相談員便り

私の履歴―新たなじん肺ハンドブック改訂及び標準写真追加における貢献―(岸本卓巳相談員)

本年度、厚生労働省はじん肺ハンドブックの大幅な改訂と新たなじん肺標準写真の追加を行ったので、じん肺診断等に対する私の履歴と今回の改訂あるいは追加に関する貢献について紹介します。

岡山県は1980年代にはじん肺患者数が北海道に次いで2番目に多く、この疾患に対する専門家が少ないということで、1991年9月に広島県呉市の呉共済病院から岡山労災病院に赴任することになりました。

呉では戦艦大和を造船した日本海軍工廠の元職員に石綿ばく露による中皮腫の発生が多いことに気付き、中皮腫をはじめとする石綿関連疾患について呉共済病院臨床研究科・内科において内科臨床と研究を行っておりました。

石綿関連疾患についてはその当時は極めてまれな疾患でありましたが、石綿ばく露の指標となる肺内石綿小体数の算定や中皮腫の病理診断方法について広島大学病理学教室に勉強に行き、石綿による中皮腫や肺がん症例の集積を行って、学会等において発表していたためテレビや新聞等に取り上げられました。

一方、じん肺に関しては石綿肺というじん肺は知っていましたが、岡山県で症例が多かった珪肺についての知識は乏しかったのは事実でした。1993年に岡山労働局地方じん肺診査医に発令されたため、じん肺に対する知識と診断、またじん肺発症のあった現場の状況把握を開始しました。

当時の岡山県では耐火煉瓦製造を主体とした県東部や石材掘削・加工を主体に県西部に珪肺症例が多く、珪肺労災病院(既に廃院)での数回にわたる集中研修教育を受けるとともに岡山労災病院の過去例における画像診断の復習及び岡山労働局の協力を得てじん肺発生現場の見学等を行うことで、じん肺診断とその予防についての理解を深めました。

その後、地方じん肺診査医から中央じん肺診査会へと招集され、さらにはじん肺診査会会長も務めたためじん肺専門医ということになりました。そのため、厚生労働省からの依頼もたびたび受けて、各地で新たに発生するじん肺症例の診断や作業環境の評価と改善に対する対応策について重点を置いてまいりました。

2009年のじん肺標準写真の最初の改訂に際しては、岡山労災病院で収集していた症例の多数を厚生労働省に提供しました。さらに今年4月にじん肺ハンドブックが53年ぶりに改訂されるとともにじん肺標準写真が追加されるにあたっては、じん肺改訂のためのじん肺の臨床及び標準写真収集の研究分担者として協力を依頼されたため、私の今までの粉じんばく露とじん肺発症に関する知見と保有するじん肺症例画像の新たな提供を行いました。

特に、小粒状影や大陰影を呈する珪肺の標準写真の職業歴を見ていただければ、耐火煉瓦製造や石材加工など岡山におけるじん肺症例が大半を占めていることに注目してください。また、前回改訂の標準写真では不整形陰影を呈する石綿肺の症例がなかったことから、今回の標準写真追加においては典型的な石綿肺を全国から収集して7例を追加しました。石綿肺(2・3型)は私が提供した典型例です。

近年、石綿肺類似画像を呈する間質性肺炎の増加が知られていますが、改訂版のじん肺ハンドブックでは石綿肺は細気管支中心性の陰影(点状陰影・曲線状陰影)が特徴であることを胸部CTあるいは病理組織像から説明しています。

1975年に石綿吹付作業が禁止された後、2006年には代替品のない石綿製品以外が禁止され、ついには2012年にすべての石綿が使用されなくなったので石綿肺事案は現在では稀有であることを承知しておいてください。その他、今まで標準写真のなかった溶接工肺や酸化チタン肺についても岡山の症例を追加しております。

過去のじん肺ハンドブックには記載のなかった胸部CTの必要性については、他疾患との鑑別に有用ではありますが、じん肺かどうかの診断についてはあくまでも胸部エックス線像による判断であり、CTはあくまでも参考とするだけになっています。呼吸器診療では不可欠なCT画像ですが、こちらでじん肺所見があっても、エックス線像で標準写真の1型以上のじん肺所見がなければじん肺とは診断できないことは従来通りであることを了解しておいてください。

最後にじん肺予防については前回のメールマガジンに投稿しましたように、岡山産業保健総合支援センターは2003年から長年調査研究として力を入れてまいりました。

その中で重要な点は通常防じんマスクの漏れが我々の調査では約25%と高く、じん肺防止すなわち漏れ率を減少させるには電動ファン付き防じんマスクの使用が必要であることを報告してまいりました。今回の改訂でも電動ファン付き防じんマスクのじん肺予防に関する有用性が強調されています。

作業環境の改善により、新たに発生するじん肺は最近減少傾向になって参りましたが、溶接工肺をはじめとして発生原因の多様化がありますので、粉じん吸入労働者ではじん肺の可能性があるとして十分な読影が必要です。

参考(調査研究報告)
使用後1年以上の電動ファン付き防じんマスク(PAPR)の機能に関する研究
溶接作業におけるマンガンばく露と防じんマスク効率に関する調査研究(2年計画1年目)
溶接作業におけるマンガンばく露と防じんマスク効率に関する調査研究(2年計画2年目)

■岸本相談員について
https://okayamas.johas.go.jp/consultation/advisor-profile/#kishimoto_takumi

若年層労働者における職業アイデンティティの軸の変化について(谷原弘之相談員)

