岡山県地域両立支援推進チーム 治療と仕事の両立支援事例検討会
検討会令和3年2月8日(月)13:30~15:30
WebexMeetingによるWeb方式事例検討会
令和3年2月8日(月)、岡山県地域両立支援推進チーム(推進チーム)主催の治療と仕事の両立支援事例検討会がWeb方式で開催されました。
参加者は、両立支援コーディネーターを中心に24名とオブザーバーとして推進チームの構成員など8名です。
事例検討会は、まず、岡山大学病院腫瘍センターの田端雅弘教授の基調講演があり、その後、参加者、オブザーバーは6グループに分かれて、グループワークが行われました。
グループワークは、参加者が事例をもとに事前に作成した「勤務情報提供書」と「主治医意見書」を資料として、参加者が感じたこと、気付いたことなどを共有することで、職種や立場による認識や考え方にどのような違いがあるかを理解し、各々が今後どのような支援に結び付けていくことができるかを考えることを目標として行われました。
その後、各グループから、グループワークの結果の発表が行われ、オブザーバーのコメント、田端教授の総括で終了しました。
挨拶(労働局労働基準部健康安全課 髙松達朗課長)
両立支援の話の前に、まず職場における新型コロナウイルス感染症の拡大防止対策について少しお話します。現状、新型コロナウイルス感染症に関しては、連日多数の検査陽性者が発見され、職場でクラスターも発生している状況で、厚生労働省としても、職場における新型コロナウイルス感染症対策の徹底等については、以前からチェックリスト等を配布して呼びかけているところです。各事業所においても、
- テレワーク・時差出勤等の推進
- 体調がすぐれない人が気兼ねなく休めるルールを定め、実行できる雰囲気作り
- 職員間の距離確保、定期的な換気、仕切り、マスク徹底など密にならない工夫
- 休憩所、更衣室などの“場の切り替わり”や、飲食の場など「感染リスクが高まる『5つの場面』」での対策・呼びかけ
- 手洗いや手指消毒、咳エチケット、複数人が触る箇所の消毒
など、感染防止のための基本的な対策を引き続き行っていただきたい。
今後も、厚生労働省として、職場における新型コロナウイルス感染症の拡大防止対策について、様々な周知を行っていきたいと思いますので、協力よろしくお願いします。
さて、本日の治療と仕事の両立支援事例検討会では、両立支援コーディネーター研修修了者などを対象に、両立支援を検討して、その上で職場復帰プログラム等をグループワークで作成する運びになっているところです。その前に、田端先生より基調講演をしていただき、その上で、その知識をもとに職場復帰プログラムを作成していただくということになっています。
皆様方には、本日の事例検討会が、今後の業務等のプラスになるように対応いただければと考えています。
岡山労働局としても、両立支援の取り組みは、平成29年度から数えて4年度目に突入しているところです。産業保健総合支援センターなどの協力や両立支援コーディネーターの研修会などにより、両立支援の担い手となる方々の裾野はだいぶ広がったと考えています。ただ、まだ、事業場サイドや労働者サイドで両立支援に関する知識等があまりないというところもあります。
岡山労働局としても、産業保健総合支援センターの協力を得ながら、職場の方、事業場の担当者が、両立支援についての相談先が、すぐにわかるようなリーフレットを作成しているところです。
年度内にホームページでの公表や状況に応じての配布等を予定していますので、ご利用の程よろしくお願いします。
基調講演(岡山大学病院腫瘍センター 田端雅弘教授)
私は、腫瘍センターの立場で岡山県地域両立支援推進チームの会議に参加していますが、元々は腫瘍内科で進行がんの化学療法を専門としています。
まず、岡山県のがんを取り巻く現状ですが、少し古いデータですが、平成28年、岡山県で12,000人ががんになって、5,400人程度が亡くなっています。男性が7,000人、女性5,000人程度。その内容としては、男性では、肺がん、胃がん、大腸がん、女性では、大腸がん、胃がん、肺がんで亡くなることが多い状況です。
岡山県で、就労中に、どのくらいの方ががんになるかということで見てみますと、一応、65歳以下が就労中と考えると、男性の約20%、女性の40%が65歳未満で発症しています。その内訳は、男性においては、胃がん、大腸がん、肺がんが多く、女性は圧倒的に乳がん、子宮がんが多いという状況にあります。最近は、65歳未満ではなくて、おそらく70歳ぐらいまで仕事をしている方が多いことを考えると、さらにこの数が増えていくと思います。
