情報機器作業における労働衛生管理については、昭和60年12月20日に「VDT作業のための労働衛生上の指針について」が定められ、平成14年4月5日に「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドラインについて(VDTガイドライン)」が定められました。
近年のハードウェア・ソフトウェア双方の技術革新により、職場におけるIT化はますます進行しており、情報機器作業を行う労働者の範囲はより広くなり、また、作業形態はより多様化していることから、情報技術の発達への対応及び最新の学術的知見を踏まえ、「VDT作業」を「情報機器作業」に置き換え、令和元年7月12日に、VDTガイドラインは、「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン(情報機器ガイドライン)」に改正されました。
また、令和3年12月1日に、事務所衛生基準規則の照度基準の改正等により、情報機器ガイドラインが一部改正されました。
(2025年2月)
対象となる作業
情報機器ガイドラインの対象となる作業は、事務所において行われる情報機器作業とし、下記「情報機器作業の作業区分」を参考に、作業の実態を踏まえながら、産業医等の専門家の意見を聴きつつ、衛生委員会等で、個々の情報機器作業を区分し、作業内容及び作業時間に応じた労働衛生管理を行うこととする。
情報機器作業の作業区分
作業区分 | 作業区分の定義 | 作業の例 |
作業時間又は作業内容に相当程度拘束性があると考えられるもの (全ての者が健診対象) | 1日に4時間以上情報機器作業を行う者であって、次のいずれかに該当するもの
・作業中は常時ディスプレイを注視する、又は入力装置を操作する必要がある
・作業中、労働者の裁量で適宜休憩を取ることや作業姿勢を変更することが困難である | ・コールセンターで相談対応(その対応録をパソコンに入力)
・モニターによる監視・点検・保守
・パソコンを用いた校正・編集・デザイン
・プログラミング
・CAD作業
・伝票処理
・テープ起こし(音声の文書化作業)
・データ入力 |
上記以外のもの (自覚症状を訴える者のみ健診対象) | 上記以外の情報機器作業対象者 | ・上記の作業で4時間未満のもの
・上記の作業で4時間以上ではあるが労働者の裁量による休憩をとることができるもの
・文書作成作業
・経営等の企画・立案を行う業務(4時間以上のものも含む。)
・主な作業として会議や講演の資料作成を行う業務(4時間以上のものも含む。)
・経理業務(4時間以上のものも含む。)
・庶務業務(4時間以上のものも含む。)
・情報機器を使用した研究(4時間以上のものも含む。) |
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情報機器ガイドラインは、事務所においてディスプレイ(画面表示装置)を備えた情報機器を使用して作業を行う場合の労働衛生管理を対象とするものである。
事務所とは、建築物又はその一部で事務作業に従事する作業者が主として使用するものをいう。ディスプレイを備えた情報機器を対象としており、キーボードについては必ずしも備えていなくとも対象としている。
ディスプレイとしては、液晶ディスプレイ、CRTディスプレイ、有機エレクトロ・ルミネッセンス・ディスプレイ(有機EL)、プラズマ・ディスプレイ、蛍光表示管ディスプレイ、発光ダイオード・ディスプレイなどがある。
情報機器を使用する者については、一般正社員、パートタイマー、派遣労働者、臨時職員等の就業形態の区別なく、作業者が情報機器を使用する場合は全て情報機器ガイドラインの対象とする。
近年、自営型テレワーカーが自宅等において行う情報機器作業等が増加しつつあるが、これらの場合についても、できる限り情報機器ガイドラインに準じて労働衛生管理を行うよう指導等することが望ましい。
なお、自営型テレワークとは、注文者から委託を受け、情報通信機器を活用して主として自宅又は自宅に準じた自ら選択した場所において、成果物の作成又は役務の提供を行う就労をいう(法人形態により行っている場合や他人を使用している場合等を除く。)。
情報機器作業における身体的な特徴は「拘束性」という言葉で表される。これは情報機器作業においては、画面からの情報を正確に得るために頭(眼)の位置が限定されること、さらに、特にキーボードからの入力においては、手の位置も限定されることから、身体の動きが極端に制限されることによる。
また、決められた時間内に処理すべき作業量が多い場合などには精神的な負荷も加わり、心身ともに「拘束性」が強くなる。
「拘束性」が強いかどうかの判断は容易ではない場合が少なからずある。作業者自身が気付かないことも多く、また個人差も大きいことから、衛生管理者や産業医等の客観的な観察も必要である。
4時間以上の作業について
パソコン作業者の調査研究から、1日の作業時間が4~5時間を超えると中枢神経系の疲れを訴える作業者が増大し、また、筋骨格系の疲労が蓄積するという調査報告がある。また、疲労測定に関する別の調査研究からは、点滅光の識別度合いを示すフリッカー値が5%以上の低下を示して疲労を示す対象者が作業者の25%を超えないことを目標とすると、1日の作業時間は300分が望ましいとされている。
作業環境管理
(1) 照明及び採光
●室内は、できる限り明暗の対照が著しくなく、かつ、まぶしさを生じさせないようにすること。
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室内の照明及び採光については、明暗の対照が著しくなく、かつ、まぶしさを生じさせない方法によらなければならない(事務所衛生基準規則第10条第2項参照)。
事務所衛生基準規則第10条(照度等)
事業者は、室の採光及び照明については、明暗の対照が著しくなく、かつ、まぶしさを生じさせない方法によらなければならない。
●ディスプレイを用いる場合の書類上及びキーボード上における照度は300ルクス以上とし、作業しやすい照度とすること。また、ディスプレイ画面の明るさ、書類及びキーボード面における明るさと周辺の明るさの差はなるべく小さくすること。(令和3年12月1日改正)
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「書類上及びキーボード上における照度」とは、書類やキーボードなどに入射する光の明るさをいう。
「ディスプレイ画面の明るさ、書類及びキーボード面における明るさと周辺の明るさとの差はなるべく小さくすること。」とは、瞳孔は明るさに応じてその大きさを調節しており、一般的に、ディスプレイ画面や書類・キーボード面と周辺の明るさの差が大きいと眼の負担が大きくなるので、なるべく明るさの差を小さくすべきであるという趣旨である。
●ディスプレイ画面に直接又は間接的に太陽光等が入射する場合は、必要に応じて窓にブラインド又はカーテン等を設け、適切な明るさとなるようにすること。
●間接照明等のグレア防止用照明器具を用いること。
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「グレア」とは、視野内で過度に輝度が高い点や面が見えることによっておきる不快感や見にくさのことで、光源から直接又は間接に受けるギラギラしたまぶしさなどをいう。
●その他グレアを防止するための有効な措置を講じること。
