1.相談員便り
相談面接を効果的にするには(塩田隆一相談員)
日常的な相談場面に関わる場合、まず必要な情報を収集して評価し、具体的な支援の検討が行われていると思います。これらの流れは面接という形で行われることが多く、面接を効果的に行うために必要な基本姿勢を、バイステックの提唱したケースワークの7原則から紹介していきます。
面接場面では、お互いの態度と情緒による相互作用が生まれることで、面接の方向性に影響を与えています。まずは下記に示した相談者のニーズに応えるようにしてみましょう。
① 一人の個人として認められたい(個別化の原則)
一人ひとりが異なる独自な性質を持っていることを認め、理解に努めます。そして相手に合った支援の方法を適切に使い分けます。
② 自由に感情を表現して解放したい(意図的な感情表出の原則)
相手が自由に感情表現したいというニーズを認識し、目的を持って耳を傾け、場合によって必要な表現を促します。
③ 共感的な反応を得たい(統制された情緒的関与の原則)
相手の感情に対する感受性を持ち、理解に努めます。そして支援の目的を意識しながら、相手の感情に適切な形で反応します。
④ 価値ある人間として受け止められたい(受容の原則)
相手の尊厳と価値を尊重しながら、ありのままの姿を現実として捉えます。
⑤ 一方的に非難されたくない(非審判的態度の原則)
相手の態度や行動について一方的な評価や決め付け、判断をしないようにします。
⑥ 自分で解決方法を選択し決定したい(自己決定の原則)
相手が自ら選択し決定する自由と権利を、認識しながら関わります。
⑦ 自分の秘密を守りたい(秘密保持の原則)
相手が関係性の中で打ち明ける秘密の情報を、きちんと保全します。
以上のニーズがしっかりと受け止められ、適切に反応することによって、相談者との相互作用が進みます。そしてお互いの関係性が深まるにつれ、安心して自身と向き合うようになることで問題の本質がより明確となり、具体的な対応や行動変容に結び付いていきます。これらの原則を意識して関わることで、これからの相談場面に是非役立てていただきたいと思います。
《塩田相談員の研修会》
https://okayamas.johas.go.jp/tag/shiota_ryuichi/
ハインリッヒの法則の再考-間違った引用・解釈・説明の広がり-(田口豊郁相談員)
Herbert William Heinrich 著「産業災害防止論(Industrial accident prevention)」の中に,いわゆる「ハイン
リッヒの法則」が記載されています.
私が労働安全コンサルタントの資格取得を目指して,安全について独学していた頃(1985 年頃,30歳代前半),「ハインリッヒの法則」を学習しました.最近,リスクマネジメントやリスクアセスメントが話題となることが多くなり,「ハインリッヒの法則」に触れた論文,書籍,ネット記事,YouTube 動画等をよく見かけるようになりました.ところが,私が理解していた内容と違う解説・説明を頻繁に見かけるようになりました.そこで,ハインリッヒの原著1) とその訳本2) を読み返しました.本稿では,著作物・ウェブサイト・YouTube 動画等で解説・説明引用されている例と,ハインリッヒの原著の内容の差異を示し,原著に記述されたハインリッヒの法則の正しい内容を解説します.
不正確な引用の代表的な例(図1)として
①原著の図をそのまま引用せず,[1:29:300]の部分のみを引用している(重要なのは「1:29:300 の三角形」の下に図示されている「不安全行動と不安全状態」である.さらに,「[1:29:300]の三角形」の部分だけを引用して,[1:29:300]は330 種類の「事故の程度」の比率としている).
②原図の”no injury accident” を「ヒヤリ・ハット」している”no injury accident (ケガのない事故)”は,事故が発生したが,ケガが無かったという意味である.一方,ヒヤリ・ハットは,「ヒヤッと,ハッと」としたが,事故にならなかった(near miss)という意味である(ヒヤリハットは,ハインリッヒの法則が発表されたずっと後に,日本で発明された言葉である).
