2025年7月

治療と仕事の両立支援の努力義務化

労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(略称労働政策総合推進法)に、治療と仕事の両立支援に対する事業主の責務が明記されました。

その内容は、

事業主は、疾病、負傷その他の理由により治療を受ける労働者について、就業によって疾病又は負傷の症状が増悪すること等を防止し、その治療と就業との両立を支援するため、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならない。

というものです。施行期日は、令和8年4月1日です。

労働施策総合推進法では、厚生労働大臣は、事業主が治療と仕事の両立支援の適切かつ有効な実施を図るための必要な指針「治療と仕事の両立支援指針」を定め、これを公表するものとするとされています。また、治療と仕事の両立支援指針は、事業場における労働者の健康保持増進のための指針などの指針と調和が保たれるものでなければならないとされています。

さらに、厚生労働大臣は、治療と就業の両立支援指針に従い、事業主又はその団体に対し、必要な指導、援助等を行うことができるとされています。

高齢者の就労の増加や医療技術の進歩等を背景に、病気を抱える労働者は年々増加しており、今後もより一層の増加が見込まれています。そのため、病気になっても生き生きと働き続けることのできる環境の整備が重要となっており、治療と仕事の両立支援の必要性が高まっています。

治療と仕事の両立支援を推進するため、厚生労働省において、平成28年に「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン( https://chiryoutoshigoto.mhlw.go.jp/download/ )」を策定し、事業場における取組の周知啓発を図っていますが、中小企業を中心に取組状況は低調な状況です。

ガイドラインに基づく取組を定着させるため、両立支援のための事業者の取組やガイドラインを法的に位置付けることが必要であることから、労働政策審議会の審議を経て、今回の法改正となったものです。

従いまして、新たに策定される治療と仕事の両立支援指針は、事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドラインを基に策定されるものと想定されます。

治療と仕事の両立支援カード

厚生労働省では、より簡便かつ迅速に手続きを進め、支援につなげられるよう、「治療と仕事の両立支援カード( https://chiryoutoshigoto.mhlw.go.jp/download/ )」を令和6年3月に開発しました。

今後、「治療と仕事の両立支援カード」について、企業に理解を求めるとともに、医療機関での活用が促進されるような支援策を講じ、関係者の連携した治療と仕事の両立支援の取組を積極的に推進することとされています。

従来からあるスキームと、新たに追加されたスキーム

「治療と仕事の両立支援カード」は、治療を受けながら働き続けることを希望する労働者(患者)が、自身の職場や働き方等の情報を記載して医療機関に提出することで、医師が労働者(患者)を経由して事業者に対して必要な情報提供を行うための書式です。

新たに追加されたスキームは、従来からのものに比べ、①勤務情報提供支援のプロセスがないことで、過程を1つスキップして、より迅速な支援につなげられるものです。

治療と仕事の両立支援カード
第170回安全衛生分科会資料より

本人記載欄と医師記載欄

下図は治療と仕事の両立支援カードの様式です。左側は労働者本人が記載する欄となっています。

本人記載欄
医師記載欄

こちらは作業の内容を、(1)身体上の負荷がある作業、(2)事故の可能性が高まる作業といった形で類型化したものを示して、該当する所に○をするようになっており、一目でどういったリスクのある作業に関わっているかというのが分かるようになっています。

これを基に、右側の主治医が記載する欄のそれぞれの作業ごとに必要な配慮事項についてチェックボックス形式でチェックすることで、極めて簡便に明示できるようになっています。

それにより、的確かつ迅速に支援につなげられるものと期待されています。

治療と仕事の両立支援を行うための環境整備と進め方

事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドラインでは、両立支援を行うための環境整備(実施前の準備事項)として、次の4つの取組が示されています。

  • 事業者による基本方針等の表明と労働者への周知
  • 研修等による両立支援に関する意識啓発
  • 相談窓口等の明確化
  • 両立支援に関する制度・体制等の整備

また、両立支援の進め方としては、次のとおりの流れが示されています。

治療と仕事の両立支援の流れ
厚生労働省:治療と仕事の両立支援ナビより

なお、①仕事に関する情報の提供、②主治医意見の提供、⑤「両立支援プラン」の策定、⑧「職場復帰支援プラン」の策定には、それぞれ様式例が示されています。

情報提供

事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドラインに基づく環境整備や取組については、「事業場における環境整備・取り組み事例を踏まえた参考資料」が参考になります。

また、厚生労働省のホームページ「治療と仕事の両立支援ナビ」にも、治療と仕事の両立支援に関する情報が多数掲載されています。

岡山産業保健総合支援センターでは、治療と仕事の両立支援に関する制度の導入等を促進するため、事業場を訪問し、治療と仕事の両立支援に関する制度の導入に関する支援を実施しています。

また、治療と仕事の両立支援に関する事業者、産業保健関係者等からの相談に加え、がん等の患者からの両立支援に関する相談に対応するため、産業保健総合支援センターで行う相談対応に加え、岡山県下11の医療機関に両立支援出張相談窓口を設置し、積極的にがん等の患者(労働者)からの相談に対応しています。

さらに、医療機関の患者(労働者)や事業者からの申出に応じ、必要に応じて医療機関等と連携し、個別の患者(労働者)に係る健康管理について、事業場と患者(労働者)の間の治療と仕事の両立に関する個別調整支援を実施しています。