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情報機器作業従事者がディスプレイを注視している時に、視野内に高輝度の照明器具・窓・壁面や点滅する光源があると、まぶしさを感じたり、ディスプレイに表示される文字や図形が見にくくなったりして、眼疲労の原因となる(眼の明るさに対する調整は網膜の順応や瞳孔の大きさによって行われるが、強い光に対する調整が優先されるためにグレアがあると比較的暗い画面上の文字等は見にくくなる。)。
また、これらがディスプレイ画面上に映り込む場合も同様である。したがって、ディスプレイを置く位置を工夫して、グレアが生じないようにする必要がある。
映り込みがある場合には、ディスプレイ画面の傾きを調整することなどにより、映り込みを少なくすることが必要である。
一般にグレアを防ぐために、近い視野内での輝度比は1:3程度、広い視野内の輝度比は1:10程度が推奨されている。
その他の映り込みを少なくする方法としては、フィルターを取り付ける等の方法があるが、フィルターの性能によっては、表示文字の鮮明度が低下したり、フィルター自身の表面が反射したりすることがあるため、反射率の低いものを選ぶ等の注意が必要である。
(2) 情報機器の選択等
情報機器を事業場に導入する際には、作業者への健康影響を考慮し、作業者が行う作業に最も適した機器を選択し導入すること。
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情報機器には、用途に応じ、デスクトップ型、ノート型、タブレット型、携帯情報端末等の様々な種類があり、その特性等も異なることから、労働者への健康影響を考慮し、作業者が行う作業に最も適した機器を選択し導入する必要がある。
一般に、デスクトップ型は、一定の作業面の広さが必要であるが、キーボードが大きく、自由に移動させることができるため、作業姿勢も拘束されにくく、長時間にわたり作業を行う場合等に適している。
また、ノート型は、キーボードが小さく、自由に移動させることができないため、作業姿勢も拘束され易いが、作業面の広さは少なくて済むため、作業面の広さが限られている場合等に適している。
ただし、作業の内容、作業量等のその他の考慮すべき事項も考えられるため、情報機器の導入に当たっては、必要に応じ関係作業者等に意見を聞くことが望ましい。
①デスクトップ型機器
ディスプレイ
ディスプレイは、次の要件を満たすものを用いること。
- 目的とする情報機器作業を負担なく遂行できる画面サイズであること。
- ディスプレイ画面上の輝度又はコントラストは作業者が容易に調整できるものであることが望ましい。
- 必要に応じ、作業環境及び作業内容等に適した反射処理をしたものであること。
- ディスプレイ画面の位置、前後の傾き、左右の向き等を調整できるものであることが望ましい。
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最近では多くの種類の情報機器用ディスプレイが存在する。通常の情報機器作業においては、市場における一般的なディスプレイで支障なく作業を遂行することができると思われるが、CADや定型書式への入力等の特定の作業において、画面が小さい、又は表示容量が低い場合に、情報機器作業者に過度の負担をもたらす場合があることから、画面サイズは目的とする作業に応じた適切な大きさのものを用いる必要がある。
反射防止型ディスプレイは、表面につや消し処理を行って散乱性をもたせたものと、多層薄膜コーティングにより反射そのものを減らすものとに大別されるが、前者は外光が明る過ぎると、画面全体が光るようになり、後者は、汚れやすいという欠点があるので、注意を要する。
ディスプレイ画面上の輝度又はコントラストの調整方法は、情報機器によって異なるので注意を要する。
代表的な例として次のような方法がある。
・ディスプレイ本体上のボタンやノブ等による方法
・キーボード上のボタン又はキー操作による方法
・ソフトウェアによる方法
ディスプレイの人間工学上の要求事項の詳細については、ISO 9241-303(Ergonomic requirements for electronic visual displays)をはじめとする、9241-300シリーズ等を参照されたい。
なお、情報機器から発せられる青色光(ブルーライト)は、概日リズムに影響を与えるとの研究があり、睡眠障害等の懸念が考えられる場合には、その使用に留意する必要がある。
入力機器(キーボード、マウス等)
入力機器は、次の要件を満たすものを用いること。
- キーボードは、ディスプレイから分離して、その位置が作業者によって調整できることが望ましい。
- キーボードのキーは、文字が明瞭で読みやすく、キーの大きさ及びキーの数がキー操作を行うために適切であること。
- マウスは、使用する者の手に適した形状及び大きさで、持ちやすく操作がしやすいこと。
- キーボードのキー及びマウスのボタンは、押下深さ(ストローク)及び押下力が適当であり、操作したことを作業者が知覚し得ることが望ましい。
・目的とする情報機器作業に適した入力機器を使用できるようにすること。
・必要に応じ、パームレスト(リストレスト)を利用できるようにすること。
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入力機器としては、キーボード、マウスが代表的であるが、マウス以外のポインティングデバイス(トラックボール、パッド、スティック等)、音声入力、イメージスキャナー、バーコードリーダー等がある。また画面を直接指でタッチするタッチパネル方式の機器も入力機器の一種である。
これらの入力機器を利用することによって、情報機器作業を効率化でき、作業者の負担を大きく軽減できる場合もあるので、目的とする情報機器作業に適した入力機器を使用できるようにする必要がある。
キーボード及びその他の入力機器についての人間工学上の要求事項の詳細については、JIS Z8514(人間工学-視覚表示装置を用いるオフィス作業-キーボードの要求事項)、JIS Z8519(人間工学-視覚表示装置を用いるオフィス作業-非キーボードの入力装置の要求事項)等を参照されたい。また、最新の入力装置に関する情報は、ISO 9241-400シリーズ等を参照されたい。
②ノート型機器
●適した機器の使用
目的とする情報機器作業に適したノート型機器を適した状態で使用させること。
●ディスプレイ
ディスプレイは、上記①デスクトップ型機器の『ディスプレイ』の要件に適合したものを用いること。ただし、ノート型機器は、通常、ディスプレイとキーボードを分離できないので、長時間、情報機器作業を行う場合については、作業の内容に応じ外付けディスプレイなども使用することが望ましい。
●入力機器(キーボード、マウス等)
入力機器は、上記①デスクトップ型機器の『入力機器(キーボード、マウス等)』の要件に適合したものを用いること。ただし、ノート型機器は、通常、ディスプレイとキーボードを分離できないので、小型のノート型機器で長時間の情報機器作業を行う場合については、外付けキーボードを使用することが望ましい。
●マウス等の使用
必要に応じて、マウス等を利用できるようにすることが望ましい。
●テンキー入力機器の使用
数字を入力する作業が多い場合は、テンキー入力機器を利用できるようにすることが望ましい。