若年層労働者の職業アイデンティティ(「自分はどのような仕事人なのか」「仕事を通して何を実現したいのか」という自己認識)は、ここ数十年で大きく変化してきました。高度経済成長期から1990年代頃までは、一つの会社に長く勤める終身雇用を前提とする会社への帰属意識が強く、職業アイデンティティは「どこの会社に所属しているか」によって形成される傾向がありました。

現在の若年層労働者は、組織よりも自分を重視する傾向に変わっています。具体的には、「会社のため」よりも「自分の成長」「やりがい」「ワークライフバランス」を重視する傾向があります。そのため、「どこの会社に勤めるか」ではなく、「自分は何ができる人になるか」を大切にします。つまり、「会社への帰属」から「自分らしいキャリア形成」へ職業アイデンティティの軸が変化していると考えてよいと思います。

転職や副業が一般的となり、「一生同じ会社」「一つの職業だけ」という考え方から、会社員と動画配信といった、複数の役割を持つ人たちも増えています。「仕事=自己実現の場」と考えるため、収入だけでなく、自分の価値観との一致や成長実感を求める傾向もあります。このため、「自分の価値観に合わない会社では働き続けたくない」という意識も見られます。

では、なぜ変化したのでしょうか。

①経済環境の変化として、終身雇用や年功序列が弱まり、「会社が一生守ってくれる」という前提が崩れたこと、
②インターネットの普及により、SNSなどを通じて、多様な働き方や多様な価値観に触れる機会が増えたこと、
③キャリアの多様化により、フリーランス、起業、副業など選択肢が増えたこと

があげられると思います。

一方、選択肢が増えたことで若年層労働者の新たな悩みとして、「自分に合う仕事が分からない」「将来像が描きにくい」「キャリアへの不安が強い」といった問題があるのも事実です。昔は会社がキャリアを決めてくれましたが、今は自分で考えなければなりません。そのため、「自分は何者か」「何を大切にして働きたいか」を模索する期間が長くなる傾向があります。

それでは、どうすれば若年層労働者が同じ会社で長く働いてくれるでしょうか。ひとつの例として、「この会社だと成長できそう」「自分らしく働けそう」といった、会社と個人の目標を結びつけることが重要みたいです。定期的な個人面談や新しい仕事への挑戦機会を設けることで、やりがいを感じてもらうことが大切です。キャリアの選択肢を社内に用意することも有効で、資格取得支援など、社内で新しい可能性を示すことも効果的だと思います。

最後に、「辞めさせない」を目標にするのでなく、「ここで働き続けたいと思える職場をつくる」ことが大切です。若年層労働者は、「成長できる」「心身ともに健康でいられる」と感じる職場には定着しやすいところがあり、加えて、承認欲求を満たしながら、推し活を認めてくれる等、多様な価値観を柔軟に受け入れてくれる職場は大事にしようと思うようですので、選ばれる職場を意識しながら、後進の育成に励んでください。

■谷原相談員について
https://okayamas.johas.go.jp/consultation/advisor-profile/#tanihara_hiroyuki

研修会のご案内

研修会についてはこちら
https://okayamas.johas.go.jp/training/

産業医研修会についてはこちら
https://okayamas.johas.go.jp/category/training/ipt/
今後、「産業医研修会」の受付は、開催日の2か月前の月初(最初の営業日)から開始します。

【無料】これからストレスチェック導入に取り組む事業場向け『ストレスチェック導入支援パッケージ』

支援パッケージ内容(全3回)

[1]ストレスチェック制度の基礎説明
[2]メンタルヘルス教育(若年労働者向け・セルフケア)
[3]ストレスチェック導入支援

専門家が事業場を訪問し、ストレスチェックをより効果的に活用できるようお手伝いいたします。

令和10年4月からは50人未満の小規模事業場についてもストレスチェックが義務化されます。
この機会にパッケージ支援を利用してストレスチェックを導入しませんか。

https://okayamas.johas.go.jp/mental-health/stress-check/

令和8年度 健活企業表彰式・取組事例発表会のご案内(協会けんぽ岡山支部)

協会けんぽ岡山支部では、健康経営に取り組んでいる事業所さまに「健活企業」宣言をしていただいております。

その中でも「健活企業」として従業員さまの健康増進への取り組みが顕著であった5社を表彰するとともに、受賞企業さまより健康経営の取組事例を発表いただきます。
ぜひお気軽にご参加ください。

【日時】令和8年8月26日(水曜日) 13:30~16:00(開場 13:00)
【場所】岡山県医師会館 三木記念ホール(岡山市北区駅元町19-2)
【参加費】無料(先着250名)

【問い合わせ先】Tel.086-803-5780協会けんぽ岡山支部(企画総務グループあて)
【申込方法】下記URLよりご確認ください▼
  https://www.kyoukaikenpo.or.jp/shibu/okayama/health_promotion/001/014/
(協会けんぽ岡山支部ホームページ)

※「健康経営」はNPO法人健康経営研究会の登録商標です。

「産業保健21」が発行されました

https://okayamas.johas.go.jp/21-125

情報誌『産業保健21』は、産業医をはじめ、保健師・看護師、労務担当者等の労働者の健康確保に携わっている皆様方に、産業保健情報を提供することを目的として、独立行政法人 労働者健康安全機構が発行しています。

特集:小規模事業場における産業保健の今後

■労働衛生対策の基本:熱中症とその対策

■産業医に聞く:感情マネジメントに楽しませる力も加え多彩な知見で人と組織を活かす

■判例:刑務所職員の自殺未遂につき、国の安全配慮義務違反が認められた事案(高松刑務所事件)

■長時間労働対策のヒント:DXと人への投資で実現したホテル業の常識を変える働き方改革

■研究紹介:房総畔のによる火災・爆発等のシナリオモデルの構築

など

次回の第224号は2026年8月17日に配信予定です。