(2021年11月)

1.特別有機溶剤などの用語

特別有機溶剤は、有機溶剤であって、がん等の労働者に重篤な健康障害を及ぼすおそれのあるものについて、特定化学物質として規制強化された、次の有機溶剤です。

①エチルベンゼン
②クロロホルム
③四塩化炭素
④1・4―ジオキサン
⑤1・2―ジクロロエタン(別名二塩化エチレン)
⑥1・2―ジクロロプロパン
⑦ジクロロメタン(別名二塩化メチレン)
⑧スチレン
⑨1・1・2・2―テトラクロロエタン(別名四塩化アセチレン)
⑩テトラクロロエチレン(別名パークロルエチレン)
⑪トリクロロエチレン
⑫メチルイソブチルケトン

このうち、①、⑥以外をクロロホルム等といいます。

また、特別有機溶剤等は、
(1)特別有機溶剤
(2)特別有機溶剤を含有する製剤その他の物で、特別有機溶剤の含有量が重量の1%を超えるもの
(3)特別有機溶剤又は有機溶剤の含有量(これらの物を2以上含む場合にあっては、それらの含有量の合計)が重量の5%を超えるもの
をいいます。

特定有機溶剤混合物は、特別有機溶剤又は有機溶剤の含有量(これらの物を2以上含む場合にあっては、それらの含有量の合計)が重量の5%を超えるものをいいます。

2.規制対象の範囲

特定化学物質障害予防規則(特化則)の健康診断は、特別有機溶剤業務特定有機溶剤混合物に係る業務が対象となります。

特別有機溶剤業務は、
【1】クロロホルム等有機溶剤業務
【2】エチルベンゼン塗装業務
【3】1・2―ジクロロプロパン洗浄・払拭業務
です。

【1】クロロホルム等有機溶剤業務
クロロホルム等を製造し、又は取り扱う業務のうち、屋内作業場等において行う次に掲げる業務です。

①クロロホルム等を製造する工程におけるクロロホルム等のろ過、混合、攪拌、加熱又は容器若しくは設備への注入の業務
②染料、医薬品、農薬、化学繊維、合成樹脂、有機顔料、油脂、香料、甘味料、火薬、写真薬品、ゴム若しくは可塑剤又はこれらのものの中間体を製造する工程におけるクロロホルム等のろ過、混合、攪拌又は加熱の業務
③クロロホルム等を用いて行う印刷の業務
④クロロホルム等を用いて行う文字の書込み又は描画の業務
⑤クロロホルム等を用いて行うつや出し、防水その他物の面の加工の業務
⑥接着のためにするクロロホルム等の塗布の業務
⑦接着のためにクロロホルム等を塗布された物の接着の業務
⑧クロロホルム等を用いて行う洗浄(⑫に掲げる業務に該当する洗浄の業務を除く。)又は払拭の業務
⑨クロロホルム等を用いて行う塗装の業務(⑫に掲げる業務に該当する塗装の業務を除く。)
⑩クロロホルム等が付着している物の乾燥の業務
⑪クロロホルム等を用いて行う試験又は研究の業務
⑫クロロホルム等を入れたことのあるタンク(クロロホルム等の蒸気の発散するおそれがないものを除く。)の内部における業務

【2】エチルベンゼン塗装業務
エチルベンゼン及びエチルベンゼンを含有する製剤その他の物(エチルベンゼンの含有量が1%を超えるもの)を製造し、又は取り扱う業務のうち、屋内作業場等において行う塗装の業務をいいます。

【3】1・2―ジクロロプロパン洗浄・払拭業務
1・2―ジクロロプロパン及び1・2―ジクロロプロパンを含有する製剤その他の物(1・2―ジクロロプロパンの含有量が1%を超えるもの)を製造し、又は取り扱う業務のうち、屋内作業場等において行う洗浄又は払拭の業務をいいます。

3.健康診断

(1)特別有機溶剤業務の健康診断

特別有機溶剤業務に常時従事する労働者に対し、特化則別表第3の左欄に掲げる業務の区分に応じ、雇入れ又は当該業務への配置替えの際及びその後同表の中欄に掲げる期間以内ごとに1回、定期に、同表の右欄に掲げる項目について医師による健康診断を行わなければなりません。
また、常時従事させたことのある労働者で、現に使用しているものに対し、特化則別表3の左欄に掲げる業務のうち労働者が常時従事した同項の業務の区分に応じ、同表の中欄に掲げる期間以内ごとに1回、定期に、同表の右欄に掲げる項目について医師による健康診断を行わなければなりません。

対象となる業務は、次の業務です。
①エチルベンゼン(これをその重量の1%を超えて含有する製剤その他の物を含む。)を製造し、又は取り扱う業務
②1・2―ジクロロプロパン(これをその重量の1%を超えて含有する製剤その他の物を含む。)を製造し、又は取り扱う業務
③ジクロロメタン(これをその重量の1%を超えて含有する製剤その他の物を含む。)を製造し、又は取り扱う業務