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解説
ノート型機器には、携帯性を重視した設計(画面が小さい、キーストロークが短い、キーピッチが小さいなど)のものがあり、それらを長時間の情報機器作業に使用する場合には、人間工学上の配慮が必要となる。
小さいキーボードを、手が大きい作業者が使用する場合には、連続キー入力作業で負担が大きくなることがあり、小型の画面は文字が小さく視距離が短くなりすぎる傾向がある。また、キーボードとディスプレイが一体となった構成は、デスクトップ型に比べてディスプレイと頭の位置及びキーボード等入力装置と手の位置の関係において自由度が小さくなるため、作業者に特定の拘束姿勢を強いることや過度の緊張を招くことなどがある。したがって、使用する作業者や目的とする情報機器作業に適した機器を使用させる必要がある。
多くのノート型機器は外付けのディスプレイ、キーボード、マウス、テンキー入力機器などを接続し、利用することが可能であり、小型のノート型機器で長時間の情報機器作業を行う場合には、これらの外付け機器を利用することが望ましい。
ノート型機器の使用時の留意点については、日本人間工学会の「ノートパソコン利用の人間工学ガイドライン」が参考になる。
③タブレット、スマートフォン等
●適した機器の使用
目的とする情報機器作業に適した機器を適した状態で使用させること
●オプション機器の使用
長時間、タブレット型機器等を用いた作業を行う場合には、作業の内容に応じ適切なオプション機器(ディスプレイ、キーボード、マウス等)を適切な配置で利用できるようにすることが望ましい。
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労働形態の多様化とICT(情報通信技術)の進展に伴い、移動中でもタブレットやスマートフォンを用いて仕事をする機会が増している。これらの機器は、小型化と携帯性を重視して設計されているため、職場や自営型テレワーク等において長時間にわたり使用するには必ずしも十分とはいえない。
これらの機器の人間工学上の特徴を踏まえ、ガイドラインでは長時間の情報機器作業に使用することはできる限り避けることが望ましいこととした。
タブレット、スマートフォン等はこれらの使用と姿勢との関係において、その「拘束性」はパソコンでのキーボード入力作業ほど強くはないと考えられるが、使用形態と健康影響に関する知見は少ない。今後注意深い観察が必要である。
④その他の情報機器
上記①デスクトップ型機器・②ノート型機器・③タブレット、スマートフォン等以外の新しい表示装置や入力機器等を導入し、使用する場合には、作業者への健康影響を十分に考慮して、目的とする情報機器作業に適した機器を適した状態で使用させること。
⑤ソフトウェア
ソフトウェアは、次の要件を満たすものを用いることが望ましい。
- 目的とする情報機器作業の内容、作業者の技能、能力等に適合したものであること。
- 作業者の求めに応じて、作業者に対して、適切な説明が与えられるものであること。
- 作業上の必要性、作業者の技能、好み等に応じて、インターフェイス用のソフトウェアの設定が容易に変更可能なものであること。
- 操作ミス等によりデータ等が消去された場合に容易に復元可能なものであること。
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(イ) ソフトウェアは、作業者の作業性及び作業負担に大きく影響するため、目的とする情報機器作業の内容、利用する作業者の技能、能力等に合ったものを使用することが望ましい。
(ロ) 作業者が作業中に、ヘルプ機能を用いること等により、操作方法等について随時参照できることが望ましい。
(ハ) 作業者が行う作業の内容や作業者の技能の程度、好み等により、作業者が作業を行いやすい文字等の大きさ、色、行間隔等は異なるので、それらの設定は、作業者が容易に変更可能であることが望ましい。
(ニ) 作業者の操作の誤りにより、それまでに入力した膨大な量のデータが消失し、復元不可能な場合、作業者に大きな負担を与えることとなるので、一旦入力したデータについては、容易に復元可能であることが望ましい。
ただし、作業者の特性や情報機器作業の目的に合ったものであるかどうかなどの判断が難しいという面もある。以下に判断の一助となる三つのJISを示すので、参照されたい。
・JIS Z8520(人間工学-視覚表示装置を用いるオフィス作業-対話の原則)
VDT対話の設計及び評価のための7つの原則が示されており、使用するソフトウェアがそれらに合致しているかの判断に利用できる。
・JIS Z8521(人間工学-視覚表示装置を用いるオフィス作業-使用性についての手引)
使用性(ユーザビリティ)の考え方及び測定方法について示されている。使用するソフトウェアは、作業者に受け入れられる水準以上のユーザビリティが確認されていることが望ましい。
・JIS X25062(システム及びソフトウェア製品の品質要求及び評価(SquaRE)-使用性の試験報告書のための工業共通様式)
使用性を判断するための試験報告書の共通様式であり、国際規格ISO/IEC 25062 の翻訳JISである。ソフトウェア選定の一助となる。
⑥椅子
椅子は、次の要件を満たすものを用いること。
- 安定しており、かつ、容易に移動できること。
- 床からの座面の高さは、作業者の体形に合わせて、適切な状態に調整できること。
- 複数の作業者が交替で同一の椅子を使用する場合には、高さの調整が容易であり、調整中に座面が落下しない構造であること。
- 適当な背もたれを有していること。また、背もたれは、傾きを調整できることが望ましい。
- 必要に応じて適当な長さの肘掛けを有していること。
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個人専用の椅子については、作業者の体形、好み等に合わせて適切に調整できるものがよい。
複数の作業者が交替で同一の椅子を使用する場合は、作業者一人ひとりが自分の体形に合った高さに容易に調整できるよう、ワンタッチ式など調整が容易なものがよい。
床からの座面の高さの調整範囲は、大部分の作業者の体形に合わせることができるよう、37cm~43cm程度の範囲で調整できることが望ましい。
ここでいう床から座面の高さとは、実際に座って、クッション材が2cm~3cm圧縮された状態の座面の高さのことである。市販されている椅子の座面高の表示は、クッション材が圧縮されていない外形表面の高さが一般的であるので注意を要する。
床から座面の高さの調整範囲は、広いほど、多くの作業者に適応できるが、あまりに広い調整範囲を有する椅子は大型になりがちで適当でないので、ここでは実用的な調整範囲を示した。椅子の調整範囲で調整できない場合については、フットレストの利用等必要に応じて対応することが望ましい。
⑦机又は作業台
●机又は作業台は、次の要件を満たすものを用いること。
- 作業面は、キーボード、書類、マウスその他情報機器作業に必要なものが適切に配置できる広さであること。
- 作業者の脚の周囲の空間は、情報機器作業中に脚が窮屈でない大きさのものであること。
- 机又は作業台の高さについては、次によること。
●高さの調整ができない机又は作業台を使用する場合、床からの高さは作業者の体形にあった高さとすること。
