(2023年4月)

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化学物質管理体系の見直し

ばく露を最小限度にすること

リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う事業場は、リスクアセスメントの結果等に基づき、労働者の健康障害を防止するため、

  • a 代替物の使用
  • b 発散源を密閉する設備
  • c 局所排気装置または全体換気装置の設置及び稼働
  • d 作業の方法の改善
  • e 有効な呼吸用保護具

等必要な措置を講ずることにより、リスクアセスメント対象物に労働者がばく露される程度を最小限度にしなければなりません。なお、上記の措置は、a~eの優先順位を基本とします。

リスクアセスメント対象物については、職場の安全サイト:表示・通知対象物質の一覧・検索でご確認ください。
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/gmsds640.html

リスクアセスメントについては、職場の安全サイト:化学物質のリスクアセスメント実施支援でご確認ください。
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/user/anzen/kag/ankgc07.htm#h2_1

リスクアセスメント結果等に係る記録の作成保存

事業者は、リスクアセスメントを行ったときは、次に掲げる事項について、記録を作成し、次にリスクアセスメントを行うまでの期間保存するとともに、リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者に周知させなければなりません。

  • リスクアセスメント対象物の名称
  • 業務の内容
  • リスクアセスメントの結果
  • リスクアセスメントの結果に基づき事業者が講ずる労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置の内容

保存期間

  • 次にリスクアセスメントを行うまでの期間
  • リスクアセスメントを行った日から起算して3年以内にリスクアセスメント対象物についてリスクアセスメントを行ったときは、3年間

周知の方法

  • リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う各作業場の見やすい場所に常時掲示し、又は備え付けること。
  • 書面を、リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者に交付すること。
  • 磁気ディスク、光ディスクその他の記録媒体に記録し、かつ、リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う各作業場に、リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者が記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。

ばく露低減措置等の意見聴取、記録作成・保存

(1)ばく露低減措置について、関係労働者の意見を聴くための機会を設けなければなりません。

なお、関係労働者又はその代表が衛生委員会に参加している場合は、衛生委員会における調査審議と兼ねて行っても差し支えありません。

(2)次の①~④の事項について、1年を超えない期間ごとに1回、定期に、記録を作成し、記録を保存するとともに、リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者に周知させなければなりません。

  • ①ばく露低減措置の状況 … 保存年限3年
  • ②リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者のリスクアセスメント対象物のばく露の状況 … 保存年限3年※1
  • ③労働者の氏名、従事した作業の概要及び作業に従事した期間並びにがん原性物質により著しく汚染される事態が生じたときはその概要及び事業者が講じた応急の措置の概要※2
  • ④関係労働者の意見の聴取状況

※1 保存年限については、②は、リスクアセスメント対象物ががん原性物質である場合に限り30年、③は、30年間
※2 ③については、がん原性物質を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者に限ります。

がん原生物質(令和5年4月1日適用分、令和6年4月1日適用分)については、厚生労働省HP:「労働安全衛生規則第577条の2の規定に基づき作業記録等の30年間保存の対象となる化学物質の一覧」をご確認ください。
https://www.mhlw.go.jp/content/11305000/001033355.pdf

(3)(2)の周知は、次に掲げるいずれかの方法で行います。

  • リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う各作業場の見やすい場所に常時掲示し、又は備え付けること。
  • 書面を、リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者に交付すること。
  • 磁気ディスク、光ディスクその他の記録媒体に記録し、かつ、リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う各作業場に、リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者が記録の内容を常時確認できる機器を設置すること。

皮膚等障害化学物質等への直接接触の防止

皮膚や眼に障害を与える物を取り扱う業務や有害物が皮膚から吸収あるいは侵入して、健康障害若しくは感染をおこすおそれのある業務においては、その業務に従事する労働者に使用させるために、保護眼鏡、塗布剤、不浸透性の保護衣、保護手袋、履物等適切な保護具を備えなければなりません。(改正点は、保護眼鏡の追加)

