2021年12月

うつ病等の精神疾患では、抑うつ気分等が改善した後も、認知機能(記憶、作業記憶、注意、処理速度、遂行機能等)が十分に回復するまでに時間を要することがあり、それがスムーズな職場復帰を妨げたり、十分なパフォーマンスを発揮できない要因になっているのではないかと言われます。また、精神疾患と診断されていない労働者の中にも、ストレスや加齢による認知機能障害を抱えている方がいます。

本研究では、疾患の有無に関わらず認知機能の検査を実施し、それが労働生産性と関連があるか検討を行い、関連があるとわかった場合は、該当する希望者に対し認知機能回復をサポートするトレーニングを行い、認知機能の改善及び労働生産性の向上に繋がるのかを検証します。

さらに、職場不適応に労働者の発達障害や社会認知機能障害等が影響している場合には、該当する希望者に対しその特性に合わせた環境調整や適応行動に関する助言を行います。

本研究は、精神科医と産業医が共同で行うことにより、精神科臨床で得られた知見を産業保健の予防領域へ応用しようとする、これまでにない試みです。

現在、企業に勤務する労働者で、研究への参加に同意した方を対象に、労働生産性や認知機能に係るフォローアップ結果について解析を行うとともに、希望者に実施した認知トレーニングの効果検証を行っています。

本研究の詳細については、「労災疾病等医学研究普及サイト」をご覧ください。https://www.research.johas.go.jp/mental2018/index.html

2023年4月

精神疾患の労災認定は増加傾向にあり、休職期間が比較的長期にわたること、及び休職と復職の繰り返しや生産性の低下等が問題となっており、その経済的損失は大きいものと考えられます。

精神疾患罹患で休職後、職場復帰可能かどうかの判断は、主治医や産業保健スタッフが「症状の改善」をメインに検討することが多く、実際の業務遂行にかかわる「認知機能の改善」を評価対象とすることは少ないものと考えられます。一方で、精神疾患患者の職能をはじめとする社会機能には、症状より認知機能が大きな影響を及ぼすことが知られています。

また、発達障害者に対し、コミュニケーション障害が主に注目され、不適応の要因について認知機能障害が影響しているかどうかの評価は十分でないと考えられます。特性や認知機能を把握し、適切に対応することにより、離職率や休職率が低下する可能性も考えられます。

これらを踏まえ、労働者健康安全機構の労災疾病等研究として「職場におけるメンタルヘルス不調の予測因子の検討に関する研究」を実施しています。

本研究では、労働者の認知機能を評価し、生産性低下、離職率、休職率、疾病増悪、Quality of Life(QOL)低下の予測因子となりうるか検討し、認知機能評価や発達障害傾向の評価が、適正配置や復職判定、労災疾病の未然防止に有効か否かの検証をすることを目的としています。

令和3年5月をもってすべてのデータ収集が終わり、分析の結果、労働生産性と客観的な認知機能、性別、レジリエンス、睡眠障害の有無との関連が示唆されています。現在、ベースラインの各指標と48週後の労働生産性との関連についても解析を行っています。

本研究の詳細については、「労災疾病等医学研究普及サイト」をご覧ください。
https://www.research.johas.go.jp/mental2018/index.html