相談員便り
職域における化学物質の自律的管理について:現場が抱える課題と解決策(公文崇相談員)
皆様、はじめまして。労働衛生工学を専門とする相談員の公文 崇(くもん たかし)と申します。 私は総合労働衛生機関である一般財団法人淳風会健康管理センター大安寺に所属し、約20年間にわたり有害物質によるリスク評価や、評価結果に応じた職場環境改善に従事してきました。現場に寄り添い、実践的な支援を心がけています。
さて、現在多くの事業場で対応が進められている「化学物質の自律的管理」ですが、現場からは様々な課題の声が聞かれます。今回は、よくある問題点とその解決策について少しお話しします。
現場が抱える課題・問題点
自律的管理は、事業者自らがリスクを評価し対策を決定する制度です。
しかし、いざ取り組もうとすると、「対象物質が多すぎて把握しきれない」「リスクアセスメントを推進するための十分な知識を持った人材がいない」「簡易ツール等でリスクの存在には気づけても、具体的にどのようなリスク低減措置を実施すべきかが分からない」「有害な作業やラベル、SDSに対する労働者自身の理解度が低い」など、頭を悩ませる事業場は少なくありません。
また、安全衛生業務が一部の担当者に偏って負担が増大し、「とりあえず保護具を着けさせればよい」という表面的な対応になり、本来の目的である「労働者の健康を守る」ための本質的なリスク低減という視点が抜け落ちてしまうことも懸念されています。
実践的な解決策
これらの課題を乗り越えるため、以下の3つのアプローチをご紹介します。
[1]ツールを用いた負担軽減
実際、当センターへのご相談でも「CREATE-SIMPLEとはどのようなものか?」といったお声が未だに聞かれます。厚生労働省の無料ツール「CREATE-SIMPLE(クリエイト・シンプル)」を活用すれば、専門知識がなくてもSDS(安全データシート)や作業条件を入力するだけで簡易的にリスクを見積もることが可能です。
あわせてリスク低減措置を検討する際の支援機能もあり、どこを改善すればリスクを低減できるかのポイントを押さえることができます。
また、有料にはなりますが、SDSのデータ化・一元管理システムなどを利用することで、担当者の事務作業負担の大幅な軽減につなげることも可能です。
[2]本質的なリスク低減と職場改善
安易に個人用保護具に頼るのではなく、より安全な代替物質への変更や局所排気装置の設置(工学的対策)、作業時間の短縮(管理的対策)を優先することが大原則です。
一例として、厚生労働省等が公開している「業種・作業別マニュアル」に記載された措置を適切に実施することで、その作業におけるリスク低減を確実に進めることができます。同時に、作業者の動線などを見直すことで、身体的負担の軽減を含めた総合的な職場環境の改善にもつながります。
[3]外部専門家の積極的な活用
自社だけで対策の判断が難しい場合は、決して一人で抱え込まないでください。当センターの無料訪問サービスをはじめとする専門家の支援を積極的に活用しながら、実効性のある対策を進めてください。
おわりに
化学物質管理への対応は、単なる法令遵守の負担ではなく、安全で働きやすい職場づくりに向けた投資だと捉えています。私は相談員として、今まで培った技術と共に最新の情報も組み合わせながら、皆様の疑問や不安に寄り添い、労働者の健康障害防止につながるような快適な職場づくりに貢献していきたいと考えております。
最後になりますが、10月に「化学物質の自律的管理」に関する研修会を開催します。今回は、化学に苦手意識を持ちながらも「化学物質の自律的管理」に関わる実務担当者の方を対象に優しく解説します。皆様の取り組みを後押しできる内容となっておりますので、ぜひご参加ください。心よりお待ちしております。
■公文相談員について
https://okayamas.johas.go.jp/consultation/advisor-profile/#kumon_takashi
腰痛には「動く」、転倒には「早歩き」!すぐできる運動機能の低下対策(柘植孝浩相談員)
2026年4月の労働安全衛生規則等の改正により、高年齢労働者の安全と健康確保のための措置が事業者の「努力義務」となりました。経験豊かで高度な技術を持つシニア世代の活躍は企業にとって不可欠ですが、一方で60歳以上の労働災害発生件数は増加傾向にあります。この法改正を機に、職場の安全衛生対策の見直しを検討されている事業場も多いのではないでしょうか。