――の2例が挙げられます.
――と述べられています.
北川徹三(1982)3)は,ハインリッヒの1:29:300 の法則について,次のように説明しています.『いま,人が通路上に切り残された木の根株につまずいて,転倒事故がくり返して起きたときどのような割合でけがが起きるか,という問題について考えてみよう.ハインリッヒは,統計上,合計330 回の切り株による転倒事故が起きたとき,その中の300 回は無傷で,29 回は軽いけがをし,残りの1 回は骨折のような重い負傷をするという比率を提案した.これを[1:29:300]の法則またはハインリッヒの法則と称している.これは,同じ種類の事故が多数回起きたとき,受ける障害を重傷,軽傷または無傷に分け,それらが出現する確率を表したものである.』
ハインリッヒの法則を要約すると以下のようになります.『ケガ(injury)は,事故(accident)の結果生じる.事故は制御可能であるが,その結果としてのケガの程度やコストは制御困難である(事故の結果としてのケガの程度は偶然に支配され,ある確率で表されるのであって,ケガの程度はコントロールできない).注目すべきは事故であって,ケガではない.ケガの程度に重点をおいて,重篤なケガのあった事故のみを分析して得られた原因を事故防止対策の基礎データとして選択することは誤りである.最大のケガのグループ(300 のケガのない事故)に重要な手がかりがある.ケガのない事故の原因を分析して,これらの事故に関わる「不安全行動・不安全状態」を見つけ出して,予防対策をとることが重要である.』.
[1:29:300]は,事故の重篤度(程度)ではなく,ケガの重篤度(程度)の比率を意味します.「産業災害防止論:ハインリッヒの法則」は,災害予防の古典ともいわれていますが,基本的な考えは,現在の「リスクマネジメント」に十分通用し,学ぶべきものが多いと考えます.また,間違った解釈・説明・引用が拡がっていく一因として,以下のことが考えられます.間違った内容のものが論文・書籍として,あるいはインターネット上に公表されれば,不確かな情報であっても,誰でもネット上に情報発信ができるネットの時代では,コピーアンドペーストで,どんどん広がってしまうことになります.当たり前のことですが,原典を確認して人に伝えるべきです(安易な孫引きはしない).少なくとも,研究者・教育者・専門家は肝に銘じるべきだと考えます.
1) H.W. Heinrich, Dan Petersen, Nestor Roos(1980)Industrial accident prevention: a safety management
approach.5th ed.pp60-66,McGraw-Hille. 初版(1931),2 版(1941),3 版(1950),4 版(1959),最後 に5 版(1980)が出版された.
2) 井上威恭監修,(財)総合安全研究所訳(1982)ハインリッヒ産業災害防止論第5 版.pp59-64, 海 文堂.日本語訳は,初版(1951),3 版(1956),5 版(1982)に出版された.
3) 北川徹三:基本安全工学.pp16-17,海文堂.(1982).
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2.研修会のご案内
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3.産業医研修会
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4.「両立支援コーディネーター基礎研修」について
労働者健康安全機構では、治療と就労の両立支援活動推進のため「両立支援コーディネーター基礎研修」を実施しております。
この研修では、インターネット回線を利用した「動画配信研修」と「WEBライブ講習」を組み合わせた研修を行います。動画配信による研修(20日間程度の期間において任意の時間で視聴可)を全て受講していただいた上で、「WEBライブ講習」開催日にリアルタイム研修を受講していただくことになります。
全てのカリキュラムを履修された方には修了証を発行します。
また、本研修は「認定医療ソーシャルワーカーポイント」の認定ポイント対象研修(11ポイント)です。
今年度の研修日程を当機構ホームページにて公開しております。なお、今年度最後の受講者募集を12月6日(金)13時~12月20日(金)17時に実施いたします。ご興味のある方はぜひご確認のうえ受講をご検討ください。
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次回の第205号は2025年1月15日に配信予定です。