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高さ調整ができない机又は作業台を使用する場合は、床からの高さはおおむね65cm~70cm程度のものを用いることが望ましい。65cm及び70cmがそれぞれ女性及び男性が使用する場合に必要な高さのほぼ平均値となるためである。
●高さの調整が可能な机又は作業台を使用する場合、床からの高さは作業者の体形にあった高さに調整できること。
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高さ調整が可能な机又は作業台を使用する場合の調整範囲は、大部分の作業者の体形に合わせることができるよう、床からの高さは60cm~72cm程度の範囲で調整できることが望ましい。
床からの高さの調整範囲は、椅子と同様に実用的な調整範囲を示した。調整範囲で調整できない場合については、椅子の場合と同様、必要に応じて対応することが望ましい。
高さ調整が可能な机又は作業台を使用する場合には、椅子の高さを最適に調整した後、机の高さを調整するとよい。
大型ディスプレイを使用する場合は、十分な奥行きの机を使用し、作業者の体にねじれを生じさせないよう、またディスプレイを見上げないように、ディスプレイを配置すること。また、脚の周囲の空間に荷物等があり、脚が窮屈な場合は、取り除くこと。
椅子、机又は作業台に関する人間工学上の要求事項の詳細は、JIS Z8515(人間工学-視覚表示装置を用いるオフィス作業-ワークステーションのレイアウト及び姿勢の要求事項)を参照されたい。
情報機器作業においては、機器と作業者の姿勢の関係を優先して机及び椅子を選択及び調整することが望ましい。特に、ノート型機器は一般の事務机上で使用することが多く、机・椅子の組み合わせ及び調整は長時間作業の疲労軽減に重要な因子となりうる。作業者自身が最も作業がしやすい姿勢をとるために机や椅子の調整を行うことも必要である。
(3) 騒音の低減措置
情報機器及び周辺機器から不快な騒音が発生する場合には、騒音の低減措置を講じること。
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このような騒音の低減を図るためには、遮音及び吸音の機能を有するつい立てで取り囲む、機器そのものを消音ボックスに収納する、床にカーペットを敷く、低騒音型機器を使用するなどの方法もある。
情報機器作業を行う場所付近で、騒音を発する事務用機器を使用する場合には、必要に応じ、騒音伝ぱの防止措置を講じること(事務所衛生基準規則第11条及び第12条参照)。
参考:
事務所衛生基準規則第11条(騒音及び振動の防止)
事業者は、室内の労働者に有害な影響を及ぼすおそれのある騒音又は振動について、隔壁を設ける等その伝ぱを防止するため必要な措置を講ずるようにしなければならない。
事務所衛生基準規則第12条(騒音伝ぱの防止)
事業者は、タイプライターその他の事務用機器で騒音を発するものを、5台以上集中して同時に使用するときは、騒音の伝ぱを防止するため、遮音及び吸音の機能をもつ天井及び壁で区画された専用の作業室を設けなければならない。
(4)その他
換気、温度及び湿度の調整、空気調和、静電気除去、休憩等のための設備等について事務所衛生基準規則に定める措置等を講じること。
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事務所の換気、温度、湿度及び空気調和(空調)については、事務所衛生基準規則第3条から第5条までを参照されたい。
また、休憩等のための設備については、事務所衛生基準規則第19条から第21条までを参照されたい。
参考:
事務所衛生基準規則第3条(換気)
●事業者は、室においては、窓その他の開口部の直接外気に向って開放することができる部分の面積が、常時床面積の20分の1以上になるようにしなければならない。ただし、換気が十分に行なわれる性能を有する設備を設けたときは、この限りでない。
●事業者は、室における一酸化炭素及び二酸化炭素の含有率(1気圧、温度25度とした場合の空気中に占める当該ガスの容積の割合をいう。)を、それぞれ100万分の50以下及び100万分の5000以下としなければならない。
事務所衛生基準規則第4条(温度)
●事業者は、室の気温が10度以下の場合は、暖房する等適当な温度調節の措置を講じなければならない。
●事業者は、室を冷房する場合は、当該室の気温を外気温より著しく低くしてはならない。ただし、電子計算機等を設置する室において、その作業者に保温のための衣類等を着用させた場合は、この限りでない。
事務所衛生基準規則第5条(空気調和設備等による調整)
●事業者は、空気調和設備(空気を浄化し、その温度、湿度及び流量を調節して供給することができる設備をいう。)又は機械換気設備(空気を浄化し、その流量を調節して供給することができる設備をいう。)を設けている場合は、室に供給される空気が、次の各号に適合するように、当該設備を調整しなければならない。
・浮遊粉じん量(1気圧、温度25度とした場合の当該空気1立方メートル中に含まれる浮遊粉じんの重量をいう。)が、0.15ミリグラム以下であること。
・当該空気中に占める一酸化炭素及び二酸化炭素の含有率が、それぞれ100万分の10以下(外気が汚染されているために、一酸化炭素の含有率が100万分の10以下の空気を供給することが困難な場合は、100万分の20以下)及び100万分の1000以下であること。
・ホルムアルデヒドの量(1気圧、温度25度とした場合の当該空気1立方メートル中に含まれるホルムアルデヒドの重量をいう。以下同じ。)が、0.1ミリグラム以下であること。
●事業者は、前項の設備により室に流入する空気が、特定の労働者に直接、継続して及ばないようにし、かつ、室の気流を0.5メートル毎秒以下としなければならない。
●事業者は、空気調和設備を設けている場合は、室の気温が18度以上28度以下及び相対湿度が40パーセント以上70パーセント以下になるように努めなければならない。
事務所衛生基準規則第19条(休憩の設備)
事業者は、労働者が有効に利用することができる休憩の設備を設けるように努めなければならない。
事務所衛生基準規則第20条(睡眠又は仮眠の設備)
●事業者は、夜間、労働者に睡眠を与える必要のあるとき、又は労働者が就業の途中に仮眠することのできる機会のあるときは、適当な睡眠又は仮眠の場所を、男性用と女性用に区別して設けなければならない。
●事業者は、前項の場所には、寝具その他の必要な用品を備え、かつ、疾病感染を予防する措置を講じなければならない。
事務所衛生基準規則第21条(休養室等)
事業者は、常時50人以上又は常時女性30人以上の労働者を使用するときは、労働者が臥床することのできる休養室又は休養所を、男性用と女性用に区別して設けなければならない。
作業管理
(1)作業時間等
①1日の作業時間
情報機器作業が過度に長時間にわたり行われることのないように指導すること。
なお、「作業時間又は作業内容に相当程度拘束性があると考えられるもの全ての者が健診対象)」に該当する者の場合、視覚負担をはじめとする心身の負担を軽減するため、他の作業を組み込むこと又は他の作業とのローテーションを実施することなどにより、1日の連続情報機器作業時間が短くなるように配慮すること。
