2022年8月2日(火)に配信された「岡山さんぽメールマガジン第175号」です。

1.相談員便り

新入社員等における「リアリティショック」からの回復の遅れに対する支援について(谷原弘之相談員)

そもそも「リアリティショック」とは

「リアリティショック」は、Kramer1)によると、新卒看護師について「卒業後の実社会での実践準備ができていないと感じる、特定のショック反応のこと」としています。新人の職場適応の経過をみると、6月頃にリアリティショックに陥り、夏の休暇でリフレッシュしたあとは元気を取り戻し、職場適応に向かうというのがこれまでの定型だったと思います。

しかし近年は新型コロナウイルス感染症まん延の影響を受け、夏の休暇があっても海外旅行等に出かける機会が少なくなり、リフレッシュが中途半端となっているため、思うようにエネルギーの充電ができていない人が出てきている気がします。これは看護師だけではなく、新入社員における“5月病・6月病”からの回復過程にも通じるかもしれません。

新人看護師におけるリアリティショックの現状に関する調査2)からみた、定型の回復過程

筆者らは、新人看護師のリアリティショックに関し、入職後1年の間で落ち込みやすい時期と回復の実態を明らかにすることを目的にアンケート調査を実施しました。実施時期は2019年2月から3月で、入職後1年未満の看護師97名(男性6名,女性91名)のうち、欠損のあった4名を除いた93名(平均年齢22.7歳,有効回答率は95.9%)を分析対象としました。

結果、新人看護師が落ち込みやすい時期と回復の実態をみると、気分が落ち込んだ月は6月が最も多く、39名(41.9%)が感じていました。この結果は、先行研究と一致していました。次に、今回のアンケートでの質問では「該当月を全て記入してください」としたため、6月に気分が落ち込んだと回答した人は、実際には6月頃に入職後のリアリティショックのピークがあり、夏の休暇でリフレッシュができると気持ちを立て直せるようにみえ、これが定型の回復過程に見えます。

メンタルヘルス不調になりやすい非定型の回復過程への支援が大切

メンタルヘルス不調になりやすい時期を検討するため、「気分の落ち込みがあった」と30名(32.3%)以上が回答した月を確認したところ、5月から10月まであり、11月から徐々に下がっていました。新人看護師は10月頃までは落ち込みやすい状況が続きますが、その後仕事に慣れて回復していく可能性があると考えられます。したがって、夏から秋にかけて一見調子が良さそうに見えても、気分の波があることを周囲が認識し、些細な変化に気づくことが必要だと考えます。

気分の落ち込みから回復できたきっかけについては、「自信がついてきた」、「同期・親・友人に相談」、「先輩に相談」、「リフレッシュ」が挙げられました。これらの内容から、気分の落ち込みから回復できた背景には、自分から周囲に相談する等、主体的に行動していること及び周囲の支援がタイミングよく提供できていることがうかがえます。しかし、自分から相談できない新入社員に対しては、周囲が気を配り、いつもと表情が違うと思った場合は声をかける等、きめ細かい配慮が必要と考えます。

引用文献
1)KramerM:Realityshock:Whynursesleavenursing.C.V.Mosby,StLouis,1974.
2)谷原弘之,水子学,高尾堅司,瀧川真也:入職後1年未満の看護職員の落ち込みやすい時期と回復の実態.
川崎医療福祉学会誌,30(1),265-270,2020.

《谷原相談員の研修会》
https://okayamas.johas.go.jp/tag/tanihara_hiroyuki/

熱中症にご注意を(難波靖治相談員)

ここ何年もテレビ、雑誌でこの時期になると熱中症の話が必ず話題となります。例年ですと熱中症の救急搬送患者は6月から少しずつ増え始め、7月、8月でピークを迎えます。

私も6月に入り事業所へ訪問するとき「熱中症対策はできていますか?」と聞いていましたが、どこの事業場も保冷剤、水分、塩分補給の準備には余念がありませんでした。しかし、暑さは予想をはるかに超えて早くやってきました。私は、この原稿を7月初旬に書いていますが、岡山では6月28日に梅雨明け、6月中に梅雨明けとなったのは記録のある1951年以降で、初めてとのことだそうです。

岡山県下でも6月下旬から35度を超える地点が増え、まるで真夏の様相を呈しています。全国的にも同様な気候となっています。昨年6月1か月間での全国での熱中症搬送救急患者は4945人であったのに対し、今年6月20日から26日までの1週間での全国での熱中症救急搬送患者数は4551人に及んでいました。直近猛暑と言われた平成30年でも6月1か月の熱中症搬送救急患者5269人でしたのでおそらく今年の6月は過去最高の熱中症搬送患者数になるのではないかと思われます。

これから夏本番に向かいさらに暑い日が続くことが予想されます。こうなってくるとあと2か月最大限の備えをして熱中症の対策をとるしかありません。

熱中症対策として

  1. 室内での気温調節
  2. 屋外での日傘、帽子の着用、こまめな休憩
  3. 保冷剤、冷たいタオルなどで体を冷やす
  4. こまめな水分補給(塩分も忘れずに)

などがあげられており、事業場でもこれらのことには気をつけられていると思います。

それ以外に暑熱順化と言われる状態が熱中症予防に有効といわれています。これは軽い運動をすることで汗を出すことや、皮膚の血管を拡張させ、体温を下げる機能が上がったり、汗中のナトリウム濃度を下げミネラル喪失を防いだり、循環血液の量を多めに保つ事で熱中症になりにくい体を作ることです。

