相談員便り
職業病とは(徳弘雅哉相談員)
先日、仕事で大阪へ。お昼間ですが、隣にはアルコール香るご年配紳士が2人。大声で会話が始まりました。
「○○さんの方が保険安かった。」、『△△さんが事故をした。』、「トトロに出てくるお父さんは考古学者。」などの会話が矢継ぎ早に繰り出されます。最後は初耳。調べたら本当でした。紳士の会話は続きます。「仕事辞めても3時起きは変わらんか」『そりゃそう』「そりゃ職業病やな!」。…職業病ですと!?
ということで、職業病について話しましょう(強引)。職業病(職業性疾病)は、仕事の有害な要因が、直接発症に関連する病気の総称です(中でも労働災害の補償対象となるものは「業務上疾病」)。
職業病は、原因によってある程度分けることができますが、暑熱な場所での熱中症、潜水作業の潜函病、放射線による病気、粉じん作業によるじん肺、鉛などの中毒、削岩機やチェーンソーなどの振動工具による神経の障害などは有名ですね。厚生労働省では職業病リスト(**)も示されています。気になる場合は総合支援センターにお問い合わせください。
その後、仕事を取りまく環境の変化、多様化などを背景に、「作業関連疾患」という言葉も生まれました。これは、業務と疾病の間に直接の因果関係はないものの(もしくは立証が困難)、作業が病気の悪化や進行に悪い影響を及ぼすと考えられるものを指します。
長時間のデスクワークによる肩こりや、職場環境(過重労働や人間関係など)による精神的不調なども該当します。作業関連疾患は、直接的な要因もわかりにくく、複数の要因が絡み合って発症することも多いため、対応に苦慮しがちです。一方、職場環境の改善や健康管理など、総合的な取り組みが功を奏すことも多いとされます。こちらも、何かあれば、支援センターにお問い合わせください。
私の事情で行きますと、市中の横断歩道で指差し確認をしそうになった時は初期症状、友人に「ご安全に」と挨拶した時は中期、病院業務でRA(通常は関節リウマチ:rheumatoid arthritis)と聞いて、リスクアセスメント(risk assessment)が一番に出てきたときは、ああ、もう産業医だな、と思ったものです。「ジューシーステーキ」を「巡視すべき」と聞き間違えた時は、これは職業病ではないかと不安になりました。
さて、ご年配紳士の話が続きます。『何するのも最初が左手と左足なのは変わらんか?』「これは治らんわ、職業病や」『せや。』
ちょっと待ってください。それなんの仕事ですか…!?。 わかる人は教えてください。
(*)国際労働機関(ILO) https://www.ilo.org/sites/default/files/wcmsp5/groups/public/@asia/@ro-bangkok/@ilo-tokyo/documents/article/wcms_247003.pdf
(**)https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_30055.html
「つながらない権利」と仕事のオンオフ〜「完全遮断」ではなく、個人と組織の「適切な境界線」をつくる〜(中村武博相談員)
勤務時間外に仕事の連絡から離れる「つながらない権利」は、欧州を中心に法制化が進んでいる概念です。その背景には、スマートフォンやテレワークの普及によって、勤務時間と私生活の境界が曖昧になり、「いつでも対応できる」ことが長時間労働や心身の負担につながったことがあります。
日本でも法制化に向けた議論が続いていますが、連合の2023年調査では、雇用者の72.4%が時間外に業務連絡を受け取っており、多くの労働者にとって日常的な状況となっていることが分かります。こうして仕事から心理的に離れられない状態(心理的離脱の阻害)が続くと、緊張が解けにくくなり、睡眠障害やメンタルヘルス不調のリスクが高まります。
一方で、「月曜の朝に焦りたくないから」と、自ら予定や連絡を確認する場合もあります。そのため、時間外の接続を一律に禁止すれば解決するという単純な問題ではありません。そこで産業医としてこの問題を考える際には、労働者の健康を守ることを軸に、次の三つの視点をバランスよく捉えることが重要だと考えています。
① 医学的・保健的視点:労働時間の長さだけでなく、時間外に仕事から心理的に離れ、十分に回復できているかを慎重に判断する。
② 人事・労務・法的視点:時間外対応が常態化して「隠れ残業」になっていないか、安全配慮の観点で無理が生じていないかを確認する。
③ 本人の働きやすさという視点:一律に禁止することが新たな負担にならないよう、本人の裁量や安心感にも配慮しながら、健康保持との折り合いを探る。
ここまでは支援対象となる労働者について述べましたが、支援する側の境界線にも目を向ける必要があります。産業保健職や衛生管理者も、自分の働き方を振り返り、仕事と休息の境界線を整えることが大切です。
