事業者、労働者、産業医、健康診断実施機関及び健康診断の実施に関わる医師又は歯科医師が、リスクアセスメント対象物健康診断の趣旨・目的を正しく理解し、その適切な実施が図られるよう、基本的な考え方及び留意すべき事項を示した「リスクアセスメント対象物健康診断に関するガイドライン」を策定しました。(厚生労働省

基本的な考え方

詳細:リスクアセスメント対象物健康診断に関するガイドライン(厚生労働省)

  • 安衛則577条の2第3項に基づく健康診断(第3項健診)は、特殊健康診断のように特定の業務に常時従事する労働者に対して一律に健康診断の実施を求めるものではなく、自律的な化学物質管理の一環として、リスクアセスメントの結果に基づき、健康障害発生リスクが高いと判断された労働者に対して、医師等が必要と認める項目について、健康障害発生リスクの程度及び有害性の種類に応じた頻度で実施するもの。
  • ばく露防止対策が適切に実施され、労働者の健康障害発生リスクが許容される範囲を超えないと判断すれば、基本的にリスクアセスメント対象物健康診断を実施する必要はない。

第3項健診:リスクアセスメントの結果に基づき、健康影響を確認するために実施する健診

(安衛則577条の2第3項に基づく健康診断)

詳細:リスクアセスメント対象物健康診断に関するガイドライン(厚生労働省)

実施の要否の考え方

リスクアセスメントの結果、健康障害発生リスクが許容される範囲を超えると判断された場合に、関係労働者の意見を聴き、必要があると認められた者について、当該リスクアセスメント対象物による健康影響を確認するために実施する。

実施の要否の判断方法

以下の状況を勘案し、労働者の健康障害発生リスクが許容できる範囲を超えるか否か検討する。

  • 当該化学物質の有害性及びその程度
  • ばく露の程度や取扱量
  • 労働者のばく露履歴
  • 作業の負荷の程度
  • 工学的措置の実施状況
  • 呼吸用保護具の使用状況 等

以下のいずれかに該当する場合は、健康診断を実施することが望ましい。

  1. 濃度基準告示第3号に規定する努力義務を満たしていない場合
  2. 工学的措置や保護具でのばく露の制御が不十分と判断される場合
  3. 濃度基準値がない物質について、漏洩事故等により、大量ばく露した場合
  4. リスク低減措置が適切に講じられているにも関わらず、何らかの健康障害が顕在化した場合

安衛則第577条の2第11項※に基づく記録の作成の時期に、労働者のリスクアセスメント対象物へのばく露の状況、工学的措置や保護具使用が適正になされているかを確認し、第3項健診の実施の要否を判断することが望ましい。

※同項の規定では、リスクアセスメントの結果に基づき講じたリスク低減措置や労働者のリスクアセスメント対象物へのばく露の状況等について、1年を超えない期間ごとに1回、定期に記録を作成することが義務づけられている。

過去に一度もリスクアセスメントを実施したことがない場合は、令和7年3月31日までにリスクアセスメントを実施し、第3項健診の要否を判断することが望ましい。

第3項健診の要否を判断したときは、その判断根拠について記録を作成し、保存しておくことが望ましい。

実施頻度及び実施時期

第3項健診の実施頻度は、産業医又は医師等の意見に基づき事業者が判断する。

皮膚腐食性/刺激性、眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性、呼吸器感作性、皮膚感作性、特定標的臓器毒性(単回ばく露)による急性の健康障害6月以内ごとに1回
がん原性物質又はGHS分類の発がん性の区分が区分11年以内ごとに1回
上記1、2以外の健康障害(歯科領域の健康障害を含む。)3年以内ごとに1回
有害性ごとに健康障害リスクが許容される範囲を超えると判断された場合の実施頻度(設定例)
検査項目

濃度基準値の根拠となった一次文献等やSDS記載の有害性情報等を参照して設定。(「生殖細胞変異原性」及び「誤えん有害性」は検査の対象から除外、「生殖毒性」の検査は一般的には推奨されない等の留意点をガイドラインに記載)

歯科領域のリスクアセスメント対象物健康診断は、クロルスルホン酸、三臭化ほう素、5,5-ジフェニル-2,4-イミダゾリジンジオン、臭化水素及び発煙硫酸の5物質を対象とする。歯科領域の検査項目:歯科医師による問診及び歯牙・口腔内の視診。