これも少し古いデータですが、現在、65歳まで継続雇用をするとして、従業員数1,000人以上の事業所であれば、年に4人ぐらいの人ががんになる可能性がある。従業員数が100人から1,000人未満で1.2年に1人、従業員数が100人未満の事業所でも5.3年に1人ぐらいはがんになると計算になってきます。おそらくこれはまだ増えていくと考えないといけないと思います。
仕事をしながらがんの診療を続けている方は、平成22年、10年前の統計ですけれども、全国で32.5万人ががんの治療しながら仕事を続けています。この背景には、病院における平均在院日数がどんどん短くなってきて、入院での治療が減ってきて、通院しながら治療を受ける人が増えています。
がんの5年相対生存率(全がん)の推移ですが、がんの予後が良くなり、2006年から2008年では、全がんで見ると60%ぐらいの人が5年後にご存命になっている状況になっています。
先ほどの就労年齢で、予後が良くなってくるとすると、仕事のことがとても問題になってきます。厚労省の研究班によりますと、勤労者の34%ががんになったということで依願退職あるいは解雇される、自営業であれば13%が廃業するというデータになっています。
なぜ退職しないといけないかという調査に関しては、自分が、がんになったということをなかなか周りに話せないという人が多く、仕事とがんの治療が両立できるかに関しては、そう思わない人が大半でした。これは平成25年から28年までのデータですが、いずれの年齢も、減ってはきていますが、両立は難しいと考える人が多い状況です。その難しい理由としては、職場の問題としては、代わりに仕事してくれる人がいない、あるいは、休ませてくれない、休んだら職場での評価が下がるということや、仕方がないかもしれませんが、体力的に難しい、精神的に難しいなどがあげられています。
仕事と治療を両立するために何が必要かとの質問に関しては、時間単位の休暇が取れるとか通院ための短時間勤務ができるとか、それから職場と主治医との緊密な情報交換などの回答がありました。
これは、岡山県で2012年と2017年にがん拠点病院で治療されているがん患者にアンケートを取った結果ですが、2012年段階で、がんにかかる前とかかった後での世帯収入が94万円、2017年、5年後でもやっぱり84万収入が減ってしまっている問題がありました。少し視点を変えて、休業を必要とする病気を見てみますと、やはり今の時代、メンタルヘルスによる休業が多い、がんはそのうち約2割ぐらいだというデータです。
ただ、このような病気で休業となった方の92.5%は就労継続を希望していますが、実際は、4割ぐらいの人が退職を選択している現状があります。
がんの就労支援ということを考えた時に、がんの治療は二通りに大きく分かれると思います。早期のがんで、手術あるいは化学療法などで根治を目指す状況である場合の就労支援、これは一定期間の休業の後に、がんが治ってしまえば、また仕事に復帰できるというパターンと残念ながらその根治を目指した治療、手術をしたけれども再発してしまった場合、あるいは、見つかった時点から既に遠隔転移がんの進行があって治療が望めない場合、こういった二つの場合が考えられると思います。特に、後者の進行がんの場合は、どうしても治療に専念した方が良いのではないかということで、進行がんの場合は、就労支援の対象にならないと医療者でも思われる方がとても多い。これはとても問題で、先ほどの5年生存率が60%、いわゆる慢性疾患のような状況に変わってきています。
例えば5年生存率で見てみますと、胃がんでは、全体では80%、当然Ⅳ期で低くなっていますが、それでも10%の方が生存されているし、10年生存率で見ても、同じ胃がんの方がやっぱり生存されていますので、例え進行がんになっても5年、10年の単位で病気と付き合っていかないといけない状況にあって、これで退職して職がなくなってしまうときつい情勢になります。
がん患者の身体機能の経時的変化で見ていきますと、例えば認知症とか老衰とかは、だんだん落ちていきますし、心不全、呼吸不全など臓器不全は、時々悪化しながらも経時的にどんどん落ちていくというのが普通ですが、がん患者の特徴として、比較的いい状況がずっと続いてきます。身体機能が低下してもそんなに大きくなくて、ある時から急に落ちて亡くなる。5年、10年の経過のうち、全身状態としては決して悪くない、身体機能がそんなに落ちていない状況が続いていくことを考えておく必要があります。