どうしても時間外の対応が必要な場合があっても、①夜間や休日は業務用メールやチャットの通知を切り、確認する時間を決める。②休日に翌週の予定を確認する場合も短時間で区切り、その後は仕事の画面を閉じる。③緊急連絡の範囲と手段をあらかじめ整理し、それ以外は翌営業日に対応するなどの線引きが必要です。
「つながらない権利」とは単なる通信の遮断ではなく、心身の回復時間を自分で確保するための考え方です。スマホから離れ、しっかりと休息をとることが、明日からの活力や質の高い仕事へとつながっていきます。
<出典・参考資料>
- 連合「”つながらない権利”に関する調査」(2023年)
- 労働政策研究・研修機構(JILPT)労働政策フォーラム資料(2024年9月)
- 厚生労働省「労働時間等見直しガイドライン」関連資料
研修会のご案内
研修会についてはこちら
https://okayamas.johas.go.jp/training/
産業医研修会についてはこちら
https://okayamas.johas.go.jp/category/training/ipt/
今後、「産業医研修会」の受付は、開催日の2か月前の月初(最初の営業日)から開始します。
【11/4】健康経営セミナーを開催します
社員の健康づくりが会社を活性化する「健康経営」
健康経営を取り巻く環境も変わってきており、ガイドブックが10年ぶりに改訂されました。
本セミナーでは、健康経営ガイドブック改訂委員会の座長を務める永田智久先生を講師にお迎えし、これからの健康経営の考え方や、企業・事業場で実践するためのポイントについて、わかりやすくお話いただきます。
「健康づくり」を、社員のためだけではなく、会社の活性化や持続的な成長につなげるために、皆さんの事業場でもぜひこの機会に「健康経営」をはじめてみませんか。
https://okayamas.johas.go.jp/wp-content/uploads/2026/09/2026-1104.pdf
開催日時 令和8年11月4日(水)14:00~16:00
開催方法 オンライン(ZOOMウェビナー)
対象 事業主、産業保健スタッフ、人事・労務担当者、等
定員 先着500名
講師 産業医科大学産業生態科学研究所 教授 永田智久先生
*健康経営ガイドブック改訂委員会座長
申込みはこちら
https://us02web.zoom.us/webinar/register/WN_jENGMrnUTCmw1SV8a2gnag
★事前質問も受け付けております★
ご質問のある方は、質問内容をお問い合わせフォームにてお送りください。
なお、研修時間の都合上、いただいた質問すべてに回答できない場合もございますのでご了承ください。
「産業保健21」が発行されました
https://okayamas.johas.go.jp/21-126/
情報誌『産業保健21』は、産業医をはじめ、保健師・看護師、労務担当者等の労働者の健康確保に携わっている皆様方に、産業保健情報を提供することを目的として、独立行政法人 労働者健康安全機構が発行しています。
特集:産業保健スタッフのための作業環境測定の基礎知識
■労働衛生対策の基本:振動による健康障害とその対策
■産業医に聞く:臨床経験をベースに、多様な職場へ足を運び一人ひとりを「ハッピーリタイア」へ導く
■判例:警部補に対する休職期間満了にともなう分限免職処分が取り消された事案(大阪府・府警察本部長事件)
■長時間労働対策のヒント:勤務実態の「見える化」を起点とした大学病院の使命を守る働き方改革
■研究紹介:パッシブサンプリング法を用いた化学物質の個人ばく露評価技術の開発と応用
など
「高年齢労働者の転倒災害」について
現在、日本では、働く高年齢者が増えており、転倒は労働現場においても大きな問題となっています。
転倒が原因で4日以上仕事を休む労働災害は、60歳未満では全体の17%、60歳以上では全体の38%と年齢により大きく異なります。(厚生労働省「職場のあんぜんサイト」死傷災害データベース(令和2年12月集計))
転倒は、骨折を合併することが多いため休みも長期化しがちです。この転倒災害は、50歳代から増えています。元気に働いている人でも勤務中に転倒することがあり、それが高齢というほどでもない年齢から増えているというのは何故でしょうか。
本研究は、職場の健康・安全を守るために「働いている人の転倒災害対策」に焦点を絞り、2つの研究開発テーマを掲げて、令和6年度から実施しています。
《研究開発テーマ》
[1]高年齢労働者を対象とした転倒および転倒関連傷害ハイリスク者の簡易スクリーニング法の研究開発
[2]高齢者のフレイル予防の観点からの転倒関連傷害の新規対策法の研究開発
■労働者健康安全機構 労災疾病等医学研究・開発
https://www.johas.go.jp/research/medical-research-development-occupational-diseases/elderly-worker-falls/






