2022年11月1日(火)に配信された「岡山さんぽメールマガジン第178号」です。
1.相談員便り
コロナ禍のアルコールと関連する問題(神田秀幸相談員)
コロナ禍のアルコール
2020年当初から世界的パンデミックとなったCOVID-19は、世界では都市のロックダウンや外国渡航の禁止・制限、わが国でも緊急事態宣言の発令や外出・移動の自粛など、私たちの生活を大きく変えた。人流を抑え、ステイホームやテレワークが推進され、感染拡大防止の対策が取られた。
コロナ禍の国民の飲酒量に関して、在宅時間が増えたことによる飲酒量の増加が懸念された。一方で、外出が制限されたことによって、わが国では、飲食店の時短営業や酒類の提供禁止が政府から要請され、国民の飲酒量は低下したのではともいわれてきた。
そこで、近年報告されたコロナ禍とアルコールに関連する問題についてふりかえってみたい。
米国のアルコール関連死の増加
米国でコロナ禍のアルコール問題は懸念されており、それに伴ってアルコール関連死について全米の死亡統計から検討された報告がある[1]。2020年の米国でのアルコール関連死は、2019年に比べ全体で26%の増加が示された。2021年上半期にもこの増加傾向は続いていたことが確認されている。2020年調査を年齢層別に検討したところ、どの年代でも増加がみられたが、特に青壮年期である、35-44歳で40%増加、25-34歳では37%増加していた。主な死因としては、アルコール関連肝疾患、アルコール関連の精神・行動に関する疾患、アルコールを含む薬物の過剰投与が挙げられていた。
わが国のアルコールの販売・消費数量の推移
国税庁の報告によると2、2020年の酒類販売(消費)数量は前年度(2019年度)と比べ全体で96.3%であった。販売(消費)数量としてはコロナ禍のダメージはそれほど大きくなかった。このうち酒種別では、対前年度比で減少した品目はビール(対前年度比79.9%)、合成清酒(同83.1%)、ブランデー(同90.5%)などであった。一方で、対前年度比で増加した品目はスピリッツ等(同115.4%)、甘味果実酒(同108.3%)、リキュール(同106.7%)であった。これらの結果から、飲酒習慣をもつ人の飲酒量は、コロナ禍であっても大きく変化せず、飲酒の場が「外飲み」から「家飲み」にシフトし、アルコール度数の強いものあるいは甘味のある飲みやすいものにシフトした可能性が考えられた。
アルコールと健康のこれから
アルコールの健康影響は多岐にわたる。急性アルコール中毒やアルコール依存症のみならず、肝障害、消化器系のがん、高血圧症、動脈硬化症、糖尿病、外傷、飲酒運転事故などと枚挙にいとまがない。コロナ禍のアルコール消費量が大きく減少しなかったわが国において、米国のようにアルコール関連死が増加することのないように、青壮年期の飲酒に注意が必要である。
なお2023年10月13-15日日本アルコール・アディクション医学会を岡山コンベンションセンターにて開催致します。多くの皆様のご来場をお待ちしております。
引用文献
[1]White AM, Castle IP, Powell PA et al. Alcohol-Related Deaths During the COVID-19 Pandemic. JAMA. 2022; 327(17):1704-1706. doi: 10.1001/jama.2022.4308. [2]国税庁課税部酒税課・輸出促進室.酒類販売(消費)数量の推移. 酒のしおり(令和4年3月) p.54-56, 2022.《神田相談員の研修会》
https://okayamas.johas.go.jp/tag/kanda_hideyuki/
自律的な化学物質管理への転換に伴う産業医の役割の拡大(濱本貴史相談員)
2021年に公表された「職場における化学物質等の管理の在り方に関する検討会報告書」で化学物質の自律的管理が謳われたことをきっかけに本年度より順次施行される予定です。
今回の法令改正による方針の変更により、これまでの法令準拠型(ハザード管理型)から自律的管理型(リスク管理型)に移行となります。従来は法令通りの対応で専門性がなくともできていたものが、職域の担当者(この方々が化学物質管理者になる)の専門性を求められ、さらにその支援者となる産業医にも助言を求められることが増えることが想定されます。
そのため産業医として、どのような変化があるかを想定しながら、産業医の職務(安衛則第14条の1、15条の1)に特に関わりのある項目に絞り簡潔に記載してみました。
1.健康診断(有害業務健診)実施([1]健診項目の設定、[2]健康診断の実施頻度の緩和)
[1]従来は法令に定められた健診項目を事業主より受託された労働衛生機関が項目を設定してきましたが、対象物質が拡大された場合、まれな化学物質ついては健康診断項目については事業主より助言を求められることがあると推察されます。 [2]作業環境管理や曝露防止対策が適切に実施されている場合に限定し、事業主は労働衛生等に係る医師等の専門家の意見を参考に、当該健康診断の実施頻度を1年以内ごとに1回に緩和できることとされています。頻度の緩和の際には、専門家が常駐していない企業において、定期的に訪問する産業医に意見を求められることもありそうです。2.安全衛生委員会の付議事項に「自律的な化学物質の管理状況」の追加
当然産業医も安全衛生委員会のメンバーの一人であり、自律的な化学物質管理の法令改正について理解しておくことは当然で、取り進めに方や化学物質の管理について意見を求められることもあると推察されます。委員会の審議で産業医意見を求められることは増えそうですので、法令の変更点等について情報収集し理解しておくことは必要でしょう。
3.産業医職場巡視
従来の法令準拠型では、化学物質が法令に該当するか、取り扱い物質、作業環境測定結果、健康診断結果を頭に入れて現地確認としていたものが、自律管理型になると大きく変わります。事前に物質ごとのリスクアセスメントの結果を確認し、現地でリスクアセスメントが適切か、曝露低減措置は適切か、曝露管理値以下となっているかなどを確認しながら巡視を行うことになりそうです。
上記いずれの項目も産業医がどこまでの役割を担うか次第ですが、少なくとも対応事項は増えるでしょう。いずれも習熟した産業看護職、労働衛生専門職であればいずれも対応可能できるでしょうが、人材・スキルがない企業においては課題になりそうです。
《濱本相談員の研修会》
https://okayamas.johas.go.jp/tag/hamamoto_takashi/
2.研修会のご案内
研修会についてはこちら
https://okayamas.johas.go.jp/training/
3.産業医研修会(2022年12月)
産業医研修会についてはこちら
https://okayamas.johas.go.jp/tag/ss,sj,sk/
4.新たな化学物質規制オンライン説明会
新たな化学物質規制に係る関係政省令の改正について、周知徹底を図るためのオンライン説明会(Zoom)を開催します。受講無料、全日程同じ内容、時間は14:00~16:10です。
【令和4年】
11月16日(水)、11月22日(火)、12月05日(月)、12月13日(火)
【令和5年】
1月12日(木)、1月16日(月)、2月7日(火)、2月17日(金)、3月3日(金)、3月9日(木)
既に満席の回もありますので、お申し込みはお早めに!
https://okayamas.johas.go.jp/chemicals/
5.第18回女性医療フォーラム「コロナ禍における医療界の働き方改革」
日時:2022年11月12日(土)13:00~16:00
情報:参加無料、Zoomによるオンライン開催
講演「妊娠・出産、子育て中の働き方について」
シンポジウム「コロナ禍における女性医療者の働き方改革」
https://okayamas.johas.go.jp/joi-18/
次回の第179号は2022年12月初旬に配信予定です。