なお、下請負人に対しては、適切な保護具について、備えておくこと等によりこれらを使用することができるようにする必要がある旨を周知させなければなりません。

皮膚若しくは眼に障害を与えるおそれ又は皮膚から吸収され、若しくは皮膚に浸入して、健康障害を生ずるおそれがあることが明らかなもの(皮膚等障害化学物質等)には、国が公表するGHS分類の結果及び譲渡提供者より提供されたSDS等に記載された有害性情報のうち「皮膚腐食性・刺激性」、「眼に対する重篤な損傷性・眼刺激性」及び「呼吸器感作性又は皮膚感作性」のいずれかで区分1に分類されているもの及び別途示すものが含まれます。

なお、「SDS等に記載された有害性情報のうち「皮膚腐食性・刺激性」、「眼に対する重篤な損傷性・眼刺激性」及び「呼吸器感作性又は皮膚感作性」のいずれかで区分1に分類されているもの」につきましては、

独立行政法人製品評価技術基盤機構のHP:NITE統合版 GHS分類結果
https://www.nite.go.jp/chem/ghs/ghs_nite_download.html

により検索することができます。

衛生委員会付議事項の追加

衛生委員会の付議事項に、「労働者が化学物質にばく露される程度を最小限度にするために講ずる措置に関すること」が加わりました。

がん等の遅発性疾病の把握強化

化学物質又は化学物質を含有する製剤を製造し、又は取り扱う業務を行う事業場において、1年以内に2人以上の労働者が同種のがんに罹患したことを把握※1したときは、がんの罹患が業務に起因するかどうかについて、遅滞なく、医師※2の意見を聴かなければなりません。

医師が、がんの罹患が業務に起因するものと疑われると判断したときは、遅滞なく、次に掲げる事項について、所轄都道府県労働局長に報告しなければなりません。

  • がんに罹患した労働者が、従事した業務において製造し、又は取り扱った化学物質の名称(化学物質を含有する製剤にあっては、含有する化学物質の名称)
  • がんに罹患した労働者が従事していた業務の内容及び従事していた期間
  • がんに罹患した労働者の年齢及び性別

※1 把握とは、労働者の自発的な申告や休職手続等で職務上、事業者が知り得る場合に限るものであり、この規定を根拠として、労働者本人の同意なく、本規定に関係する労働者の個人情報を収集することを求める趣旨ではないことに留意してください。

※2 医師については、産業医のみならず、定期健康診断を委託している機関に所属する医師や労働者の主治医等も含まれます。また、これらの適当な医師がいない場合は、各都道府県の産業保健総合支援センター等に相談することも考えられます。

実施体制の確立

化学物質管理者・保護具着用管理責任者の選任

令和6年4月1日より、リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う事業場あるいは、譲渡又は提供する事業場は、化学物質管理者を選任しなければなりません。

化学物質管理者を選任した事業場で、リスクアセスメントの結果に基づく措置として、労働者に保護具を使用させるとき、あるいは、第3管理区分に区分された場所で、作業環境管理専門家が第1管理区分、第2管理区分とすることが困難と判断した場合は、保護具着用管理責任者を選任しなければなりません。

化学物質管理者や保護具着用管理責任者の資格要件の一つとして化学物質管理者講習、それに準ずる講習、保護具着用管理責任者教育の受講が必要となります。

法令で定める資格・要件に該当しない者を、選任しようとする場合は、令和6年4月1日までにこれらの講習、教育を受けておく必要があります。

雇入れ時等教育の拡充

危険性・有害性のある化学物質を製造し、取り扱う全ての事業場で、化学物質の安全衛生に関する必要な雇入れ時等教育を行わなければならなくなりました。

職長等に対する安全衛生教育が必要となる業種の拡大

新たに職務につくこととなった職長その他の作業中の労働者を直接指導または監督する者に対し、安全衛生教育を行わなければなりません。その対象業種に、次の業種が追加されます。

  • 料品製造業
  • 新聞業、出版業、製本業、印刷物加工業

特殊健康診断の実施頻度の緩和

特殊健康診断を行うべき業務が行われる場所について、次のいずれにも該当するときは、直近の連続した3回の健康診断の結果、新たに異常所見があると認められなかった労働者については、健康診断は、1年以内ごとに1回、定期に行えば足りることとなりました。