どのくらいの人が復職出来るかというデータですが、累積の復職率で、例えば、今日のテーマの胃がんであれば60日の段階では、フルタイムで復職は17%程度だけれども、1年後には約80%の人がフルタイムで復職出来る、短時間勤務での復職であれば1年後には93.3%が復職できる状況です。ただ、肺がんであるとか血液系腫瘍だとか、1年後で復職が難しいケースは少なからずあります。
一旦、復職できるとそれが続くのかどうかというデータでは、大企業でのデータではありますけれども、一旦、フルタイムで復職できた人は、その後5年間の勤務継続率が大体50%といわれています。したがって、そのがん患者さんの復職支援がちゃんと出来れば2人に1人が、がん治療と就労が両立することができることを示したデータになります。
私の経験例ですが、発症時52歳の男性で、2012年に胃がんが見つかって手術をしました。早期でしたので、術後、TS-1という薬を1年間内服して治癒を期待していました。ところが残念ながら1年半後に再発し、半年ほど化学療法を行いました。その後、約8年にわたり、入院して抗がん剤治療をする時期や、時に奏効する抗がん剤に変更しながら治療する時期と、外来で、化学療法を継続する時期と、病気が落ち着いて休薬する時期とを繰り返しながら、胃がんとつきあうことになりますが、この方の場合は、最終的に去年残念ながら亡くなっています。
約8年にわたり胃がんとつきあったことになりますが、お金もたくさんかかりますし、退職してしまうととてもしんどいことになったと思います。この方の場合、職場との関係の良かったということで、最後の半年までは就業を続けられていました。
このような病気を抱える方の92.5%は就労継続を希望しています。就労を続けるためには職場としては、柔軟な勤務体系、休暇・休業制度の拡充、それから社内の制度が利用しやすい風土の醸成といったものが求められており、医療機関としては、働く人が受診できるような診療時間の設定も考えて欲しいという調査結果になっています。これに対して、治療と仕事の両立支援のためのガイドラインが策定されまして、労働者、事業場から、業務内容を主治医に伝えて、それに対して主治医意見書を提出して、事業場で両立支援のプラン作るという流れになっています。そのために医療機関から必要な情報としてはこのようなものが、また、労働者から事業場に対してどういうものが必要かということが、ガイドラインに書かれていますので、ご参照ください。
ここで問題になるのが、情報提供です。事業場には医療機関から、診断書や主治医意見書が送られてきますけれども、事業場は病気や治療のことはよく分からない、書いてあることがよくわからないということもありますし、主治医も患者がどのくらいの仕事をされているのか、どういった仕事されているのか、まったく聞いてないわけではないけれども、細く聴く時間もないという状況で、情報を共有したいけれど、中々できない状況になっています。
事業場と医療機関との間で言葉が通じないことも多い。例えば、医療機関は、病気のことを主体に考えて、いろんな情報提供をしていく。事業場は、その人の生活の視点になっていくので、同じこと話していても、言語が全く違うような状況になっています。そのために産業衛生の担当者として、両立支援コーディネーターとして、この間をつないで行こうとしないといけないといわれています。
医療機関としては、この人がどういう仕事をしているかがわからないので、これはやってはいけないということを書き過ぎて、逆に、事業場の方を委縮させてしまうこともあるので、こういう仕事だったらできるということを書くことが必要だと思います。かつ、そのためには、事業場からどういう仕事しているかというしっかりとしたデータが必要だと思います。事業場としては、労働者本人とよく話し合うことが必要で、安易に見捨ててはいけません。
これも経験例ですが、事業場の方から意見書を求められました。この方、専門職だったのですけど、その専門職の仕事ができないともう他に職場がない、他に提供できないと言われ、お手紙が来てしまうようなことも実際にありました。
