1.相談員便り

これから存在感を増すネパール人労働者(勝田吉彰相談員)

2023年5月16日、東北道での事故の報道がありました。夜間の高速道路でバスが故障し立ち往生、そこにトラックが突っ込んで3名(うち2名がネパール人)が犠牲になってしまったものです。報道によれば乗客40名中39名がネパール人留学生で、午後4時まで授業が終わったあと、午後9時から午前6時までLIXILの工場でアルミサッシ組立の作業に従事していたとのことです1)2)。

この報道で明らかになるのは、深夜の工場で大人数のネパール人留学生が労働している実態です。いま、在日外国人のなかでネパール人の存在感が急速に高まっています。その数はほぼ右肩上がりの上昇でコロナ禍のなかでも減少はわずかです(図1)。

人数
201224071
201331537
201442346
201554775
201667470
201780038
201888951
201996824
202095982
202197109
2022139393
図1「在留管理庁統計 在留外国人数(ネパール)」

在日ベトナム人や中国人が、母国の経済発展とともにチャンスを得られるようになったこと、および日本の賃金の伸び悩んでいることから、帰国が相次ぎ数を減らしつつあるのと比較して、港湾や道路などインフラが整わず国土のほとんどが山岳地帯から成る母国の経済発展が期待できない彼らは日本への定住志向が強いともいわれ3)ていますが、しかし、産業保健現場において先行する中国人やベトナム人に比べて関心はあまり払われてこなかったのが実情です。その理由は、彼らの日本への流入が初期、「技能ビザ」を得てのコックとしての就労が主流であったことにあります。

この「技能ビザ」ではインド・ネパール料理店における就労しか認められず、ここである程度の蓄財を得て料理店の経営者となって「経営者ビザ」に切り替えるというのが初期に主流を占めたコースで、したがって、彼らの職場の多くは個人経営の零細飲食店ということになり、労働者数50人以上の嘱託産業医選任義務が生じることはなく、したがって、産業保健の対象になることが無く、関心が払われる機会もなかったということになります。しかしながら、彼らの入国ルートはコックとしての「技能ビザ」から広がり、いまは留学生数も右肩上がりです。留学後は日本での就職を志向する流れもあり、企業に就職し産業保健の対象となり、我々が産業医や産業看護職として接する機会が今後増えてゆくであろうことが可視化されたのが今回の事故とその報道ともいえます。そういうこともあり、今回はネパール人労働者と接する上で知っておく知識を検討してみました。

まずネパール人と感染症では、まずは結核有病率の高さがあげられます。2020年の結核有病率はourworldindataの数字で人口10万あたり235(日本は12)で、ほぼ同率の前後にはマダガスカル・ボツワナ・南スーダン・ジブチといったアフリカの国々が並んでいます4)。在日ネパール人の間でも結核罹患者が増えており、換気が悪く込み合った環境での労働が多いこと、感染者の多くが職を失うことを恐れて病気を隠している5)現実も記されています。日本政府は、国内での発症者が多い中国、インドネシア、ミャンマー、ネパール、フィリピン、ベトナム国籍者に対して入国前の結核スクリーニングを義務付けていますが6)、この制度が始まったのはごく最近2020年3月ですから、すでに入国していながら産業保健の対象にもならず診断される機会もないままの潜在的感染者も相当数考えられます。また、その他の感染症については、代表的渡航者向けサイトである外務省医療情報・検疫所Forth・CDCtravellershealth・Fitfortravelの推奨ワクチンおよび言及されている感染症を表1に示します。

外務省医療情報検疫所ForthCDC
Travellers health
Fit for travel
推奨ワクチンA型肝炎
B型肝炎
破傷風
日本脳炎
狂犬病
腸チフス
コレラ
A型肝炎
B型肝炎
破傷風
日本脳炎
狂犬病
定期接種
Covid-19
コレラ
A型肝炎
B型肝炎
日本脳炎
マラリア
麻疹
狂犬病
黄熱
定期接種
ジフテリア
A型肝炎
破傷風チフス
B型肝炎
狂犬病
コレラ
日本脳炎
黄熱(流行地から入国)
言及されている感染症感染性胃腸炎
ウイルス性肝炎
狂犬病
デング熱
マラリア
日本脳炎
赤痢
腸チフス
A型肝炎
E型肝炎
カンピロバクター
コレラ
ジアルジア
日本脳炎
クリプトスポリジウム症
アメーバ赤痢
サイクロスポーラ症
三日熱マラリア
デング熱
チクングニヤ熱
リーシュマニア
狂犬病