高年齢労働者の労災対策として特に注目されるのが「転倒」と「腰痛」ですが、実はこれらはシニア世代に限った問題ではありません。高年齢労働者を含め、全世代の労働者において休業災害の大きな割合を占めているのが現状です。そして、その根本的な要因として見逃せないのが、日々の運動不足や加齢に伴う「運動機能の低下」です。
年齢を重ねることはもちろんですが、若い世代であっても運動習慣がなければ、筋力やバランス能力、柔軟性は低下していきます。「自分はまだ若いから」「昔と同じように動けるから」という思い込みと、実際の身体能力との間に生じたギャップが、わずかな段差でのつまずきや、不意の動作での腰痛を引き起こすのです。
対策の第一歩は、世代を問わず従業員一人ひとりが「現在の自分の運動機能」を正しく認識することです。
1.科学的根拠に基づく「腰痛予防」
世代を問わず悩む方の多い腰痛への対策は、職場の喫緊の課題です。かつて腰痛は「とにかく安静」とされた時代もありましたが、現在の科学的根拠(エビデンス)では、過度な安静よりも「可能な範囲で身体を動かす(活動性を維持する)」ことが、早期回復と慢性化予防に有効であるとされています。
長時間の同一姿勢を避け、こまめに小休止(マイクロブレイク)を取り入れましょう。特に、座りっぱなしや前かがみの作業が多い場合は、定期的に「腰を反らせる」などの運動を行うことで、腰部の負担を軽減し、腰痛リスクを減少できる可能性があります。
2.「大股での早歩き」で転倒を防ぐ
転倒を防ぐには、床の段差解消などの「環境整備」に加え、「身体機能へのアプローチ」が必須です。
特に加齢に伴う転倒の大きな要因として見逃せないのが、「速筋(とっさの瞬発力を発揮する筋肉)」の低下です。この速筋の維持・向上に効果的で、最も手軽な予防策が「大股での早歩き」です。特別な運動の時間を設けなくても、通勤や職場内の移動時に少し歩幅を広げ、ペースを上げるだけで実践できるため、非常に取り入れやすい取り組みと言えます。また、転倒・腰痛予防を組み合わせた「いきいき健康体操」もお勧めです。
運動機能の維持・改善は一朝一夕にはいきませんが、毎日の「少しの意識と運動」が確実に成果を生みます。高年齢労働者への対策をきっかけに、若手・中堅を含めた取り組みへと広げていくことが、健康で強い組織づくりに繋がります。
当センターでは、仕事中の転倒・腰痛災害の予防、再発防止対策に取り組む事業場へ、理学療法士やアスレチックトレーナーなどの専門家を派遣しております。
ぜひご活用ください。
参考情報
- 転倒・腰痛予防 無料出張サービス:岡山産業保健総合支援センター
https://okayamas.johas.go.jp/visit-a/ - これだけ体操:腰痛ケア.COM(腰痛セルフマネジメント情報サイト)
https://yo2care.com/ - いきいき健康体操:厚生労働省 転倒・腰痛予防用視聴覚教材 ~転倒・腰痛予防!「いきいき健康体操」~
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/information/videokyozai.html
■柘植相談員について
https://okayamas.johas.go.jp/consultation/advisor-profile/#tsuge_takahiro
研修会のご案内
研修会についてはこちら
https://okayamas.johas.go.jp/training/
産業医研修会についてはこちら
https://okayamas.johas.go.jp/category/training/ipt/
今後、「産業医研修会」の受付は、開催日の2か月前の月初(最初の営業日)から開始します。
【Zoom】治療と仕事の両立支援セミナーを開催します
令和8年4月1日から、改正労働施策総合推進法により、職場における「治療と就業の両立支援」の取組が事業主の努力義務となりました。
疾病を抱えながら働く方を支えるためには、事業場と医療機関が本人の意思を尊重し、それぞれの立場を理解しながら連携することが重要です。