これは、LINEのアプリですけど、LINEのアプリで翻訳できます。こういった形で、産業保健スタッフあるいはコーディネーターが、事業場と医療機関で、それぞれ違うことを話していても、それを翻訳してつなげていくことが大切だと思います。
これは昨年11月に広島で行われた研修会の時に使われたスライドを借りたものですが、例えば、高所作業といった時に、多分、医療機関は、左側の図はあまり考えないで、右側の図を考えているかもしれない。サポーターもどっちを考えているかわからない。右側の図も立派な高所作業で、この場合はきっちりと転落防止の措置がされていますけども、これがされていなかったら、そこから落ちると危ない。なぜ、高所作業ができないかと考えると、やはり、ふらつきがあるかもしれない、治療で貧血になるかもしれない。そうすると墜落防止措置がそこにないといけないけれど、そのような細かい情報は、やっぱり翻訳が必要だという例で、とてもいい例だと思います。
本日の両立支援の事例検討会ですが、前もって配布されています事例、Aさん、40代男性、胃がんの術後ですが、全切除ではなくて部分切除です。この場合、術後に気をつけないといけないのがダンピング症候群で、胃が切除されたために、今まで胃からその下の十二指腸へ降りるまで少し時間があったはずのものが、ストンと落ちてしまうもので、食後すぐから冷や汗、動悸が出てくる、あるいは頭痛、呼吸困難などの症状が起こるものがあります。
これを防ぐためには、ゆっくり食べる、1回の量を多くしないということが必要だといわれています。さらに、腸に行ったものから、今度はその後に血糖値が急激に上がって、それに対して、インシュリンが増えてきて、食後3時間頃に逆に低血糖になってしまうことがあるので、1回量を少なくして、その後に2、3時間後に、もう1回、少し補食(おやつとしてご飯を補うこと)が必要になってくることがままあります。そのために、胃がんの切除後に関しては、夕食が早い人は朝食との間と夕食後に1回おやつを入れるとか、夕食の遅い人は、図のように入れるといった形での食事の取り方が推奨されています。こんなおやつがいいそうです。
気をつけなければならないのは、油物の多いものとか刺激物は避けて欲しいといわれています。例えば、外食でよく出ますが、消化の悪いものはよくないし、それから、炭酸飲料なども避けた方がいいといわれています。
この方、早期の胃がんで、おそらく切除をして、この後は、昔でいうUFT、今ではTS-1を服用することになります。この内服薬は1日2回、朝晩飲んで、これを4週間飲んで、2週間休むという1コースを約1年間繰り返します。必ず1年間ではなくて、副作用によって、途中で止まることも少なからずありますが、これが繰り返されることになると思います。
この薬の副作用ですが、やはり多いのは皆さんイメージ通りで、気持ち悪くなる、食欲が落ちる、吐気が出てくる、嘔吐までいかなくてもとにかく気持ち悪い。TS-1の特徴として下痢をする方が少なからずいて、ひどい時には、食べれば下痢をする。それから、その合間も下痢をするということがあります。このような症状が起こった時に、すぐにトイレに行ける状況を作ってあげないといけないでしょうし、時間が経ってくると、手のひらの皮膚が赤く腫れ上がり、ヒビ割れをする手足症候群が出て、細かい作業がし難くなることがあります。さらに長くなってくると、意外と多いのですが、涙が出てきて、細かい作業がし難くなる、あるいは、味覚が落ちて嗅覚も落ちることもよくあることですので、食品関係の仕事に従事している人にとってはちょっときついです。
前もって、みなさんから、事業場から医療機関への情報提供、医療機関から事業場への情報提供について、事前の作業をしてもらっています。それを見ますと、「作業内容」に関しては、事業場、医療機関、支援機関のいずれの方も同じような内容で拾っていますし、「職務内容(区分)」に関しても、同じように拾っていて、特に、大きな差は無いようです。「現在の症状」に関しては、特徴的なのは、医療機関の方は、薬物療法であるとか食事のこととかに気をつけるようにというパターンが多いこと。支援機関の方は、食事の取り方についての指摘が多かったように見えます。「治療の予定」に関しては、医療機関の方は薬物療法そのものが多く、事業場からはどの程度通院が必要かに集中していて、興味深く感じました。続いて、「就業上の措置」に関しましては、支援機関と医療機関の方からは食事の取り方に集中していますし、支援機関の方からは、作業の強度についての指摘が多かったと見受けられます。
