騒音障害防止のためのガイドラインが、約30年ぶりに改訂されました。
騒音障害防止対策は、その取組が進んでいる業種はあるものの、騒音障害防止対策の対象となる作業場において広く浸透しているとは言い難く、更なる対策を進める必要があること、また、旧ガイドライン策定後における技術の発展や知見の蓄積もあることから、ガイドラインが改訂されました。
今回は、新ガイドラインの改訂されたところについて解説します。
(2023年8月)
騒音障害防止対策(厚生労働省)
騒音障害防止のためのガイドライン、ガイドラインの解説、など
騒音作業
対象とする騒音作業は、別表第1は、労働安全衛生規則第588条及び第590条の規定に基づき、6月以内ごとに1回、定期に、等価騒音レベルを測定することが義務付けられている屋内作業場を掲げたもの、別表第2は、労働安全衛生規則上の義務付けはなされていないが、等価騒音レベルが85dB以上になる可能性が大きい作業場を掲げたものであり、旧ガイドラインからの変更は、ほとんどありません。
なお、「騒音障害防止のためのガイドライン見直し方針」では、「著しい音響環境下で顧客対応等の業務を行う作業場における業務」などいくつかの新たな業務が提案されましたが、新ガイドラインには盛り込まれず、それらの業務などに対する騒音障害防止対策として、「なお、別表第1及び別表第2に掲げる作業場以外の作業場であっても、騒音レベルが高いと思われる業務を行う場合には、本ガイドラインに基づく騒音障害防止対策と同様の対策を講ずることが望ましい。」という一文が盛り込まれています。
機械設備等製造業者の留意事項
機械設備等製造業者は、騒音源となる機械設備等について、設計及び製造段階からの低騒音化に努めるとともに、騒音レベルに関する情報を公表することが望ましいと、機械設備業者に対し製造する機械設備の騒音防止対策が求められています。
騒音障害防止のためのガイドライン見直し検討会の資料より
設備等の大きさによっては、設置後の騒音源対策が大規模なものとなり、多額の費用が発生する上に作業の制約を伴うことがある。このため、可能な限り設備等の設置時に低騒音の設計とし、低騒音の機械・工具を選定することが望ましい。
労働衛生管理体制
事業者は、衛生管理者、安全衛生推進者等から騒音障害防止対策の管理者を選任し、新ガイドラインで定める事項に取り組ませるとともに、建設工事現場等において、元方事業者は、関係請負人が新ガイドラインで定める事項を適切に実施できるよう、指導・援助を行うこととされました。
作業環境管理
旧ガイドラインでは、別表第1、第2にかかわらず、屋内作業場、屋内作業場以外の作業場に区分し、作業環境管理の方法を定めていましたが、新ガイドラインでは、別表第1に掲げる作業場と別表第2に掲げる作業場に区分し、さらに、別表第2に掲げる作業場を、屋内作業場、坑内の作業場、屋外の作業場に区分し、それぞれ作業環境管理の方法が定められています。
(1)別表第1に掲げる作業場
6月以内ごとに1回、定期に、「作業環境測定による等価騒音レベルの測定」に基づき、測定、評価、措置及び記録を行うこと。
施設、設備、作業工程又は作業方法を変更した場合は、その都度、測定すること。
(2)別表第2に掲げる作業場(屋内作業場)
6月以内ごとに1回、定期に、「作業環境測定による等価騒音レベルの測定」に基づき、測定、評価、措置及び記録を行うこと。
施設、設備、作業工程又は作業方法を変更した場合は、その都度、測定すること。
- 騒音源が移動する場合等においては、「個人ばく露測定による等価騒音レベルの測定」に基づき、測定、措置及び記録を行うことができる。
- 第Ⅰ管理区分に区分されることが継続している場所又は等価騒音レベルが継続的に85dB未満である場所については、定期に行う測定を省略することができる。
- 施設、設備、作業工程又は作業方法を変更した場合は、その都度、測定すること。
騒音障害防止のためのガイドライン見直し検討会の資料より