暑熱順化には15分程度軽いウォーキング・ジョギング、30分程度のサイクリング、室内でのストレッチ、湯船に入り適度に汗をかくことなどが有効と言われています。ただし、無理に汗を出そうと急に過酷な環境で運動を行うと熱中症を誘発してしまうかもしれません。最初は涼しい時間帯に少しずつ行うようにしてください。

また、暑熱順化には上記のような運動を続けても数日から数週間かかりますし、運動をやめると早ければやはり1週間程度でもとに戻ってしまうと言われていますので注意が必要です。

まだ暑い日が続きます。皆さんも無理のない程度に運動して熱中症に強い体を作りましょう。

《難波相談員の研修会》
https://okayamas.johas.go.jp/tag/nanba_seiji/

2.研修会のご案内

【Zoom】
★マークがついたものは、後日見逃し配信(YouTube配信)を予定しています。当日に都合が悪い場合でも、Zoom研修会にお申し込みください。

●9/1(木)14:00~16:00『キャリアコンサルタント視点からみた「がん治療と就労の両立支援」』
→「がんなのですが、今後、仕事をどうしたらよいでしょうか?」と突然、労働者から相談を受けたら、あなたはどうしますか?相談場面等で役立つ心がけと対応方法、特に、(1)傾聴のコツ、(2)キャリアの知識を学びます。

●9/5(月)13:00~14:30『「聞き方」のコツ トレーニング2』
→悩み・ストレスによる体調変化などを来した従業員に対する話の聞き方をロールプレイを通して学習していきましょう。グループワークを行います。

●9/12(月)10:00~11:30『国境を越える産業保健』★
→コロナ禍のトンネルを抜け、海外とのビジネス往来も再開してきます。そのような中で、海外出張者や赴任者に伝えるべきことを最近の動向を踏まえて解説します。

●9/21(水)14:00~15:30『LGBTQ/SOGIの基礎知識と企業が考えること』★
→企業の人事や産業保健の担当者が知っておくべきLGBTQ/SOGIの基礎知識を解説するとともに、特に、トランスジェンダー当事者への対応を考えます。

●9/26(月)13:30~15:00『全国労働衛生週間、粉じん作業作業場、有機溶剤、特定化学物質取り扱い作業場の作業環境管理、作業管理について』★
→作業環境管理、作業管理において「局所排気装置」、「呼吸用保護具」、「労働衛生保護具」などについてわかりやすく説明させていただきます。

【YouTube配信+Zoom(質疑応答とグループワーク)】
約1週間前から講義動画をYouTubeにて配信します。グループワークの参加を希望されない方は、質疑応答の後、Zoomから退出してください。

●8/22(月)15:30~17:00『メンタルヘルス対策』、他
●9/28(水)15:30~17:00『メンタルヘルス(手順と様式)』、他

→タイトルのテーマについて、「基礎理論編」「基礎実践編」および「FAQ(よくある質問と回答)」の3モジュール(1モジュール15分目安)で構成されます。

【YouTube配信】
期間内であれば何度でも視聴できます。

●8/24(水)13:30~8/26(金)16:30
『情報機器作業に関する健康障害の予防について』(90分)
→VDT作業から「情報機器作業」と名称が変わりました。多くの方々が使用している情報機器作業の健康障害予防について紹介いたします。

●9/9(金)13:30~9/13(火)16:30
『初めてでもわかる職場における健康管理』(90分)
→職場の健康管理を推進する上で重要な役割を担う「定期健康診断」と「ストレスチェック制度」に関して初めての方にでもわかるように解説します。

【会場に集まる研修会】
ピュアリティまきび(岡山市北区下石井2-6-41)で開催します。

●8/19(金)14:00~15:30
『発達障害労働者の行動特性に準じた対応について』
→近年は、大人の発達障害かも(?)と思う事例が増えてきました。そんな特性を持った方への職場適応支援は、周囲の努力だけはうまくいかないことが多いです。今回は、特性を持たれた方への対応のコツを紹介します。昨年度と同じ内容です。

◆参加申し込みはこちら
https://okayamas.johas.go.jp/training/

3.産業医研修会(2022年9月)

日時:9月8日(木)14:30~16:30

会場:岡山県医師会館三木記念ホール

石綿関連疾患の診断―石綿肺と良性石綿胸水を中心として―
石綿が使用されている建築物の実際例と現場巡視時の注意事項

講師:岸本 卓巳(アスベスト疾患研究・研修センター所長)
講師:横溝 浩(横溝労働安全衛生コンサルタント事務所所長)

単位数:生涯専門1単位、実地1単位
受講料:無料

お申込みはこちら:https://okayamas.johas.go.jp/2022-0908/

日時:9月15日(木)14:30~16:30

会場:岡山県医師会館三木記念ホール

演題1:作業管理-労働時間管理にどう関与するか-
演題2:具体的な過重労働対策

講師:高尾総司(岡山大学大学院疫学・衛生学分野 准教授)

単位数:生涯専門2単位
受講料:無料

お申込みはこちら:https://okayamas.johas.go.jp/2022-0915/

4.令和5年度「産業医学調査研究」募集

公益財団法人 産業医学振興財団では、産業医学の振興と職場で働く人々の健康確保に資することを目的とした調査研究を以下の内容で募集いたします。

*採用予定件数:4件程度
*研究期間:1年間(令和5年4月1日~令和6年3月31日)
*研究費:上限150万円
*申請期限:令和5年2月末日必着
*申請資格、その他の詳細はホームページをご覧ください。
https://www.zsisz.or.jp/

【お問合せ先】
(公財)産業医学振興財団 振興課
TEL:03-3525-8294(直通)・FAX:03-5209-1020
E-mail:fukyu@zsisz.or.jp


次回の第176号は2022年9月初旬に配信予定です。