2022年7月1日(金)に配信された「岡山さんぽメールマガジン第174号」です。

1.相談員便り

“ナッジ”について(中村武博相談員)

今回の相談員便りでは、産業保健活動で重要な行動変容を促すための強力な方法論の一つである“ナッジ”について紹介します。

ナッジ(Nudge)とは、英語で「(注意をひくために)肘でちょんとつつく、そっと背中を押す」という意味で、行動経済学の世界では「小さなきっかけを与えて、人々の行動を変える戦略」などと説明されます。ナッジ(理論)は、2017年に提唱者である行動経済学者リチャード・セイラー教授がノーベル経済賞を受賞したことで、米国企業を中心に世界的に広まり、企業のマーケティング戦略や国の公共政策など幅広い場面で使われています。なお、行動を変える戦略といっても、企業側の利益のためだけに商品購入を誘導するような仕掛けはナッジではないとされています。このためナッジでは倫理観が大切だと言われており、選択肢が用意されている中で、人々により良い選択ができるように促すことがナッジの大前提です。

健康分野でのナッジの活用例としては健康診断の受診促進が有名で、その中の一つである千葉県千葉市の事例を紹介します。千葉市では、ある年から特定健康診査の受診案内のハガキにStep1「医療機関を選ぶ」→ Step2「医療機関へ電話(予約)する」と目立つように記載しました。その結果、横ばいだった受診率が改善したそうです。案内の内容をシンプルにしたことでメッセージが伝わりやすくなったことに加え、受診をするしないの選択ではなく、どの医療機関を選ぶかの選択に変更したことも受診率が改善した要因の一つと思われます。

このようにナッジでは、選択を強要するのではなく、相手に不快な感情を抱かせずに望ましい選択ができるように誘導します。

ナッジにはフレームワークがあり、Easy(簡単に)Attractive(魅力的に)Social(規範に訴えて)Timely(タイムリーに)の頭文字をとって「EAST(イースト)」と呼ばれます。

紙面の関係上、EASTの中で最も大切といわれるEasyについてのみ説明します。

Easy(簡単に)
千葉市の受診案内ハガキのように、伝えたいメッセージだけに絞り込むことで、対象者は楽に選択できるようになります。我々医療従事者は良かれと思い「あれもこれも言わなきゃ!」と情報を詰め込みがちです。過剰な情報提供は、かえって対象者を迷わせてしまい、結果的に望ましい行動につながらない場合があるので注意しましょう(自戒を込めて)。

なお、ナッジに興味を持たれた方は、ぜひ専門書籍を読んでみて下さい。産業保健活動の色々な場面で応用できると思います。

また、健康診断受診率向上のナッジ活用例は、以下の厚生労働省ハンドブックに詳しく記載されていますのでご参照下さい(千葉市の事例もこちらから引用しました)。

厚生労働省「受診率向上施策ハンドブック(第2版)」[PDF 3.3 MB]
https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/000500407.pdf

《中村相談員の研修会》
https://okayamas.johas.go.jp/tag/nakamura_takehiro/

2.研修会のご案内

【Zoom】
★マークがついたものは、後日見逃し配信(YouTube配信)を予定しています。当日に都合が悪い場合でも、Zoom研修会にお申し込みください。

●7/11(月)14:00~15:30『職場で行う睡眠衛生活動』★
→睡眠は仕事のパフォーマンスにも影響することから健康経営の分野で注目度が高くなっています。睡眠衛生全般の説明と実際の取り組み事例について紹介します。

●7/12(火)13:30~15:00『メンタルヘルス対策導入研究会』
→面接シナリオを用いた標準的メンタルヘルス対策について、複数企業の人事労務担当者が固定メンバーで意見交換・事例検討を2ヶ月ごとに継続して行います。(原則第2火曜日 13時30分~15時)
※4月からでなくても、随時での参加開始が可能になりました。原則として、6回連続での参加で修了とします(単回のみでの参加はできません)。
参加を希望される方は、お問い合わせフォームからご連絡ください。

●7/20(水)14:00~15:30『化学物質のリスク(危険性・有害性)アセスメント:
今後の職場における化学物質の自立的な管理』★
→化学物質による労働災害を防ぐためには、事業者が化学物質の危険有害性等についてリスクアセスメントを実施し必要な対策を講じるだけでなく、化学物質を取り扱う現場の労働者が自ら取り扱っている化学物質の危険性・有害性を認識し、事業者がリスクアセスメントの結果に基づき講じた健康障害防止措置が現場で適切に履行されるよう主体的に取り組むことが大切です。リスクアセスメントの実践について具体的に説明します。

●7/27(水)14:00~15:30『ストレスチェック後の職場環境改善』★
→職場環境改善の取組みは進んでいますか。自分の職場で環境改善が進むことは、労働者のストレスの軽減につながります。職場環境改善の事例を紹介し、取組み方法についてわかりやすく説明します。

【YouTube配信+Zoom(質疑応答とグループワーク)】
約1週間前から講義動画をYouTubeにて配信します。グループワークの参加を希望されない方は、質疑応答の後、Zoomから退出してください。