- 現行ガイドラインにおける作業環境測定は維持すべきである。個人ばく露測定は、まずは作業環境測定を補完する役割として位置付け、B測定や屋外での定点測定の代わりと実施するのがよい。
- 屋内作業場においても、個人ばく露測定を行うことで騒音ばく露防止対策に効果がある場合もある。
(3)別表第2に掲げる作業場(坑内の作業場)
6月以内ごとに1回、定期に、「定点測定による等価騒音レベルの測定」に基づき、測定、評価、措置及び記録を行うこと。
施設、設備、作業工程又は作業方法を変更した場合は、その都度、測定すること。
- 騒音源が移動する場合等においては、「個人ばく露測定による等価騒音レベルの測定」に基づき、測定、措置及び記録を行うことができる。
- 等価騒音レベルが継続的に85dB未満である場所については、定期に行う測定を省略することができる。
- 施設、設備、作業工程又は作業方法を変更した場合は、その都度、測定すること。
騒音障害防止のためのガイドライン見直し検討会の資料より
屋内作業場以外の作業場のうち、山岳トンネル工事の現場については、坑内作業場としてガイドラインに基づき定期的に定点測定が行われている。また、耳栓の着用や騒音健康診断など必要な対策につなげていることを考慮すれば、現行どおりの手法でよいのではないか。
(4)別表第2に掲げる作業場(屋外の作業場)
6月以内ごとに1回、定期に、「定点測定による等価騒音レベルの測定」または「個人ばく露測定による等価騒音レベルの測定」に基づき、測定、評価、措置及び記録を行うこと。
施設、設備、作業工程又は作業方法を変更した場合は、その都度、測定すること。
- 地面の上に騒音源があって、周辺に建物や壁等がない場所については、「等価騒音レベルの推計」に基づき、騒音レベルを推計し、その推計値を測定値とみなして、措置及び記録を行うことができる。
- 等価騒音レベルが継続的に85dB未満である場所については、当該定期に行う測定を省略することができる。
- 施設、設備、作業工程又は作業方法を変更した場合は、その都度、測定すること。
騒音障害防止のためのガイドライン見直し検討会の資料より
- 屋外の開放空間(近傍に壁などの大きな反射物で囲まれいない空間)では、騒音レベルは距離に応じて減衰する性質があるため、測定する位置の選定は測定結果に大きく影響し、特に、作業者が音源に最も近づいたときの騒音が、作業者がばく露する等価騒音レベルの値に大きく寄与する。ガイドラインに規定する「音源に近接する場所」における測定を行うためには、作業者が音源に最も近づいた位置に三脚等により騒音計を定置して測定する必要があるが、作業の状況や測定実施者の安全確保等の理由で測定を正しく行えず、作業者よりも後方で定点測定を行った場合、騒音レベルが過小評価されることとなる。
- このため、屋外作業場においては、作業者の胸や肩の位置に小型のばく露計等を装着して、所定の時間にわたり個人ばく露測定を行い、作業者の実際の騒音ばく露レベルを正しく把握する必要がある。
ばく露レベルの推計
- 屋外作業場において、個人ばく露測定が現実的でない場合として夜間の道路舗装工事等短時間で作業が完了してしまう場合や、1人の作業員が複数の手持動力工具を不規則に使用する場合などが考えられる。このような場合は、主要な手持動力工具について、あらかじめ操作者の位置における動作時の騒音ばく露レベルを測定した値を用いて、作業者の騒音ばく露レベルを推計することができる。
- また、製造者等から手持動力工具その他の騒音発生源に固有の音響パワーレベルに関するデータを入手できる場合には、前述の前提条件の下、騒音発生源からの距離を勘案して操作者及び周辺作業者の位置における騒音ばく露レベルを推計することができる。
作業管理
作業管理として、聴覚保護具の使用と作業時間の管理が新たに定められました。
(1)聴覚保護具の使用
聴覚保護具については、日本産業規格(JIS)T8161-1 に規定する試験方法により測定された遮音値を目安に、必要かつ十分な遮音値のものを選定すること。