レプトスピラ
デング熱
リーシュマニア
鳥インフルエンザ
ハンタウイルス
結核
マラリア
デング熱
Covid-19
表1 外務省医療情報・検疫所Forth・CDC travellers health・Fit for travelの推奨ワクチンおよび言及されている感染症

次に文化やメンタル的要素について。ネパール人の81.3%はヒンズー教徒から成ります7)。在日ネパール人数は2012年の24071人から2022年12月の139393人まで6倍増、さらに今、カトマンズ空港の出国カウンターに並んでる人に行先を聞けば口々にJapan!Japan!の大合唱で、日本をめざす留学生や労働者であふれかえっているそうです。2023年時点の在留ネパール人の実数は15万人に達しているとはネパール人学校の校長先生のお話でした注)。

本国の経済発展とともにチャンスも増え、日本を後に帰国し数を減らしている中国人やベトナム人に代わってネパール人労働者に置き換わってゆくなかで、日本の生産現場はかつて経験したことのない課題に直面します。81%がヒンズー教徒のネパール人に大挙して働いていただくのに、カースト問題はどう扱うのか、食の問題はどう扱うのか。カースト制度が生きている国の人々を大挙して現場で雇用する経験はありません(カースト制度の本家本元、在留インド人は4万人あまりとネパール人の1/3にとどまる上、在留資格も教授・経営・高度専門職・技術・人文知識・国際業務などが多くを占め、工場労働者のイメージでは少ない)。均質な集団といわれる日本人でさえ、人間関係に起因するメンタルヘルス問題は産業保健の一大テーマである現在、これはどうでるのでしょうか。食の問題も、よく知られた牛肉のタブーだけではなく、筆者の近所のインド・ネパール料理店のシェフ(ヒマラヤ地方出身)によれば牛肉食べない人95%、豚肉食べる人30%、ベジタリアンも多いとのこと。筆者の産業医先では工場給食として選択肢が3つだけの食事が無料かつ義務なのですが、そういう場で何を配慮するのか。そもそも、なんでも食べる中国人・ベトナム人主体に受け入れてきた日本の産業現場は食のタブーのある人をマスとして受け入れてきた経験がありません。

こうした未経験の課題にどう対峙してゆくのか、文献調査や聞取り調査をまとめて産業保健現場に提供してゆくということを始めているこの頃です。

注)ネパール人学校東京都阿佐ヶ谷に設立されたエベレスト・インターナショナルスクール。ネパールが国外に開設したネパール人学校はここが唯一。

1)https://news.yahoo.co.jp/articles/…
※9/1現在、ページが削除されており、アクセスできません。

2)https://digital.asahi.com/articles/ASR5K6WV4R5KOXIE01J.html?iref=pc_ss_date_article

3)涼天ユウキ:娘さんよく聞けよ、ネパール人には惚れるなよ。:謎だらけのネパール人p1-8amazon電子出版

4)https://ourworldindata.org/grapher/incidence-of-tuberculosis-sdgs?tab=table

5)ゲセイ・ゲワリ厨房で見る夢在日ネパール人コックと家族の悲哀と希望上智大学出版(東京)17-182022

6)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou03/index_00006.html

7)https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/nepal/data.html#section1

《勝田相談員の研修会》
https://okayamas.johas.go.jp/tag/katsuda_yoshiaki/

「Z世代」との付き合い方について(谷原弘之相談員)

Z世代とは

Z世代とは、アメリカの世代分類「GenerationZ(ジェネレーション・ゼット)」から派生した言葉で、10歳代~20歳代前半を指すとされています。この世代は、生まれたときからパソコンや携帯電話が身近にあり、インターネットが利用可能であった世代で、デジタルネイティブとも言われています。

Z世代の特徴は、(1)テレビや雑誌よりもインターネットでの情報収集がメインで、SNSを利用したコミュニケーションを行うこと、(2)多様性を当たり前のこととして受け入れ、「周囲と同じ」ではなく「自分らしさ」を大切にする傾向が強いこと、(3)承認欲求が強く「どう見られるか」を気にすること、(4)自分だけの「推し」がいて、「推し」に元気をもらうこと等があげられます。

