2023年3月1日(水)に配信された「岡山さんぽメールマガジン第182号」です。

1.相談員便り

コミュニケーションにおける伝え方の違いについて(塩田隆一相談員)

相手とのコミュニケーションでは、お互いに自分のことを話すことが多く、場面によっては自分のことを正直に話したり(自己開示)、或いは自分のことをごまかして話したりしています。(自己呈示)

自己開示とは、相手に対して本当の情報を伝えることであり、主に以下のような機能があります。

(1)悩みや苦しみ、不安、不満、葛藤などの感情を自分の中だけに収めていると、いずれその重みに耐えきれなくなる。それを相手に聴いてもらうだけで、心が軽くなり感情が浄化される。

(2)普段は色々な事柄に対して、あいまいな態度や意見しか持っていないものだが、具体的に尋ねられると、自分の考えや気持ちを話している内に、あいまいだったものが整理され、明確になる。

(3)自分の能力や意見が周囲にどう評価されているかが分からない時、それを話すことによって評価をもらえたり、意見を聴くことができたりするので、自己評価の妥当性が分かる。

(4)相手に対して信頼している、好意を抱いていることが伝わるため、相手の反応も好意的になる。また自己開示を受け取った相手も自己開示でお返しするようになるため、お互いの関係が発展する。

一方、自己呈示とは相手に対して特定の印象を与えるために、自分の情報を調節して伝えることです。調節するとは本当の自分を隠す、偽る、飾る、タテマエ、演技することなどで、主に以下のような機能があります。

(1)自分の不適切な言動が原因で、相手に悪い印象を与えたりマイナス評価を受ける恐れがあるとき、弁解や開き直り、謝る振りをするなどして、悪い印象を改善したりマイナス評価を避ける。

(2)相手に良い印象を与えたりプラスの評価を受けたいとき、お世辞や同調する、自分の能力を誇張して示す、立派さを強調するなどして、印象を操作する。

(3)相手を脅したり空威張りして恐怖心を与え、言うことを聞かせようとする。また反対に自分は弱い、可哀想な印象を与え、相手が援助しなければならないという気持ちにさせる。

人は常に自分の本当の姿を正直に見せるわけではなく、むしろ本当の自分を隠し、演技することの方が多いかも知れません。その意味で、人と上手く付き合っていくために、「自己開示」と「自己呈示」を当たり前に使い分けているのだと言えるでしょう。但し、「自己呈示」を無意識に使い過ぎると望ましい関係に発展しなくなる恐れがあるので、ほどほどにして素直な表現を心掛けたいものです。

《塩田相談員の研修会》
https://okayamas.johas.go.jp/tag/shiota_ryuichi/

適応障害(中島誠相談員)

今回は事例の話です。

20代男性、Aさん、某大学を卒業後、大学院に進学、1年間米国の大学にも留学して卒業し、某会社に就職。Aさんは、元々コミュニケーションが苦手で、何でも誰にも相談しないで一人でやろうとするところがあり、期限切れになりやすく、ぎりぎりになってから人に助けてもらうところがあり、しかし、矛盾しているようだが、自責的、自分を責めてしまいやすいところもあるという人物。最近付き合い始めた彼女にはふられてしまい、両親は不仲で離婚調停不成立であったが、家庭は崩壊寸前、居場所がなくなり一人暮らしを始めた。会社の上司は厳しく指導する人で苦手意識あり。会社の愚痴をこぼせる同期の女性がいて事あるごとに話を聞いて貰っていた。ある時、某会社との取引で、その企画書が完成しないままに訪問しなければならず、そこでさらにAさんにとって想定外の話があり、同行した先輩社員に助けて貰った。帰社して上司にうまく報告できず、その夜にあった飲み会でもひどく落ち込んでいて、自分を責める発言が多く聞かれた。翌日は連絡なく職場に行かず(無断欠勤)、結局退職した。

さて、Aさんの診断は?と聞かれても難しい。そもそも症状の記載もほとんどない。少なくとも学生時代まではそれなりに過ごせていたが、就職後にコミュニケーションがうまく取れないなどの性格の影響もあり、仕事がうまくできなくて、自責的になり退職したとすれば、無断欠勤前日の様子から適応障害かと思われる。では、Aさんを救う方法はあったのだろうか。新人のメンタルヘルス対応ということになるが、会社に保健師さんや心理師さんがいれば、定期的に面談をして、問題点を把握できてAさんの離職を防げたかも知れない。適応能力の高い新人は放っておいても大丈夫であろうが、何らかの問題を抱えている新人に関しては傾聴出来て寄り添う人物がいた方がいい。最初の1年をうまく乗り切れば、しなくてもいい離職を防げるかも知れない。

適応障害とは何か。適応とは環境の中でうまくやっていくことであり、その障害ということで、環境の中で発生するストレスにより気分や行動などが一時的に変調を来たし、実生活にもいくばくかの影響が出ているが、他の特定の精神疾患にかかるまでには至っていない状態と定義される。Aさんは無断欠勤をしてしまったが、これは「行為の障害」として理解される。適応障害は対処が遅れると病状が重くなり、うつ病などになってしまう危険性を孕んでいるので、この状態は見過ごせない。

適応障害において、個人的な素質あるいは脆弱性が発症の危険性と症状の形成においてより大きな役割を演じると言われている。Aさん個人の問題ではあるが、実は誰でもこの素質や脆弱性をいくばくかは持っているので、特に入社してしばらくの間は新入社員に注意して対応出来たら、会社の人材育成につながるのではないだろうか。

普通に学校を出て、普通に就職して、普通に定年退職をする、これが当たり前と思っている方々が多いかもしれないが、実際には就職して苦悩の連続という人もいる。そのような人に対して手を差し伸べるシステム作りも会社には必要なのです。

《中島相談員の研修会》
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2.研修会のご案内

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3.産業医研修会(2023年4月はありません)

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次回の第183号は2023年4月初旬に配信予定です。