本研修では、事業場と医療機関との連携のポイントや、治療と仕事を両立できる職場づくりについて学びます。
多職種・多機関で支援の質を高め、支援の輪を広げる機会として、ぜひご参加ください。
『治療をしながら働くための
当事者・事業場・医療機関をつなぐ両立支援の進め方~産業医科大モデルに学ぶ~』
(産業医科大学 医学部 両立支援科学/産業医科大学病院両立支援科長 准教授 永田 昌子 先生)
令和8年10月6日(火)14:00~16:00
https://okayamas.johas.go.jp/2026-1006r/
【Zoom】Sleep Health Seminar 2026―睡眠管理の重要性と職場での実践ポイント―
睡眠課題への対応と職場での実践ポイントをテーマに、産業保健スタッフの皆さまを対象とした研修を開催します。
健康づくりのための睡眠ガイド2023の実践や、認知行動療法を活用した睡眠衛生指導について、実務に活かせる知識を学べる内容です。
『職域における睡眠管理の重要性~健康づくりのための睡眠ガイド2023の実践~』
(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 睡眠・覚醒障害研究部 部長 栗山 健一 先生)
『睡眠で悩む従業員への支援~産業保健職が知っておきたい不眠対応の実践~』
(東京家政大学 人文学部 心理カウンセリング学科 教授 岡島 義 先生)
2026年10月16日(金)14:00~16:00
https://okayamas.johas.go.jp/2026-1016s/
がん分野勤労者医療フォーラムの開催について
労働者健康安全機構(東京労災病院)では、がんにおける治療と仕事の両立支援の取組状況を踏まえて、今後の両立支援のあり方を検討する「がん分野勤労者医療フォーラム」を今年も開催します。
このセミナーでは、厚生労働省、がん患者団体、企業および労働者健康安全機構(産業保健総合支援センター・労災病院)から両立支援の取組状況について講演した後、両立支援に関する様々な取り組みや課題についてのパネルディスカッションを行います。
両立支援に関心のある医療従事者、産業医・産業保健スタッフ、企業関係者などの皆さまのご参加をお待ちしています。【事前申し込み制・参加費無料】
【日時】
令和8年10月3日(土)13時00分~15時45分
【開催形式】
Web・会場のハイブリッド開催
(1) オンライン:【Zoom】(先着500名)
(2) 会場:TKPガーデンシティPREMIUM品川高輪口(近隣者優先:100名)
詳細と申込はこちらから
https://www.tokyor.johas.go.jp
日本産業保健法学会第6回学術大会
テーマ:変化する労働者像と産業保健法
開催方式:オンライン開催(ライブ配信、オンデマンド配信)
※認定産業医研修会を含めた一部セッションのみ現地開催
日時:
現地・ライブ配信 : 2026年 8月29日(土)・30日(日)
オンデマンド配信 : 2026年 9月14日(月)~10月18日(日)(予定)
会場:KFC Hall & Rooms(国際ファッションセンター)
〒130-0015 東京都墨田区横網1-6-1
プログラム:
・労働者像の変化とは何か -産業保健と法の視点から-
・産業保健の現場でエビデンスを作る
・労働行政の動向
参加申込および問合せ先:https://jaohl.info/
労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について
厚生労働省HP ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/index.html
労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行について
https://www.mhlw.go.jp/content/11300000/001716818.pdf
厚生労働省HP 令和8年度「全国労働衛生週間」を10月に実施
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_74929.html



