労働衛生課
治療と仕事の両立支援室
電話:03-5253-1111(内線:5507, 5578)