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一日の作業時間については、これまでの経験から、職場において情報機器作業に関して適切な労働衛生管理を行うとともに、各人が自らの健康の維持管理に努めれば、大多数の労働者の健康を保持できることが明らかになっており、他方、各事業場における情報機器作業の態様が様々で作業者への負荷が一様でなく、また、情報機器作業が健康に及ぼす影響は非常に個人差が大きいこともあり、ガイドラインでは上限を設けていない。
しかしながら、管理者は、適切な作業時間管理を行い、情報機器作業が過度に長時間にわたり行われることのないようにする必要がある。
「相当程度拘束性があると考えられる作業」の情報機器作業については、一般に自由裁量度が少なく、疲労も大きいため、それ以外の作業を組み込むなどにより、一日の連続情報機器作業時間が短くなるように配慮する必要がある。
②一連続作業時間及び作業休止時間
一連続作業時間が1時間を超えないようにし、次の連続作業までの間に10分~15分の作業休止時間を設け、かつ、一連続作業時間内において1回~2回程度の小休止を設けるよう指導すること。
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●作業休止時間は、ディスプレイ画面の注視、キー操作又は一定の姿勢を長時間持続することによって生じる眼、頸、肩、腰背部、上肢等への負担による疲労を防止することを目的とするものである。連続作業後、一旦情報機器作業を中止し、リラックスして遠くの景色を眺めたり、眼を閉じたり、身体の各部のストレッチなどの運動を行ったり、他の業務を行ったりするための時間であり、いわゆる休憩時間ではない。
一連続作業時間の目安として1時間としているのは、パソコン作業がおおよそ1時間以上連続した場合には誤入力の頻度が増すことやフリッカー値が低下する(フリッカー値とは光の点滅頻度のことで、この値の低下は覚醒水準の低下に起因する視覚機能の低下を反映していると考えられる。)、すなわち大脳の疲労と関連する指標値に変化が見られたという研究結果に基づいている。
●小休止とは、一連続作業時間の途中で取る1分~2分程度の作業休止のことである。時間を定めないで、作業者が自由に取れるようにすること。
③業務量への配慮
作業者の疲労の蓄積を防止するため、個々の作業者の特性を十分に配慮した無理のない適度な業務量となるよう配慮すること。
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個々の作業者の能力を超えた業務量の作業を指示した場合、作業者は作業を休止したくても休止することができず、無理な連続作業を行わざるを得ないこととなるため、業務計画を策定するに当たっては、無理のない適度な業務量となるよう配慮する必要がある。
(2)調整
①作業姿勢
座位のほか、時折立位を交えて作業することが望ましく、座位においては、次の状態によること。
- イ 椅子に深く腰をかけて背もたれに背を十分にあて、履き物の足裏全体が床に接した姿勢を基本とすること。また、十分な広さを有し、かつ、すべりにくい足台を必要に応じて備えること。
- ロ 椅子と大腿部膝側背面との間には手指が押し入る程度のゆとりがあり、大腿部に無理な圧力が加わらないようにすること。
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デスクトップ型パソコンで好ましいとされている作業姿勢は、ディスプレイの上端が眼の位置より下になるようにし、視距離は40cm以上確保すること。上腕と前腕の角度は90度以上で、キーボードに自然に手が届くようにする、とされている。また、これまでの調査研究から[1]首のこりや痛みは頭の前傾が大きくなると増加し、[2]打鍵の際に腕や手首を乗せる支持台がないと肩のこりや痛みは増加し、[3]手の側屈(尺側変位)が大きいと腕の疲れや痛みが増加するといわれている。
一方、ディスプレイとキーボードが一体になっているノート型パソコンを一般の事務机上で使用する際には上述のような姿勢をとることは容易ではないが、上述の「好ましい姿勢」を参考にしながら個人差も考慮した対応が必要になろう。
イにおいて、必要に応じ、足台を備えることとしたのは、足台は、足を疲れさせないだけでなく、背中や腰の疲れを防ぐ効果も有するためである。
②ディスプレイ
おおむね40cm以上の視距離が確保できるようにし、この距離で見やすいように必要に応じて適切な眼鏡による矯正を行うこと。
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ディスプレイ画面と眼の視距離をおおむね40cm以上としたのは、眼に負担をかけないで画面を明視することができ、かつ、眼とキーボードや書類との距離の間に極端な差が生じないようにするためである。
ディスプレイは、その画面の上端が眼の高さとほぼ同じか、やや下になる高さにすることが望ましい。
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ディスプレイが大画面の場合は、画面の上端が眼の位置よりも上になる場合があるが、ディスプレイをパソコン本体の上に置かないようにすること等により、できる限り眼の高さよりも高くならないようにすることが望ましいことを示したものである。
ディスプレイ画面とキーボード又は書類との視距離の差が極端に大きくなく、かつ、適切な視野範囲になるようにすること。
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ディスプレイ画面とキーボード又は書類を眼からほぼ等しい距離にすることとしたのは、情報機器作業における眼球運動から生じる眼疲労(視線を移動させるたびにいちいち焦点調節を行っていると眼疲労を招く)を軽減するためである。
ディスプレイは、作業者にとって好ましい位置、角度、明るさ等に調整すること。
▼クリックで解説▼
調整では、個々の作業者ごとに好ましい位置、角度、明るさ等が異なることから各自が調整する必要があることを徹底すべきである。
また、個々の作業者においても、時間帯によって室内の明るさが変化する場合、作業内容の変更やディスプレイ上の表示情報が変化する場合、慣れや疲れ等によって最適なレベルが変化する場合等においては、条件の変更が必要となることもあるので、1日に何回でも必要に応じて調整することが望ましい。
ディスプレイに表示する文字の大きさは、小さすぎないように配慮し、文字高さがおおむね3mm以上とするのが望ましい。
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文字の大きさは、視距離によって最適な大きさが変動するため、視角(単位は分:1度の60分の1)でその要求値が決められている。
英数文字の場合には、読みやすさを確保するためには一般に16分以上がよく、20分~22分が特に推奨される。また、漢字などを表示する場合には一般に20分以上がよく、25分~35分程度が特に推奨される。視距離50cmで、20分が約2.9mmとなることから、ここではおおむね3mm以上とした。一般に文字の大きさは、作業者が、10ポイント、12ポイントなどと自由に設定できる場合が多いが、そのポイント数はディスプレイのサイズや種々の設定条件によって、必ずしも文字の物理的な大きさとは一致しないことに留意すること。
