相談員便り
筋力トレーニングを始めましょう!ー筋力トレーニングは死亡リスクを低下させるー(明日徹相談員)
2025年4月1日から高年齢者雇用安定法の改正により、65歳定年が完全義務化されました。
これに伴い、高年齢労働者の増加が予想される中で、労働者の健康維持や行動災害の防止がますます重要になると考えられます。そのような状況下で、「健康で働くこと」や「運動習慣の重要性」が注目されるようになるでしょう。
さて、皆さま、日々運動や筋力トレーニングを行っていますか?
2024年に発表された「International Journal of Epidemiology(インパクトファクター9.685)」掲載の「高齢者における筋力トレーニングと全死因・心血管疾患・がん死亡リスクとの関連」に関する研究をご紹介します。
この研究は、アメリカ国立衛生研究所による「米国退職者協会 食事健康研究」に基づいており、2004年から2005年にリクルートされた米国人216,339人を対象に、2019年まで自己申告形式で追跡調査を実施しました。
この調査では、筋力トレーニングの実施状況と死亡リスクの関連性を分析し、交絡因子(例:有酸素運動など)を調整した上でCox回帰分析を用いてハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を算出しています。
その結果、以下の点が明らかになりました。
●筋力トレーニングを行った人は、行わなかった人と比較して全死因死亡リスクが6%低下(HR=0.94;95%CI=0.93–0.96)。
●心血管疾患による死亡リスクが8%低下(HR=0.92;95%CI=0.90–0.95)。
●がん死亡リスクが5%低下(HR=0.95;95%CI=0.92–0.98)。
特に、筋力トレーニングに有酸素運動を組み合わせることで、最も大きな死亡リスクの低下効果が得られることが報告されています。
一方、有酸素運動を全く行っていない人においては、筋力トレーニング単独では効果が見られませんでした。
この研究結果は、筋力トレーニングと有酸素運動の併用が重要であることを示唆しています。今後、高年齢労働者が増加する中、労働者に対してこうした運動を指導することの重要性がますます高まることでしょう。
皆さんも、ご自身の健康寿命の延伸や疾病予防、健康維持・増進のため、無理のない範囲で運動を継続していきましょう。
私のセミナーでは、筋力トレーニングやストレッチ、有酸素運動の具体的な方法について解説します。ぜひご視聴いただき、ご自身や労働者の方々へ運動の習慣化の重要性を広め、実践を支援していきましょう。
【引用文献】
Shailendra P, et al.: Weight training and risk of all-cause, cardiovascular disease and cancer mortality among older adults. Int J Epidemiol. 2024. PMID: 38831478. doi:10.1093/ije/dyae074.
《明日相談員について》
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「大人の発達障害」とは?(内田晃裕相談員)
「なんかAさんの言っていることが理解できないな」
「Aさんの言ってることとBさんのいっていることが違ってわからない」
「あれとかこれと言われてもピンとこないんだよな」
「Aさんはすごくお話してくれるけど内容に興味もてないな」
「いつも同じパターンだと落ち着くな」
「着替えをしないと絶対外には出られないんだよな」
「(買い物中)あれ?何買って来てって言われたっけ?」
「また遅刻してしまった」・・・こんなことを思ったことはありませんか。
これらは大人の発達障害を疑っている方のお困りごとでよく言われることです。頻度や程度は違えど、読者の方も一度は経験したことがあるようなことではありませんか。
発達障害とは生まれながらの脳のタイプといわれています。親の教育の結果ではありません。生まれてから生活をしていく中で発達障害になっていくものでもありません。
脳のタイプなのでその特徴を部分的に持っている方は多いのではないかと思います。発達障害と聞くとなんとなく重いイメージを持たれる方が多いと思いますが、上記のような経験にスポットを当てると少し身近に感じられる場合があるかもしれません。
最近は発達障害のことを神経発達症と呼ぶようになり、その中の代表的な診断名としては、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如多動症(ADHD)があげられます。
ASDとは、コミュニケーションやこだわりに特徴をもっている方で、ADHDとは不注意・多動性・衝動性といった特徴をもっている方です。2つの特徴をお持ちの方もいらっしゃいます。
多くの場合、神経発達症は保育園や幼稚園(子ども園)、小学生の時期に、家庭や学校などでストレスを感じたり、うまくいかないことが増え、話題になる場合が多いですが、「大人の発達障害」は仕事をし始めたあたりからその特徴が表立つことが多くなってきます。
こういった人は、大人になったタイミングで急に特徴が出現するわけではありません。
もともと神経発達症の特性はあったけど、生活環境が自分に合っていて、生活で困ること(ストレス)がなかった人が、仕事などによって環境が変わることで、元々の特徴が目立った来た状態といえます。これは非常に大きなメンタルヘルスの課題です。
研修会では大人の発達障害について、解説や工夫の方法について皆様と考えていければと考えています。
《内田相談員について》
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研修会のご案内
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産業医研修会についてはこちら
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労災疾病等医学研究普及サイトの御案内
研究開発テーマ「メタボローム」について
労働者健康安全機構では労働災害の発生状況や行政のニーズを踏まえ、労災補償政策上重要なテーマや新たな政策課題について、時宜に応じた研究に取り組んでおります。「労災疾病等医学研究普及サイト」では、これまで実施してきた研究成果について掲載しています。
今回はその中で令和5年度に研究報告書を作成した研究開発テーマ「メタボローム」のうち「血漿メタボローム解析による過労死等関連生化学的指標の確立」に関する研究報告のご紹介です。
我が国においては、長時間労働による心臓・脳血管疾患のリスクが高まる危険性についてはこれまで数々の報告がなされており、過労死等の防止の観点から働き方改革関連法に基づく働き方改革等の取組や過重労働対策等が講じられています。
本研究では過労死の中でも特に心血管疾患に至る予測因子・関連因子となる指標の確立を目指しました。
研究の結果により、従来の指標よりも早期に診断可能となる新規の指標を明らかにし、過労による心血管疾患リスクの高い状態を早期に診断できる可能性が示唆されました。
なお、詳細な研究内容については、下記URLからご覧いただけます。
https://www.research.johas.go.jp/metabolome/index.html