本日の作業は、これから皆様の事前の作業を元に、両立支援のプランを作っていたことになると思います。
グループワーク
グループワークは、参加者を6グループに分け、事前に、送付した事例をもとに、勤務状況報告書(様式①)と主治医意見書(様式②)を作成し、提出してもらい、各グループで、各人が作成した様式①、様式②をもとに、それぞれの立場からの意見交換を行った。
なお、各グループの構成は、グループワークの進行役のファシリテーターを置き、事業場、医療機関、支援機関の参加者をバランスよく振り分けた。また、各グループに、岡山県地域両立支援推進チームのメンバー、がんサバイバーその他オブザーバー参加を希望する者を加えた。
グループワークの結果の発表
Aグループ
様式①について
- 年次有給休暇などの制度のところが、医療機関側が、この情報だけで、実際、制度のことがわかるのかどうか少し疑問に感じた。
- 家での睡眠のことも配慮することも一人の人の生活全体を考える必要もあるので、そのことは必要だと感じた。
- 事業場で準備しておいた方が良いものを病院に確認しておきたい項目の中に書いたりして、事業場側としてどんなものを準備しておくものを具体的に書くことで、医療機関からの診断書の内容に反映してもらえるのではないかというような話があった。
- 利用可能な制度のところで、「両立支援の指針があり、支援プランを作成し、柔軟に対応可」と書いていたものがあり、そのように書いてあると医療機関としても心強いというような話になった。
様式②について
- この事例だけだと、職場環境の状況が分かりにくく書きづらいので、実際、患者と一緒に書いていかなければ、患者を置き去りにしてしまうのではないかというような話があった。
- この情報を事業場において、どこまでのことをどこまでの範囲に知らせるというところは悩むという話がでた。その時に、本人の同意を得て、本人の同意をもとに一緒に話しながら、事業場の中で、どこまで開示するかを決めることは、これも患者を置き去りにしないというところ良いのではないかという意見があった。
- 休憩時間のところで、「休憩時間を定期的に」というぐらいしか書いてなければ、どれぐらいの時間休憩を取ったらいいのかがわからないので、例えば、「2時間に一度は」と医師からの診断書に書いてあると、具体的に事業場としては対応しやすいので、具体的な指示を書いていただきたいという意見があった。
全体を通して
- 今回双方の視点を持ちながら書面を書くことで、やりやすかったという話があった。
- 事業場がどの視点を持ちながら患者さんを置き去りにせずに、押し付けにならないように対応しなければいけないというような話があった。
- 診断書が2週間ぐらいかかる医療機関が多いが、この書式のやり取りが、それぐらいタイムリーに、もっとタイムリーに出来るのかどうかは少し疑問があるとの意見があった。
- 病院側も事業場の働く人の立場に立って考える視点も徐々に浸透してきているので、少しずつの両立支援コーディネーターの働きが浸透していけばいいなということで、話で終わった。
Bグループ
様式①について
- 従業員の勤務に関する情報や職場で配慮した方が良いことを医師に伝えるときに、どのような情報を提供すればよいかという観点で話合いをした。
- 有休の残日数、就業規則の内容などを労働者本人が知らないことがあり、就業規則の内容を確認するいい機会であるとの話があった。
- 「傷病手当金 %」欄の未記入が結構あったが、給料が全くでない場合は、2/3支給されるので、66%となるとの話があった。
様式②について
- 参加者に医師がおり、その様式②が見本となり、大変参考になった。
- 医師の意見書に関し、医師が直接作成するかとの問いに、その医療機関では、両立支援チームがあり、コーディネーターがある程度作成し、確認して、内容を作成しているとの回答があった。
- 「現在の症状」や「その他医療者として確認しておきたい事項」などを記載するにあたり、…できないなど否定的な表現ではなく、できるだけ希望が持てる語尾で終わるよう書き方を心掛けているとの話があった。
- 全員で情報共有し、みんなでサポートできたらいいねという話があった。
- 様式①、②とも、本人署名欄があり、コーディネーターや医師が作成しても、本人の了解を得て作成することが大切で、本人署名欄は大事で、本人確認をもらった上で出せる書類であるとの話があった。