③入力機器マウス等のポインティングデバイスにおけるポインタの速度、カーソルの移動速度等
作業者の技能、好み等に応じて適切な速度に調整すること。
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多くの情報機器において、マウス等のポインティングデバイスのポインタの速度、ダブルクリックのタイミング等を変更することができるので、これを活用し、作業者の技能、好み等に応じた適切な速度に調整する必要がある。
④ソフトウェア
表示容量、表示色数、文字等の大きさ及び形状、背景、文字間隔、行間隔等は、作業の内容、作業者の技能等に応じて、個別に適切なレベルに調整すること。
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最近の情報機器はソフトウェアによって、種々の条件の設定・調整が可能であるが、それらの方法が知られていないために、適切でない条件で使用している例が少なくない。
ここに掲げているようなソフトウェアによる設定を徹底することによって、情報機器作業の改善を図ることが可能であるため、作業者への教育などで周知する必要がある。
情報機器等及び作業環境の維持管理
(1)日常の点検
作業者には、日常の業務の一環として、作業開始前又は一日の適当な時間帯に、採光、グレアの防止、換気、静電気除去等について点検させるほか、ディスプレイ、キーボード、マウス、椅子、机又は作業台等の点検を行わせること。
(2)定期点検
照明及び採光、グレアの防止、騒音の低減、換気、温度及び湿度の調整、空気調和、静電気除去等の措置状況及びディスプレイ、キーボード、マウス、椅子、机又は作業台等の調整状況について定期に点検すること。
(3)清掃
日常及び定期に作業場所、情報機器等の清掃を行わせ、常に適正な状態に保持すること。
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●情報機器等及び作業環境を良好に維持管理するには、点検項目を定め、定期的に点検、清掃等を実施する必要があるので、情報機器ガイドラインでこの趣旨を明確にしたものである。
●点検及び清掃を実施する上での留意事項を次に掲げるので、参考にされたい。
・照明、採光、グレア防止措置などが適切に設定されていたとしても、作業場所の変更などにより、当初の条件が満たされなくなることがあるので、基準に適合しているか否かの点検を行う際、留意すること。
・ディスプレイ画面やフィルターには、ほこりや手あかが付着して、画面が見えにくくなったり、室内の湿度が低下すると静電気発生の原因となることもあるので、情報機器作業従事者の日常業務の一環として、湿った布等で画面をきれいにすること。
また、マウスはゴミ等の付着によるカーソル移動の困難をなくすように適切に清掃を行うこと。
・日常の清掃を行う際に、常に情報機器や机又は作業台、さらには作業場所の整理整頓に努めるとともに、これらを適正な状態に保持すること。
健康管理
(1)健康診断
①配置前健康診断
新たに情報機器作業を行うこととなった作業者(再配置の者を含む。以下同じ。)の配置前の健康状態を把握し、その後の健康管理を適正に進めるため、次の項目について必要な調査又は検査を実施すること。
- 新たに、情報機器作業の作業区分の「新たに作業時間又は作業内容に相当程度拘束性があると考えられるもの(全ての者が健診対象)」に該当することとなった作業者には、全ての対象者に実施すること。
- 新たに、情報機器作業の作業区分の「上記以外のもの(自覚症状を訴える者のみ健診対象)」に該当することとなった作業者には、自覚症状を訴える者を対象に実施すること。
なお、配置前健康診断を行う前後に一般健康診断(労働安全衛生法第66条第1項に定めるものをいう。)が実施される場合は、一般健康診断と併せて実施して差し支えない。
●業務歴の調査
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問診票等を用い、過去の情報機器作業業務歴等について把握する。
●既往歴の調査
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問診票等を用い、既往歴について把握する。
●自覚症状の有無の調査
- 眼疲労を主とする視器に関する症状
- 上肢、頸肩腕部及び腰背部を主とする筋骨格系の症状
- ストレスに関する症状
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業務歴及び既往歴の調査の結果を参考にしながら、問診票等を用いて問診により行う。自覚症状の有無の調査は、情報機器作業による視覚負担、上肢の動的又は静的筋労作等、心身に与える影響に着目して行う必要がある。
問診項目としては、眼の疲れ・眼の乾き・眼の異物感・遠くが見づらい・近くが見づらい、首・肩のこり、頭痛、背中の痛み、腰痛、腕の痛み、手指の痛み、手指のしびれ、手の脱力感、ストレス症状等の自覚症状の有無等があげられる。また、眼の疲労等に関しては、眼科定期受診、及び点眼薬など治療薬の継続的な使用の有無も聴取する。軽快のきざしが見えず自覚症状が継続している場合は、当該症状に応じて、眼科学的検査又は筋骨格系に関する検査を行い、その結果に基づき、医師の判断により、保健指導、作業指導等を実施し、又は専門医の精密検査等を受けるように指導することとする。
筋骨格系疾患については、自覚症状が検査所見よりも先行することが多いことに留意すること。
ストレス等の症状が認められた場合については、必要に応じて、カウンセリングの実施、精神科医や心療内科医への受診勧奨等の事後措置を行うこと。なお、健康診断の実施場所における受診者のプライバシー保護についての配慮を十分に行う必要がある。
●眼科学的検査
(a) 視力検査
・遠見視力の検査
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ふだん遠方視時(外を歩くなど)の屈折状態(裸眼、眼鏡、コンタクトレンズ)で検査を行う。
・近見視力の検査
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ふだんの作業時の屈折状態(裸眼、眼鏡、コンタクトレンズ)で検査を行う。通常、50cm視力を測定するが、普段の情報機器作業距離がより近い場合には30cm視力を測定することが望ましい。
近見視力の検査はディスプレイの視距離に相当する視力が適正なレベルとなるよう指導することが目的であり、近見視力は、片眼視力(裸眼又は矯正)で両眼ともおおむね0.5以上となることが望ましい。
(b) 屈折検査
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裸眼又は眼鏡装用者は、裸眼での屈折状態をオートレフラクトメータにて測定する。コンタクトレンズ装用者は、着脱可能な場合は裸眼で、困難な場合はレンズ装用下で測定する。
また、使用眼鏡の度数測定をレンズメーターで行う。コンタクトレンズ装用者は、可能であれば使用レンズの度数を聴取する。
検査の結果、現在の矯正状態かつ情報機器作業距離で十分な視力が得られていないと判断された場合は、配置前に眼科医の受診を指導すること。