事業者は、管理者に、労働者に対し聴覚保護具の正しい使用方法を指導させた上で、目視等により正しく使用されていることを確認すること。
危険作業等において安全確保のために周囲の音を聞く必要がある場合や会話の必要がある場合は、遮音値が必要以上に大きい聴覚保護具を選定しないよう配慮すること。
騒音障害防止のためのガイドライン見直し検討会の資料より
- 耳栓などの聴覚保護具は、ガイドラインが制定された1990年以降、技術的に大きく進歩しており、2020年にはJIST8161-1など聴覚保護具の遮音性能の試験方法が定められたが、現場ではまだあまり知られていない。
- 遮音性能は大きければよいというものでなく、適切なものを選定する必要があることから、ガイドラインにおいて、聴覚保護具について独立した項目を示すのがよい。
- 聴覚保護具は実際に達する騒音を減衰させる効果が大きいが、正しく着用して本来の遮音性能を確保することは、思っているよりも難しい。実際の遮音性能は着用方法により大きくばらつく上、耳栓を浅く挿入すると、作業中に耳栓が緩んでしまうこともあることから、騒音作業従事者に対する教育や、管理者に対する教育は重要である。
- また、聴覚保護具を正しく着用して十分な遮音性能を得られているかどうかを、フィットテストにより定量化して理解することも有効である。
(2)作業時間の管理
作業環境を改善するための措置を講じた結果、第Ⅰ管理区分とならない場合又は等価騒音レベルが85㏈未満とならない場合は、次の表を参考に、労働者が騒音作業に従事する時間の短縮を検討すること。
表 等価騒音レベル(A特性音圧レベル)による許容基準 | ||||||||
等価騒音レベル(dB) | 85 | 86 | 87 | 88 | 89 | 90 | 91 | 92 |
1日のばく露時間 | 8時間00分 | 6時間20分 | 5時間02分 | 4時間00分 | 3時間10分 | 2時間30分 | 2時間00分 | 1時間35分 |
等価騒音レベル(dB) | 93 | 94 | 95 | 96 | 97 | 98 | 99 | 100 |
1日のばく露時間 | 1時間15分 | 1時間00分 | 0時間47分 | 0時間37分 | 0時間30分 | 0時間23分 | 0時間18分 | 0時間15分 |
健康管理
(1)雇入時等健康診断
オージオメータによる聴力の検査に6000ヘルツにおける検査が加わりました。
騒音障害防止のためのガイドライン見直し検討会の資料より
- 初期症状を示すdip測定の結果から見ると、1,000Hz、4,000Hzの測定に加えて、6,000Hzの測定が必要。
- 二次検査、雇入時等健康診断における聴力検査の項目について、聴力低下の初期兆候を確実に把握するため、高音域の聴力検査として、6,000ヘルツの検査を追加すべきである。
(2)定期健康診断
6月以内ごとに1回、行わなければならない定期健康診断について、第Ⅰ管理区分に区分されることが継続している場所又は等価騒音レベルが継続的に85㏈未満である場所において業務に従事する労働者については、省略することができるようになりました。
騒音障害防止のためのガイドライン見直し検討会の資料より
- 騒音ばく露レベルに応じて定期健康診断を省略することは、現行ガイドラインでも認められているので、リスクに応じた管理という点でこれを明確化することは妥当である。ただし、屋外の建設工事現場など騒音レベルが定点測定を行うこととされている作業場では、対象者の範囲を明確にする必要がある。
- 作業環境測定の結果の評価に基づき、第1管理区分に区分された場所又は屋内作業場以外の作業場で測定結果が85dB(A)未満の場所における業務にのみ従事する労働者については、定期健康診断を省略して差し支えないとされている。
- ガイドラインにおいて、定期健康診断の対象とすべき、等価騒音レベル85dB(A)以上の騒音にばく露する可能性の高い労働者を明確化した上で、定期健康診断を省略できる基準についても明確化する必要がある。