Cグループ
様式①について
- 事業場側から、相談窓口がはっきりしていると、本人だけでなく、事業場で、相談にのったり、アドバイスをしたりする立場の人にとっても心強いし、安心感がある。相談窓口がどこにあるかを確認しておくことは大事だとの意見があった。
- 本人としても、事業場側としても、出来る限り中長期的なビジョン(見通し)をできるだけたてておいた方が、今後のことも考えやすいし安心感につながるとの意見があった。
- 具体的に通院、受診、治療に関して、どのくらいの時間が必要になってくるかというところも大事な情報だとの意見があった。
- 抗がん剤・化学療法をしていて、抗がん剤のイメージが、一般的なところであるので、治療の副作用の個別性もしっかりと情報共有できたら、抗がん剤=ダメ、みたいなイメージがなくなってよいとの意見があった。
様式②について
- あまり、これはダメ、あれはダメという内容になってしまうと働けなってしまうし、かと言って、無理なことは書けないので、本人自身が、どのように働きたいかという意見を大事にしながら、内容を一緒に考えることが大事であるとの意見があった。
- 治療を続けると、どうしても急な体調不良で休んだり、仕事の予定が変わったりすること考えられるので、そういう時に、事業場側の余力でどれぐらい対応できるのか、人的なこと、休みのこと、職場のカバーなどがどの程度期待できるのかを確認する必要があるとの意見があった。
- 休みが続くと、元々よい評価だった人の評価がそれで下がってしまうことは辛いことだすし、直属の上司や同僚が受け入れてくれても、事業場のもっと上の方が駄目と言えば駄目になってしまうところもあるという話が出て、事業場全体の風土を働きやすいようにしていく、すぐには難しいけれど、一つ一つの症例の積み重ねで、近づけていけたらよいという話があった。
まとめ
- 本人が主役なので、あくまでも本人が働きたいという意思をもてることが一番で、それを支持することが、コーディネーターの役目。本人も前向きになれて、あとは周りも前向きな気持ちで受け入れてもらえるようなサポートが大事だという話になった。
Dグループ
様式①について
- 事業場側としては、医学的な知識が不足している場合が多いので見通しがとりにくいという意見があった。例えば、事例では、食事の配慮が必要なのか、休憩時間を分割で取る必要があるのかがよくわからないとの意見があった。
- 通勤に関しては、車で来られるというところで、時差出勤等で体の負荷を少し下げることなどを考えた方が良いのではないかという意見があった。
- 患者の方に聞かないといけない点として、連携している病院がどこなのかというところをチェックするという必要がある。また、業務内容として、細かい作業をしているのか、重いものを持つのかという点も確認する必要があるという意見があった。
様式②について
- 組織については、医療側からは、事業場側にどれくらいのことを聞いていいのかという疑問点があり、環境とか休暇制度など、どこまで事業場からの支援がもらえるのかというところが疑問点として上がった。
- 復帰に関しては、アルバイトのリーダーということもあり、休みにくい職場に戻るというのは検討した方がいいのではないか、また、相談する相手についても、事業場の担当者等は検討した方が良いのではないかというところが話し合いの中であった。
全体として
- 患者側が、どういう支援をしてもらいたいか、患者の希望に沿って支援をするのが一番理想だけれど、患者によっては、事業場側に言いにくいとか両立支援はしなくていいとかが出てしまうと両立支援が難しくなるので、患者それぞれに沿った両立支援していく方がよいとの意見があった。
Eグループ
様式①について
- 2ヶ月先どうなるかということを踏まえて、座り仕事や立ち仕事で働く工場の中が暑いのか、清潔な状況になるのかという具体的な環境部分や、座っている場合の低血糖の対応、動いている現場での低血糖になった時のリスクへの対応、副作用での体調不良時の対応方法を医師に聞けたらよいという話があった。
- 補食の時間帯について、日中であればどういう時間がいいのか、夜勤になった時にはどういう形になるのかという具体的な時間帯の提示とか、予測されるものなどが具体的に分かれば一番助かるという話があった。
- 夜勤に向けて、日勤から夜勤に切り替わる時は、時差をどれくらい持っていたらいいのか短時間から始めたらいいのかといった具体的なアプローチの方法を聞けたらよいという話があった。