なお、問診において特に異常が認められず、5m視力、近見視力がいずれも、片眼視力(裸眼又は矯正)で両眼ともおおむね0.5以上が保持されている者については、屈折検査を省略して差し支えない。
(c) 自覚症状により目の疲労を訴える者に対しては、眼位検査、調節機能検査
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眼位検査については、交代遮蔽試験又は眼位検査付き視力計で斜位の有無を検査する。
調節機能検査については、ふだん情報機器作業を行っている矯正状態での近点距離を測定する。
前記(a)~(c)以外の高度な眼科学的検査等については、専門医に依頼すること。
また、ドライアイは、情報機器作業により症状が発現する可能性があるため、問診において眼乾燥感、異物感、痛み、間欠的な見づらさを訴える場合は、程度に応じて専門医の受診を指導する。ドライアイの悪化要因としては、コンタクトレンズの装用、湿度の低下、眼に直接当たる通風、ディスプレイ画面が高すぎて上方視することにより、過度にまぶたを開く場合、読み取りにくい画面の凝視等によるまばたきの減少等が影響するので、これらに留意して、職場環境の改善、保健指導等を行うこと。
●筋骨格系に関する検査
(a) 上肢の運動機能、圧痛点等の検査
(b) その他医師が必要と認める検査
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この検査項目は、上肢に過度の負担がかかる作業態様に起因する上肢障害、その類似疾病の症状の有無等について検査するためのものである。
(a) 上肢の運動機能、圧痛点等の検査
・指、手、腕等の運動機能の異常、運動痛等の有無
・筋、腱、関節(肩、肘、手首、指等)、頸部、腕部、背部、腰部等の圧痛、腫脹等の有無
問診において、当該症状に異常が認められない場合には、省略することができる。検査の結果、上肢障害やその他の整形外科的疾患、神経・筋疾患などが疑われる場合は、専門医への受診等について指導すること。
②定期健康診断
情報機器作業を行う作業者の配置後の健康状態を定期的に把握し、継続的な健康管理を適正に進めるため、1年以内ごとに1回、定期に、次の項目について必要な調査又は検査を実施すること。
- 新たに、情報機器作業の作業区分の「新たに作業時間又は作業内容に相当程度拘束性があると考えられるもの(全ての者が健診対象)」に該当することとなった作業者には、全ての対象者に実施すること。
- 新たに、情報機器作業の作業区分の「上記以外のもの(自覚症状を訴える者のみ健診対象)」に該当することとなった作業者には、自覚症状を訴える者を対象に実施すること。
なお、一般定期健康診断(労働安全衛生法第66条第1項に定めるものをいう。)を実施する際に、併せて実施して差し支えない。
●業務歴の調査
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従事した情報機器作業の概要のほか、必要に応じ、作業環境及び業務への適応性についても調べること。
なお、前記配置前健康診断に関する解説を参照のこと。
●既往歴の調査
▼クリックで解説▼
前記配置前健康診断に関する解説を参照のこと。
●自覚症状の有無の調査
(a) 眼疲労を主とする視器に関する症状
(b) 上肢、頸肩腕部及び腰背部を主とする筋骨格系の症状
(c) ストレスに関する症状
▼クリックで解説▼
具体的検査の方法、判断基準及び措置については、前記配置前健康診断に関する解説を参照のこと。
なお、問診票は前記配置前健康診断で用いるものと同一のもので差し支えない。
●眼科学的検査
(a) 視力検査
i遠見視力の検査
ii 近見視力の検査
iii 40歳以上の者に対しては、調節機能検査及び医師の判断により眼位検査。
ただし、『●自覚症状の有無の調査』において特に異常が認められず、●眼科学的検査(a)視力検査『i 遠見視力』又は●眼科学的検査(a)視力検査『ii 近見視力』がいずれも、片眼視力(裸眼又は矯正)で両眼とも0.5以上が保持されている者については、省略して差し支えない。
●その他医師が必要と認める検査
▼クリックで解説▼
具体的検査の方法、判断基準及び措置については、前記配置前健康診断に関する解説を参照のこと。
●筋骨格系に関する検査
- 上肢の運動機能、圧痛点等の検査
- その他医師が必要と認める検査
▼クリックで解説▼
前記配置前健康診断に関する解説を参照のこと。
問診において、当該症状に異常が認められない場合には、省略することができる。前記配置前健康診断に関する解説を参照のこと。
③健康診断結果に基づく事後措置
配置前又は定期の健康診断によって早期に発見した健康阻害要因を詳細に分析し、有所見者に対して次に掲げる保健指導等の適切な措置を講じるとともに、予防対策の確立を図ること。
(イ) 業務歴の調査、自他覚症状、各種検査結果等から愁訴の主因を明らかにし、必要に応じ、保健指導、専門医への受診指導等により健康管理を進めるとともに、作業方法、作業環境等の改善を図ること。また、職場内のみならず職場外に要因が認められる場合についても必要な保健指導を行うこと。
▼クリックで解説▼
各検査項目の解説で示した保健指導、専門医への受診指導等を行うとともに、自他覚症状、各種検査結果等に応じ、リラクゼーション、ストレッチ等の実施、作業方法の改善、作業環境改善等について指導を行う。
健康障害や疲労症状の職場外要因としては、家庭における長時間にわたるインターネットの利用、ゲームを長時間行う等の直接的な眼疲労の原因となるもののほかに、生活習慣、悩みごと等の間接的な疲労要因が考えられる。
(ロ) 情報機器作業の視距離に対して視力矯正が不適切な者には、支障なく情報機器作業ができるように、必要な保健指導を行うこと。
▼クリックで解説▼
眼科学的検査の解説で示したように、近見視力が、片眼視力でおおむね0.5以上となるよう指導を行うことが望ましい。
なお、作業に適した矯正眼鏡等の処方については、眼科医が行うことが望ましい。
(ハ) 作業者の健康のため、情報機器作業を続けることが適当でないと判断される者又は情報機器作業に従事する時間の短縮を要すると認められる者等については、産業医等の意見を踏まえ、健康保持のための適切な措置を講じること。
▼クリックで解説▼
産業医が作業者の健康を確保するため必要と認める場合は、作業の変更、作業時間の短縮、作業上の配慮等の健康保持のための適切な措置を講じること。
(2)健康相談
作業者が気軽に健康について相談し、適切なアドバイスを受けられるように、プライバシー保護への配慮を行いつつ、メンタルヘルス、健康上の不安、慢性疲労、ストレス等による症状、自己管理の方法等についての健康相談の機会を設けるよう努めること。
また、パートタイマー等を含む全ての作業者が相談しやすい環境を整備する等特別の配慮を行うことが望ましい。
▼クリックで解説▼
情報機器作業における健康上の問題は、健康診断時以外の日常で発生することも多いので、作業者が気軽に健康等について相談し、適切なアドバイスを受けられるように、健康相談の機会を設けることが望ましい。
(3) 職場体操等
就業の前後又は就業中に、体操、ストレッチ、リラクゼーション、軽い運動等を行うことが望ましい。
▼クリックで解説▼
静的筋緊張や長時間の拘束姿勢、上肢の反復作業などに伴う疲労やストレスの解消には、アクティブ・レストとしての体操やストレッチを適切に行うことが重要である。また、就業中にも背伸び、姿勢の変化、軽い運動等を行うように指導すること。