今後入社してくるZ世代との付き合い方

先日、大学生に「自宅にテレビを持ってないか、あっても全く観ない人」と尋ねたところ、ちらほら手があがりました。これまで職場での雑談といえば、「〇〇のテレビドラマを観た?」といった話題でしたが、これから入社してくるZ世代にはテレビの話題は通用しないかもしれません。

周囲と同じが嫌で自分らしさを主張したい若年層が増えると、ネイルや服装が派手になったり、ピアスの数が増えるかもしれません。多様性を認めることは大切ですが、あまりにも仕事に影響がでそうな場合は、トラブルを回避するため、改めて服装等の基準の見直しが必要になるかもしれません。

Z世代は、承認欲求が強いと言われています。朝、上司に「おはようございます」とあいさつしたにもかかわらず、上司が返事を返してくれないと落ち込む可能性があります。「なぜそんなことで」と思うかもしれませんが、Z世代はSNSで“いいね”をもらうことに慣れています。あいさつの返事は、この“いいね”と同じように捉える傾向があるため、気持ちよいあいさつがもらえないと、“いいね”がもらえなかったことに通じ、自分は認めてもらえてないと思い込み、勝手に落ち込む可能性があります。あいさつは元気よく返してあげてください。

Z世代には、自分だけの「推し」がいることが普通のようです。「推し」は、韓国アイドル、YouTuber(ユーチューバー)、マンガの登場人物、アニメの声優と多岐にわたります。仕事で嫌なことがあった際、昔は上司や同僚に話を聞いてもらって気持ちを立て直していましたが、彼らにとってはそれよりは「推し」に慰めてもらう方が効果が大きいようです。

Z世代との協働の大切さ

昭和世代は、パソコン等のデジタル機器が徐々に入ってきたため、アナログからデジタルへの移行を経験しています。Z世代は、生まれた時からデジタルしか知らないため、文化や価値観が異なります。近年の経済効果をみると、Z世代は「推し」には惜しみなくお金を使う傾向があるようです。これから売れるものを予測する場合、Z世代の勘は参考になりそうです。ダイバーシティの視点からも、Z世代の文化や価値観を周囲が知った上で、うまく協働していくことは、企業の発展のためには大きい課題といえそうです。

参考資料

Z世代の特徴とは
https://www.dodadsj.com/content/0329_generation-z/
(参照2023-08-01)

Z世代とは
https://souken.shikigaku.jp/15750/
(参照2023-08-01)

《谷原相談員の研修会》
https://okayamas.johas.go.jp/tag/tanihara_hiroyuki/

2.研修会のご案内

研修会についてはこちら
https://okayamas.johas.go.jp/training/

3.産業医研修会

産業医研修会についてはこちら
https://okayamas.johas.go.jp/tag/ss,sj,sk/

4.衛生管理者向けアンケートご協力のお願い

衛生管理者を対象とした支援サービス改善の参考とするため、衛生管理者向け研修会等の支援を行っている全国衛生管理者協議会がアンケートを実施しております。ご協力をお願いいたします。

アンケート(所要時間10分)
https://forms.gle/2DFQ1zFT45DWivwr8

全国衛生管理者協議会
https://www.jisha.or.jp/eisei-kyogikai/index.html

5.母性健康管理研修会のご案内

女性労働者が妊娠・出産期を迎えても安心して働き続けられるようにするためには、男女雇用機会均等法や労働基準法に基づく母性健康管理や母性保護が適切に実施されることが重要です。

この研修会では、会社が妊娠中・出産後の女性労働者へ適切に配慮し対応策を取れるように、母性健康管理に関する法律、制度や具体的事例を元に専門家が解説します。

10/19(木)、11/22(水)、12/5(火)

オンライン配信(Zoomによるオンライン配信予定)です。プログラムは全日程共通です。

働く女性の心とからだの応援サイト「母性健康管理研修会のご案内」
https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/kenshu/

6.がん分野勤労者医療フォーラムの開催について

労働者健康安全機構(東京労災病院)では、がんにおける治療と就労の両立支援の取組状況を踏まえて、今後の両立支援のあり方を検討する「がん分野勤労者医療フォーラム」を開催します。※事前申し込み制・参加無料・Zoom

【日時】
令和5年9月30日(土)13時00分~15時45分

詳細と申込はこちらから
https://www.tokyor.johas.go.jp


次回の第189号は2023年10月初旬に配信予定です。