業務歴の調査、作業条件の簡易な調査等によるばく露の評価及び自他覚症状の有無の検査等を実施。

必要と判断された場合には、標的とする健康影響に関するスクリーニングに係る検査項目を設定。

第4項健診:ばく露したおそれが生じた場合に実施する健診

(安衛則577条の2第4項に基づく健康診断)

詳細:リスクアセスメント対象物健康診断に関するガイドライン(厚生労働省)

実施の要否の考え方

何らかの異常事態が判明し、労働者が濃度基準値を超えて当該リスクアセスメント対象物にばく露したおそれが生じた場合に実施する。

実施の要否の判断方法

以下のいずれかに該当する場合は、労働者が濃度基準値を超えてばく露したおそれがあることから、速やかに実施する必要。

  • 呼吸域の濃度が、濃度基準値を超えていることから、工学的措置の実施又は呼吸用保護具の使用等の対策を講じる必要があるにも関わらず、以下に該当する状況が生じた場合
  1. 工学的措置が適切に実施されていないことが判明した場合
  2. 必要な呼吸用保護具を使用していないことが判明した場合
  3. 呼吸用保護具の使用方法が不適切で要求防護係数が満たされていないと考えられる場合
  4. その他、工学的措置や呼吸用保護具でのばく露の制御が不十分な状況が生じていることが判明した場合
  • 漏洩事故等により、濃度基準値がある物質に大量ばく露した場合
実施頻度及び実施時期

濃度基準値を超えてばく露したおそれが生じた時点で、事業者及び健康診断実施機関等の調整により合理的に実施可能な範囲で、速やかに実施する必要。

検査項目

濃度基準値の根拠となった一次文献等やSDS記載の有害性情報等を参照して設定。(「生殖細胞変異原性」及び「誤えん有害性」は検査の対象から除外、「生殖毒性」の検査は一般的には推奨されない等の留意点をガイドラインに記載)

歯科領域のリスクアセスメント対象物健康診断は、クロルスルホン酸、三臭化ほう素、5,5-ジフェニル-2,4-イミダゾリジンジオン、臭化水素及び発煙硫酸の5物質を対象とする。歯科領域の検査項目:歯科医師による問診及び歯牙・口腔内の視診。

八時間濃度基準値を超えてばく露した場合、ただちに健康影響が発生している可能性が低いと考えられる場合は、業務歴の調査、作業条件の簡易な調査等によるばく露の評価及び自他覚症状の有無の検査等を実施。

短時間濃度基準値を超えてばく露した場合、主として急性の影響に関する検査項目を設定。

配置前及び配置転換後の健康診断

詳細:リスクアセスメント対象物健康診断に関するガイドライン(厚生労働省)

リスクアセスメント対象物健康診断には、配置前の健康診断は含まれていないが、配置前の健康状態を把握しておくことが有意義であることから、一般健康診断で実施している自他覚症状の有無の検査等により健康状態を把握する方法が考えられる。

遅発性の健康障害が懸念される場合には、配置転換後であっても、例えば一定期間経過後等、必要に応じて、医師等の判断に基づき定期的に健康診断を実施することが望ましい。配置転換後に健康診断を実施したときは、リスクアセスメント対象物健康診断に準じて、健康診断結果の個人票を作成し、同様の期間保存しておくことが望ましい。

対象とならない労働者に対する対応

詳細:リスクアセスメント対象物健康診断に関するガイドライン(厚生労働省)

リスクアセスメント対象物健康診断の対象とならない労働者については、安衛則第44条第1項に基づく定期健康診断で実施されている業務歴の調査や自他覚症状の有無の検査において、化学物質を取り扱う業務による所見等の有無について留意することが望ましい。

業務による健康影響が疑われた労働者については早期の医師等の診察の受診を促し、また、同様の作業を行っている労働者については、リスクアセスメントの再実施及びその結果に基づくリスクアセスメント対象物健康診断の実施を検討すること。

健康診断の費用負担

詳細:リスクアセスメント対象物健康診断に関するガイドライン(厚生労働省)

リスクアセスメント対象物健康診断は、業務による健康障害発生リスクがある労働者に対して実施するものであることから、その費用は事業者が負担しなければならない。派遣労働者については、派遣先事業者に実施義務があることから、その費用は派遣先事業者が負担しなければならない。

健康診断の受診に要する時間の賃金については、労働時間として事業者が支払う必要。