オージオメータによる選別聴力検査について、1,000ヘルツについては30dB、4,000ヘルツについては25dB及び30dBの音圧での検査とされました。
騒音障害防止のためのガイドライン見直し検討会の資料より
- 前駆期(30dB以上)に至る前の発症予防が難しい。
- 選別聴力検査時に用いる音圧レベルについては、現状の1音圧レベルに加え、より小さいものを追加して複数の音圧レベルについても行うことにより、1,000ヘルツ、4,000ヘルツにおける聴力の半定量的な結果及びその経時変化を把握することとする。
- 定期健康診断で普及している携帯型オージオメータの仕様も勘案し、計測する音圧レベルは1,000ヘルツで25dB,30dB、4,000ヘルツで25dB,30dB,40dBとすることが適当である。
- 高音域として4000Hzで音圧レベル40dBでの所見の有無のみが判定されるところ、聴力レベル30-40dBの者については所見なしとされ、最終的な健康管理区分において「要観察者」(高音域については30-50dB)とされるべき対象者が見落とされるおそれがある。
- 現在の6か月以内ごとに行う定期健康診断(一次検査)において対象者全てに対して一次検査として行われている選別聴力検査は、周波数ごとに1つの音圧レベルでの異常の有無を判別するのみであるため、聴力の経時的な変化をとらえて騒音性難聴のごく初期の段階で聴力低下の兆候を把握することが困難である。このため、一次検査としてできる限り検査方法を簡潔にしつつも、周波数ごとに複数の音圧レベルでの計測を行い、経時的変化を確認することによって一次検査における聴力低下の兆候の検出感度の向上を図るべきである。
二次検査について、二次検査を実施すべき医師が必要と認める者に、定期健康診断の結果、30dBの音圧での検査で異常が認められる者が明記されるとともに、オージオメータによる聴力の検査に6000ヘルツにおける検査が加わりました。
また、雇入時等健康診断又は過去の二次検査の結果、前駆期の症状が認められる者及び聴力低下が認められる者については、定期健康診断の選別聴力検査を省略して、二次検査を行うこととして差し支えないとされました。
騒音障害防止のためのガイドライン見直し検討会の資料より
- ひとたび有所見とされた対象者は、次回から二次検査を行えば足りるはず。騒音性難聴は改善しないので、無用なスクリーニング検査を避けることは当然だが、現実には行われている。
- ガイドラインとしてもスクリーニング検査を省略できるよう、対応を明記しておくのが合理的。
労働衛生教育
労働衛生教育に、管理者に対する労働衛生教育が加わりました。カリキュラムは、次のとおりです。
① 騒音の人体に及ぼす影響
② 適正な作業環境の確保と維持管理
③ 聴覚保護具の使用及び作業方法の改善
④ 関係法令等
また、騒音作業に従事する労働者に対する労働衛生教育のカリキュラムが、
① 騒音の人体に及ぼす影響
② 聴覚保護具の使用
に変更されるとともに、第Ⅰ管理区分に区分されることが継続している場所又は等価騒音レベルが継続的に85㏈未満である場所において業務に従事する労働者については、当該教育を省略することができることになりました。
騒音障害防止のためのガイドライン見直し検討会の資料より
- 騒音作業従事者向け教育として、現行の3時間は負担が大きすぎて実効性に乏しいことから、雇入れ時や騒音作業への配置替えの際に、ポイントを絞った短時間の教育を行うほうがよい。それにより、対象者のすそ野を拡げやすくなり、他の有害業務に対する教育と同時に行うことも可能となるなど、メリットが大きい。
- 一方、騒音作業従事者を指揮する管理者に対する教育は、しっかり行う必要がある。製造業等における衛生管理者や職長など、建設業においては現場全体を管理する者を定めて管理者教育を行い、騒音作業従事者への教育を担ってもらうことも考えられる。