1.相談員便り

防じんマスクとFitting Test、そして化学物質自主管理へ‐岡山産業保健総合支援センターの調査研究から‐(岸本卓巳相談員)

岡山産業保健総合支援センター相談員
医療法人岡山水清会 岡山水清会病院 岸本卓巳

(1) 自己紹介
33年ぶりに所属が変更になりましたので、はじめてメールマガジンを執筆いたします。

私は平成9年(1997年)7月に開所したばかりの岡山産業保健推進センター(当時名称)の相談員に就任して27年になります*。開所から現在まで相談員を継続しているのは私だけになってしまいました。

(2) 岡山産業保健総合支援センターの調査研究の歴史
私が主に担当したのは調査研究の粉じんによる疾病と防塵マスク効率であったと思います。きっかけとなったのは2000年の研究で、岡山・香川産業保健推進センターに集積した2000枚以上の粉じん作業者のレントゲンフィルムを読影して、粉じんばく露による陰影がないとは言えない(すなわちPR0/1と判断する画像)と両県の地方じん肺診査医5名が一致して意見集約がなされました。その職種は溶接作業者でしたが、他職種に比較して粉じん濃度が高く中央値が25mg/m3であったと記憶しています。

その原因として防じんマスクは97%が着用しているが、マスクの漏れが大きいのではないかと考え、我々は柴田化学の漏れ率測定機械を購入して研究を開始しました。2008年また2021年にも岡山県内の粉じん作業者の防じんマスクの漏れ率を計測しましたが、2003年の際の結果も2008年、2021年の結果もほぼ25%程度であったことは日経新聞にも掲載され大きな問題となりました。この結果は溶接作業におけるFit Testingへの道を開いたと思っております。

また、2022年度から2年かけて岡山産業保健総合支援センターでは本部から調査研究費をいただいて溶接作業者のマンガン吸入あるいは血中濃度の研究を行いましたが、その際の漏れ率も20%を超えていました。このように長期に渡って調査項目に焦点を決めて研究を継続している産業保健総合支援センターは岡山だけです。

参考:使用後1年以上の電動ファン付き防じんマスク(PAPR)の機能に関する研究
溶接作業におけるマンガンばく露と防じんマスク効率に関する調査研究(2年計画1年目)
溶接作業におけるマンガンばく露と防じんマスク効率に関する調査研究(2年計画2年目)

(3) 化学物質自主管理へ
近年私は厚生労働省からの依頼で、高純度シリカ吸入2~3年で致死的になった急進珪肺症例や有機粉じん吸入で重症肺線維症(じん肺の1種)を来した症例**を調査して、危険性が知られていない物質が作業によって重大な健康障害を来していることに遭遇しました。このような事例が少なからず本邦に存在するため、2024年4月からの化学物質自主管理の方向に向かったことも事実であると思っています。

私は卒業後4年目で山口県周南市(当時は新南陽市)にある化学物質メーカーの複数の産業医になり色々な経験をしてまいりました。化学物質自主管理はこれからの課題ですが、私も皆さんと一緒にこの新たな産業医としての重要な仕事に努力していこうと思っていますので、よろしくお願いいたします。

*平成9年産業保健岡山創刊号 p9 写真

岸本卓巳相談員

**PLoS One. 2023 Apr 21;18(4):e0284837. doi: 10.1371/journal.pone.0284837. eCollection 2023.PMID: 37083639

《岸本相談員の研修会》
https://okayamas.johas.go.jp/tag/kishimoto_takumi/

産業保健で聴力低下というと…(結縁晃治相談員)

産業保健で聴力低下というと騒音性難聴の話になってしまいますが、騒音職場で働いている方以外の普通の職場で働いている労働者にも、加齢による聴力低下でいろいろ仕事上で不具合がおきていることも少なくないと思います。

加齢による聴力低下は、すべての人で生じてきますが、同じ年齢でも個人差が大きいのも、騒音職場における騒音性難聴と同じです。また中高年では検診の聴力検査時の音に対する聴力が良好でも、実際には言葉の聞き取りが低下していることも少なくありません。また静かな所ではよく聞き取れても、雑音のある騒々しいところでは聞き取りが低下します。一対一ではうまく会話ができても、多人数を相手にしたり、あちらこちらから話しかけられるような状況でも聞き取りが悪くなります。

こういったことは事務系の職場の会議などでもおきますので、効率よく仕事をして聞き漏らしや聞き間違いがないためには、カーペットが敷いてあるなど音の反響の少ない会議室を使うなどの配慮が必要と思われます。音が反響して響くような部屋で会議をしたのでは、特に少し聞こえの悪くなった中高年の参加者が聞き取りにくく、会議内容の理解が低下する可能性もあります。また発言者は急に話し出すのではなく、まず司会者が指名してどちらから話しているかを参加者にはっきりさせる工夫も有用だと思います。

作業現場でも始業前のミーティングは、あまり騒音のない場所を選んでおこなうことが、伝達内容を参加者に正確に伝えるためにも重要だと思われます。

聞き漏らし・聞き間違いは、仕事のミスのみならず労災事故にもつながります。

自分の職場は騒音がないからといって、音や聞こえに対する職場での対策が不要というわけではないことにご注意いただいきたいと思います。

《結縁相談員の研修会》
https://okayamas.johas.go.jp/tag/yuen_koji/

2.研修会のご案内

研修会についてはこちら
https://okayamas.johas.go.jp/training/

3.産業医研修会

産業医研修会についてはこちら
https://okayamas.johas.go.jp/tag/ss,sj,sk/

4.労災疾病等医学研究の成果報告書を公表しました「メタボローム」「早期復職」

「メタボローム」とは細胞内代謝によって作られた低分子化学物質の総体を指す呼称で、数千種に及びます。このメタボロームを解析することで、疾患発症を予測できる可能性があります。
https://www.research.johas.go.jp/metabolome/

「早期復職」
がん患者さんが復職するために最も重要なのが体力の維持・増進であり、そのために効果があるのが「運動療法」と「食事療法」であると考えられます。本研究では、運動療法と食事療法、特に最適な蛋白質摂取を一定期間続けて、その前後から復職するまでの期間、血液検査や体力測定等を行い、患者さんの復職状況を調査します。
https://www.research.johas.go.jp/souki2018/


次回の第199号は2024年7月16日に配信予定です。