様式②について
- 医療側から、事業場にどの程度一度に伝えて行ったらいいのかという情報の出し方について、優先順位を見ながら、時期を見ながら出していく必要があるという意見があった。
- 副作用や流動的な体調の変化について時系列で見ればよいという意見があった。
- 本人の状況に関して、医療側にその本心を吐露することも大いにあるところから、医療側が勝手な解釈をしているのではなく、本人が発する言葉をそのまま情報として伝えていくような努力が必要ではないかという意見があった。
- 医療側から、低血糖の予防で、補食の時間帯を具体的な数字を伝えることが難しいところもあるので、ある程度幅を持たせた、例えば1時間から3時間ぐらいでというような少し幅を持たせた情報の出し方も必要だという意見があった。
- 事業場側で、どの程度周りのフォローがあるかというような、作業をする場合において医療側が予測できるフォローが必要な部分などを提示できたらよいとの意見があった。
- 様式①、②には、限定的なやりとりではなく、継続してやりとりしていく必要があると思う。事例では、今は体重が8㎏減少して体力も落ちている状況であるが、2ヵ月後、その時の状況について、様式①、②をやり取りしていくことも、夜勤を復活させるには非常に大切なので、永続的な情報交換が必要であるとの意見があった。
制度について
- 事業場の就業規則に関して、復職支援のための短時間勤務とか試し出勤制度などがない場合があるので、そのような情報を早めにキャッチをして、間に入るソーシャルワーカーや産業保健総合支援センターからの、その整備についてアドバイスも、今後必要になってくるという意見があった。
Fグループ
様式①について
- 同じ事例検討でも、参加者間にいろいろ違うところがあって、作業環境についての認識についても、重作業なのか軽作業なのか、立ち仕事がどれぐらい大変かとかいうところで、少しずつ違う意見が聞かれた。このことから、医療機関に対して、細かく情報を伝えるための工夫が必要だという意見があった。
- 実際、両立支援を経験した参加者の話で、現場の状況を映像で撮ってそれを医師に見てもらうとか、現場の人に、どういう作業があるかを細かく箇条書きに書いてもらい、その作業ができるかどうかを見ていくとかの事例を紹介した。その中で、やはり聴き取りが必要かつ重要な仕事だと感じた。いかに、細かく聴き取れて、それを医師に伝えられるかというところで両立支援のサポートがうまくできるのではないかとの意見があった。
様式②について
- 様式②については、参加者皆、大方、同じことを書いていたが、特に重要だと感じたのは、今後も定期的な聴き取りを行うというところで、継続的に本人からの聴き取りを行う中で配置転換などを考えたりすることが必要だと言う意見があった。
- 働いている本人の思いは、どれぐらい働きたいか、どれぐらい大丈夫かという主観で話してもらい、それを聴き取ることを大事にしながら、そのことは体力次第というところはあるが、その体力をどうやって客観的に判定するかというところがポイントになっている。産業医がいない50人以下の事業場で、それを事業場が医師から意見を聴いて、どう判定するかは非常に難しいと思ったという話があった。
全体として
- どれほど細かい情報をどのように伝えるかという工夫が必要と思う。その際、本人の同意がどこまで取れるか、事業場にどこまでを伝えてよいのか、一緒に働いている人にどこまで伝えていいのかというところを非常に慎重に進めるべきだと思ったという話があった。
- もし、一緒に働いている人に、情報が、全く伝えられないで、その人が休憩時間をこまめに取ったりするようなことがあれば、周りの人が不平等に思うのではないかというところで、伝え方によっては、事業場の中で不平等感が出てしまうのではないかという意見があった。
- 実際に両立支援を経験した参加者からの意見では、病気のこと言わないでほしいと言った時には、病気だからということではなくて、例えば、「休憩時間を皆さんいっぱい取るようにしましょう。」ということにして休憩の取り方の工夫をしたという経験を聞かせてもらい勉強になったという話があった。
オブザーバーコメント
連合岡山