さらに、健康診断の結果、他覚症状が認められる者、自覚症状を訴える者その他異常の疑いがある者で、医師が必要と認めるものについては、特化則別表第4の左欄に掲げる業務の区分に応じ、それぞれ同表の右欄に掲げる項目について医師による健康診断を行わなければなりません。

健康診断項目に関する通達はこちら(特別有機溶剤健康診断関連通達)

(2)特定有機溶剤混合物に係る業務の健康診断

特定有機溶剤混合物に係る業務に前項の業務に常時従事する労働者に対し、雇入れの際、当該業務への配置替えの際及びその後6月以内ごとに1回、定期に、有機溶剤の特殊健康診断を行わなければなりません。

健康診断項目は、次のとおりです。
①業務の経歴の調査
②作業条件の簡易な調査
③有機溶剤による健康障害の既往歴並びに自覚症状及び他覚症状の既往歴の有無の検査
④貧血検査、肝機能検査、腎じん機能検査、神経学的検査についての既往の異常所見の有無の調査
⑤別表の下欄(尿中の有機溶剤の代謝物の量の検査を除く。)及び第5項第2号から第5号までに掲げる項目についての既往の異常所見の有無の調査
⑥有機溶剤による自覚症状又は他覚症状と通常認められる症状の有無の検査

健康診断項目に関する通達はこちら(有機溶剤健康診断関連通達)

なお、特別有機溶剤の健康診断と特定有機溶剤混合物に係る業務の健康診断を併せて行う場合には、共通の項目については重ねて実施する必要はありませんが、それぞれの項目についての結果の記録については、特化則、有機溶剤中毒予防規則それぞれの規定に基づき作成し。保存しなければなりません。

(3)特別有機溶剤業務の健康診断と特定有機溶剤混合物に係る業務の健康診断の関係

特定有機溶剤などの含有率による特別有機溶剤業務の健康診断と特定有機溶剤混合物に係る業務の健康診断の関係は下の図のとおりとなります。

例1
次の成分を含有する塗料を用いて行う屋内作業場における塗装業務
○トルエン …6%
○キシレン …3%
○エチルベンゼン …8%

  • 特別有機溶剤であるエチルベンゼンが1%を超えて(8%)含有する製剤その他の物に該当するので、特別有機溶剤等となる。
  • エチルベンゼンを含有する製剤その他の物(エチルベンゼンの含有量が1%を超えるもの)を製造し、又は取り扱う業務のうち、屋内作業場等において行う塗装の業務に該当するので特別有機溶剤業務となる。
  • 有機溶剤であるトルエンとキシレンの合計が9%で、5%を超えるので、特定有機溶剤混合物に該当する。
  • したがって、特別有機溶剤業務の健康診断と特定有機溶剤混合物に係る業務の健康診断を実施する必要がある。

例2
次の成分を含有する物を用いて行う洗浄の業務
○スチレン…0.67%
○酢酸イソブチル…10%
○酢酸ノルマル-ブチル…10%

  • 特別有機溶剤であるスチレンが1%未満であるので、特別有機溶剤等に該当しない。
  • 有機溶剤である酢酸イソブチルと酢酸ノルマル-ブチルの合計が、5%を超えるので、特定有機溶剤混合物に該当する。
  • したがって、特定有機溶剤混合物に係る業務の健康診断を実施する必要がある。

4.健康診断個人票

特別有機溶剤業務の健康診断結果については、特定化学物質健康診断個人票(様式第2号)を作成し、これを30年間保存しなければなりません。また、特定有機溶剤混合物に係る業務の健康診断結果については、有機溶剤等健康診断個人票(様式第3号)を作成し、これを5年間保存しなければなりません。
[修正しました(2022.04.21)]

特定化学物質健康診断個人票(様式第2号)
有機溶剤等健康診断個人票(様式第3号)

5.医師への意見聴取と事後措置

特別有機溶剤業務の健康診断や特定有機溶剤混合物に係る業務の健康診断の結果、異常の所見があると診断された労働者について、労働者の健康を保持するために必要な措置について、医師等の意見を聴かなければなりません。

なお、規模50人未満の事業場については、地域産業保健センターが無料で、医師の意見聴取をします。

また、医師等の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるなどの適切な措置を講じなければなりません。

6.健康診断結果報告

健康診断を行ったときは、遅滞なく、特別有機溶剤業務の健康診断については、特定化学物質健康診断結果報告書(様式第3号)を、特定有機溶剤混合物に係る業務の健康診断については、有機溶剤等健康診断結果報告書(様式第3号の2)を所轄労働基準監督署に提出しなければなりません。

特定化学物質健康診断結果報告書(様式第3号)
有機溶剤等健康診断結果報告書(様式第3号の2)