  • 業務を行う場所について、直近3回の作業環境測定結果が第1管理区分に区分されたこと。
  • 業務について、直近の健康診断の実施後に作業方法を変更(軽微なものを除く。)していないこと。

対象となる特殊健康診断は、特定化学物質健康診断、有機溶剤健康診断、鉛健康診断、四アルキル鉛健康診断で、特殊健康診断を行うべき業務のうち、製造禁止物質、特別管理物質に係る業務については、対象から除外されます。

情報伝達の強化

SDS等による通知方法の柔軟化

安全データシート(SDS)等による通知が必要な通知対象物を譲渡し、または提供する者は、文書の交付その他の方法により、名称、成分及びその含有量などの事項(SDS情報)を、譲渡し、又は提供する相手方に通知しなければなりません。

SDS情報の通知方法は、相手方の承諾なく、次の方法で通知することができるようになりました。

  • 文書の交付
  • 磁気ディスク、光ディスクその他の記録媒体の交付
  • ファクシミリ装置を用いた送信
  • 電子メールの送信
  • SDS情報が記載されたホームページのアドレス(二次元コードその他のこれに代わるものを含む。)及びアドレスに係るホームページの閲覧を求める旨の伝達

SDS等の「人体に及ぼす作用」の定期確認及び更新

SDS情報のうち、「人体に及ぼす作用」については、直近の確認を行った日から起算して5年以内ごとに1回、最新の科学的知見に基づき、変更を行う必要性の有無を確認し、変更を行う必要があると認めるときは、確認をした日から1年以内に、変更を行わなければならなくなりました。

事業場内別容器保管時の措置の強化

製造許可物質、ラベル表示対象物を事業場内で取り扱うに当たって、他の容器に移し替えたり、小分けしたりして保管する際の容器等にも対象物の名称及び人体に及ぼす作用の明示をしなければなりません。

明示の方法は、

  • 容器又は包装への表示
  • 文書の交付
  • 使用場所への掲示
  • 必要事項を記載した一覧表の備え付け
  • 磁気ディスク、光ディスク等の記録媒体に記録しその内容を常時確認できる機器を設置すること
  • 作業手順書又は作業指示書によって伝達する方法

等によることが可能です。

なお、この規定は、対象物を保管することを目的として容器に入れ、又は包装し、保管する場合に適用されるものであり、保管を行う者と保管された対象物を取り扱う者が異なる場合の危険有害性の情報伝達が主たる目的であるため、対象物の取扱い作業中に一時的に小分けした際の容器や、作業場所に運ぶために移し替えた容器にまで適用されるものではありません。

注文者が必要な措置を講じなければならない設備の範囲の拡大

通知対象物を製造し、又は取り扱う移動式以外の設備及びその附属設備の改造、修理、清掃等で、設備を分解する作業又は設備の内部に立ち入る作業に係る仕事の注文者のうち、仕事を他の者から請け負わないで注文している注文者は、次の事項を記載した文書を作成し、これをその請負人に交付しなければなりません。

  • 通知対象物の危険性及び有害性
  • 作業において注意すべき安全又は衛生に関する事項
  • 作業について講じた安全又は衛生を確保するための措置
  • 通知対象物の流出その他の事故が発生した場合において講ずべき応急の措置

仕事を他の者から請け負わないで注文している以外の注文者は、交付を受けた文書の写しをその請負人に交付しなければなりません。

管理水準良好事業場の特別規則等適用除外

化学物質管理の水準が一定以上であると所轄労働局長が認定した事業場は、その認定に関する特別規則について個別規制を除外し、特別規制の適用物質の管理を、事業者の自律的な管理(リスクアセスメントに基づく管理)に委ねることができます。

適用除外となる特別規制は、特定化学物質障害予防規則、有機溶剤中毒予防規則、鉛中毒予防規則、粉じん障害防止規則です。

なお、健康診断、保護具の使用に係る規定は適用除外となりません。

ただ、要件として、事業場に専属の化学物質管理専門家が配置されていることがあり、限られた一部の事業場が対象となります。