基調講演で田端先生の言われていました「話している言語が違う」ということが、労働者の立場で聞いてよくわかりました。そのような中、両立支援コーディネーターの本当に細やかな配慮に感銘しました。診断書を書くにあたっても患者さんの不利にならないように、事業場が対応しやすいように、またどうやったら具体的に分かるかと言ったことが、私の入ったグループで話し合われていました。参加者の発表を聴いていて、事業場全体の風土のことや、あと、不平等なイメージがあるということもすごく分かります。私たち労働組合として、よりプライバシーに配慮しつつ、上司や同僚の理解が促進できるよう取り組んでおりますし、実際、労働者が申出が出た時、対応が円滑に行くような就業規則の作成、これはなかなか中小企業では難しいところでもありますのが、こういった取り組みが広まっていくよう、しっかり我々も発信していきたいと思います。
岡山産業保健総合支援センター
両立支援コーディネーター基礎研修の修了者数については、昨年度末までに、全国で約4000人が受講しております。今年度のコーディネーター基礎研修修了者については約3500人が見込まれておりまして、今年度末では全体として7500人になる見込みでありますが、今年度のコーディネーター基礎研修については、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点からすべてをWeb方式の研修に変更されました。治療と仕事の両立支援は、本人、医療側、職場側など多くの人が関わってくることになります。
両立支援コーディネーターの役割としては、ガイドラインの両立支援の進め方に沿って勤務情報提供書の作成とか主治医意見書、それから事業場で作成する事後措置等の実施の手助けなどとなっています。この流れがスムーズに行くよう、早い段階から継続的に関わって事業場と医療機関との間の橋渡しを支援していくことや、仕事を辞めずに治療を継続ができるよう後方支援を行うことになります。
両立支援コーディネーターには、医療に関する基礎知識、産業保健に関する知識、労務管理、社会資源に関する知識やコミュニケーションスキルが求められていますが、必ずしも、コーディネーターが、これらすべての知識を熟知することが求められているわけではありません。チームで対応することが必要です。
本日の事例検討会で意見交換して感じたことなどを今後の取り組みに活かしていただきたい。岡山産業保健総合支援センターには、現在6人の両立支援促進員がおります。社会保険労務士が4名、産業看護職が2名おります。両立支援促進員はすべて両立支援コーディネーター基礎研修を修了していますので、治療と仕事の両立支援の普及・啓発のための個別訪問支援などを行っています。対応に悩んだ時、一緒に検討しなら解決策探っていきたいと考えています。
岡山労災病院
岡山労災病院では、10年ぐらい前から、両立支援チームとして活動しています。その当時は、今のような様式やツールもなくやってきましたけど、今は、ツールがありますのでこれを活用して、両立支援をどんどん進めていきたいと思います。今日、がん治療を経験された方もオブザーバーとして参加されており、その当時、両立支援がなかったようで、私の時も両立支援があれば良かったと言われていました。今後、皆さんで、両立支援の活動が広がるよう頑張っていきたいと思います。
総括(田端教授)
今回の事例検討会では、いろんな職種の人が、それぞれ別の職種の意見書まで書くということで、とても大変だったと思い、どうなるかと思いましたけど、たくさんの気づきを聞かせていただきまして、とても勉強になりました。
こういった気づきがあれば間違いなく素晴らしい復職プログラムができていくと思うのですが、発表のところで、話していただいたように、これをいかに持続・継続していくか、やはり、ストレートに行かないケースがたくさんあると思いますので、これを見直していく。例えば、最後のグループでの、2カ月の措置期間をおいて、また見直していくということはとても大切だと感じました。
今回のケースのように、専属の産業医のいないところでいかに持続していくか、多分、医療機関と職場だけのやり取りでこれを期待することは難しいと思っていた時に、コーディネーターがとても重要な役割を果たすのだろうと考えました。
先程、岡山労災病院では、両立支援コーディネーターが、すでに現実に活発に働かれているということで、それができれば、産業医のいない作業場でも、医療機関から事業場の窓口、その逆の窓口も、はっきり見えないところでも両立支援コーディネーターが上手くつないでいくことで両立支援ができていくのではないかと期待しています。