労働衛生教育
(1)作業者に対する教育内容
作業者に対して、次の事項について教育を行うこと。また、当該作業者が自主的に健康を維持管理し、かつ、増進していくために必要な知識についても教育を行うことが望ましい。
●情報機器ガイドラインの概要
▼クリックで解説▼
情報機器ガイドラインの概要について説明する。
●作業管理
(内容)作業計画・方法、作業姿勢、ストレッチ・体操など
▼クリックで解説▼
情報機器作業に関連する障害の最も大きな原因は「拘束的」な長時間に及ぶ作業であることを認識させる。また情報機器作業の多様性と作業の方法・姿勢等には個人差が大きいことを認識させ、自分自身の作業方法に関して客観的な見方ができるようにする。
●作業環境管理
(内容)情報機器の種類・特徴・注意点
▼クリックで解説▼
作業環境が作業の効率や健康に及ぼす影響について理解させる。
●健康管理
(内容)情報機器作業の健康への影響(疲労、視覚への影響、筋骨格系への影響、メンタルヘルスなど)
▼クリックで解説▼
情報機器作業による健康障害の種類及びその可能性について理解させる。また身体的な症状、精神的なストレスの症状が懸念された場合、それらへの対処方法についても理解させる。
(2)管理者に対する教育内容
情報機器作業に従事する者を直接管理する者に対して、次の事項について教育を行うこと。
●情報機器ガイドラインの概要(労働災害統計を含む。)
▼クリックで解説▼
情報機器ガイドラインの概要について説明する。労働者教育に資する労働災害統計等も理解させる。
●作業管理
(内容)作業時間、作業計画・方法、ストレッチ・体操など
▼クリックで解説▼
情報機器作業に関連する障害の最も大きな原因は「拘束的」な長時間に及ぶ作業であることを認識させる。また情報機器作業の多様性と作業の方法・姿勢等には個人差が大きいことを認識させ、管理者として労働者の作業方法や姿勢等を客観的に観察し、指導できるようにする。
●作業環境管理
(内容)情報機器の種類・特徴・注意点、作業環境(作業空間、ワークステーション、什器、採光・照明、空調など)
▼クリックで解説▼
作業環境(機器の種類、採光、照明、温度・湿度、騒音など)が作業の効率や健康に及ぼす影響について理解させ、管理者として作業環境の改善、維持ができるようにする。
●健康管理
(内容)情報機器作業の健康への影響(疲労、視覚への影響、筋骨格系への影響、メンタルヘルスなど)、健康相談・健康診断(受け方)、事後措置
▼クリックで解説▼
情報機器作業による健康障害の種類及びその可能性について理解させる。また身体的な症状、精神的なストレスの症状が懸念される労働者がいる場合、管理者として労働者に適切な助言(衛生管理者や産業医などへの導きなど)ができるようにする。
配慮事項
(1)高齢者に対する配慮事項等
高年齢の作業者については、照明条件やディスプレイに表示する文字の大きさ等を作業者ごとに見やすいように設定するとともに、過度の負担にならないように作業時間や作業密度に対する配慮を行うことが望ましい。
また、作業の習熟の速度が遅い作業者については、それに合わせて追加の教育、訓練を実施する等により、配慮を行うことが望ましい。
▼クリックで解説▼
見やすい文字の大きさや作業に必要な照度等は、作業者の年齢により大きく異なる。作業者によっては作業の視距離に応じた矯正(眼鏡)が必要になる場合がある。
多くの情報機器作業の場合、文字サイズ、輝度コントラスト等の表示条件は使用する機器の設定により調整することが可能であり、作業者にとって見やすいように適合させることが望ましい。
照明機器等も、天井に配置した全体照明とは別に必要となる場合は、局所に作業用照明機器を配置することにより個人の特性に配慮した照度条件を実現することが可能となる。
作業時間、作業密度、教育、訓練等についても、高齢者の特性に適合させる配慮が望まれる。
(2)障害等を有する作業者に対する配慮事項
情報機器作業の入力装置であるキーボードとマウスなどが使用しにくい障害等を有する者には、必要な音声入力装置等を使用できるようにするなどの必要な対策を講じること。
また、適切な視力矯正によってもディスプレイを読み取ることが困難な者には、拡大ディスプレイ、弱視者用ディスプレイ等を使用できるようにするなどの必要な対策を講じること。
▼クリックで解説▼
情報機器作業は、筋力や視力等に障害があっても、作業できるように、種々の支援対策が準備されている。このような支援機器や適切な作業環境、作業管理によって、障害を有する場合でも、情報機器作業を快適に行うような措置を講じることが望ましい。
(3)テレワークを行う労働者に対する配慮事項
情報機器ガイドラインのほか、「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」(令和3年3月25日付け基発0325第2号、雇均発0325第3号「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドラインについて」別添1)を参照して必要な健康確保措置を講じること。
その際、事業者が業務のために提供している作業場以外でテレワークを行う場合については、事務所衛生基準規則、労働安全衛生規則及び情報機器ガイドラインの衛生基準と同等の作業環境となるよう、テレワークを行う労働者に助言等を行うことが望ましい。
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労働基準法上の労働者については、テレワークを行う場合においても、労働安全衛生法等の労働基準関係法令が適用されるため、労働安全衛生法等の関係法令等に基づき健康確保のための措置を講じる必要がある。
また、テレワークを行う作業場が、自宅等の事業者が業務のために提供している作業場以外である場合には、事務所衛生基準規則、労働安全衛生規則及び情報機器ガイドラインの衛生基準と同等の作業環境となるよう、テレワークを行う労働者に助言等を行うことが望ましい。
(4) 自営型テレワーカーに対する配慮事項
注文者は、「自営型テレワークの適正な実施のためのガイドライン」(平成30年2月2日付け雇均発0202第1号「「在宅ワークの適正な実施のためのガイドライン」の改正について」別添)に基づき、情報機器作業の適切な実施方法等の健康を確保するための手法について、自営型テレワーカーに情報提供することが望ましい。
また、情報提供の際は、必要に応じて情報機器ガイドラインを参考にし、情報提供することが望ましい。
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情報機器を活用している自営型テレワーカーの場合、作業机、照明環境、作業時間等について、労働衛生管理面からは必ずしも適切でないことがある。
仕事を自営型テレワーカーに注文する注文者は、情報機器作業を行う自営型テレワーカーの健康を確保するため、自営型テレワーカーに対して情報機器ガイドラインの内容を提供することが望ましい。このことにより、自営型テレワーカーは、情報機器作業に係る作業環境管理、作業管理、健康管理、労働衛生教育等に関する情報を得ることができる。
なお、注文者には、自らの仕事を注文する者だけでなく、他者から業務の委託を受け、当該業務に関する仕事を自営型テレワーカーに注文する者も含まれる。