●7/28(木)15:30~17:00『新型コロナ対策(BCPの観点から)』、他
●8/25(木)15:30~17:00『メンタルヘルス対策』、他

→タイトルのテーマについて、「基礎理論編」「基礎実践編」および「FAQ(よくある質問と回答)」の3モジュール(1モジュール15分目安)で構成されます。

【YouTube配信】
期間内であれば何度でも視聴できます。

●7/7(木)13:30~7/11(月)16:30『職域における健康診断と事後措置および特殊健康診断-特に石綿の健康管理について-』(90分)
→職域における健康診断と事後措置について特に、アスベスト(石綿)に係る法改正(石綿障害予防規則、大気汚染防止法)があり、アスベストに関しては、規制が強化されています。この辺りも含めて、分かりやすく説明します。

●8/24(水)13:30~8/26(金)16:30『情報機器作業に関する健康障害の予防について』(90分)
→VDT作業から「情報機器作業」と名称が変わりました。多くの方々が使用している情報機器作業の健康障害予防について紹介いたします。

【会場に集まる研修会】
ピュアリティまきび(岡山市北区下石井2-6-41)で開催します。

●8/19(金)14:00~15:30『発達障害労働者の行動特性に準じた対応について』
→近年は、大人の発達障害かも(?)と思う事例が増えてきました。そんな特性を持った方への職場適応支援は、周囲の努力だけはうまくいかないことが多いです。今回は、特性を持たれた方への対応のコツを紹介します。昨年度と同じ内容です。

◆参加申し込みはこちら
https://okayamas.johas.go.jp/training/

3.産業医研修会(2022年8月)

日時:8月18日(木)14:30~16:30
会場:岡山県医師会館三木記念ホール

演題1:職場における新型コロナ対策(BCPの観点から)
演題2:近年の労働安全衛生法改正1(衛生委員会のWEB化等)

講師:高尾総司(岡山大学大学院疫学・衛生学分野 准教授)

単位数:生涯専門1単位、更新1単位
受講料:無料

お申込みはこちら:https://okayamas.johas.go.jp/2022-0818/

4.日本産業保健法学会 第2回学術大会について

精神障害の補償・賠償と法/テレワークの産業保健と法

開催方式:オンライン開催(ライブ配信、オンデマンド配信)※認定産業医研修会を含めた一部セッションのみ現地開催

日時:
ライブ配信(現地)2022年9月17日(土)・18日(日)
オンデマンド配信2022年10月1日(土)~31日(月)(予定)

会場:全国町村会館 〒100-0014東京都千代田区永田町1-11-35

プログラム抜粋:
・労災を巡る裁判事例と労災認定の動向と課題
・テレワーク定着化にむけた健康管理・労務管理上の課題と法
・精神障害者の雇用促進と法—合理的配慮を中心に

参加申込および問合せ先:https://jaohl2022.info/

5.溶接ヒュームに係る改正法令等オンライン説明会

アーク溶接を行う際に発生する「溶接ヒューム」は、令和3年4月から同物質を特定化学物質(第2類物質)として規制する改正法令が施行され、全体換気や特殊健康診断など一部施行となっていましたが、令和4年4月1日以降、「金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場」においては、特定化学物質障害予防規則の規定により、溶接ヒューム濃度の測定結果に応じた呼吸用保護具の選択・使用が義務付けられました。併せて、特定化学物質等作業主任者の選任等の対応も必要になりました。

さらに令和5年4月、面体形マスクについては1年以内ごとに1回のフィットテストの実施が義務化される予定です。

このたび岡山労働局・各労働基準監督署では、溶接ヒュームに係るオンライン説明会を開催します。

各日とも説明内容は同じ、参加費無料です。

・7月15日(金) 14:00~16:10
・7月22日(金) 14:00~16:10
・7月29日(金) 14:00~16:10

お申込みはこちら:https://okayamas.johas.go.jp/fume/

6.【岡山県からのお知らせ】従業員等の禁煙を支援しませんか

岡山県では、令和3年4月以降に、従業員等に対する禁煙治療費助成を導入する企業・団体に対し、その費用の一部を支援しています。この機会に、従業員等の禁煙を支援しませんか。

■支援額
企業・団体が行った助成金の合計額に2分の1を乗じて得た額(助成対象者一人あたり、上限1万円)

■支援金の対象となる禁煙治療費助成事業
禁煙外来において標準禁煙治療プログラムによる禁煙治療を受け、5回目の診察を終了した従業員等に対する次の費用への助成

・禁煙外来の治療費
・医師の処方に基づく禁煙補助薬の購入費(医師の指導に基づく場合は、ニコチンガムの購入費も含む。)

■支援金の交付対象者
次の要件をすべて満たす企業・団体(被用者保険組合を含む。国、地方公共団体を除く。)

・令和3年4月1日以降に、従業員・職員(被用者保険組合の被保険者を含む。)に対する禁煙治療費助成事業を導入すること
・県内に事業所等を有すること  
・岡山県に納付(納入)すべき県税に滞納がないこと

■事業実施期間  令和3年度 ~ 令和5年度

■申込み・問い合わせ先
岡山県保健福祉部健康推進課 担当:武村
Tel:086-226-7328  E-mail: kensui@pref.okayama.lg.jp

詳しくは、県ホームページをご覧下さい。
https://www.pref.okayama.jp/page/709570.html

7.【岡山労働局からのお知らせ】企業規模に関わらず、月60時間を超える残業の割増賃金率が50%以上となります

中小企業に対して適用が猶予されていた1か月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率について、2023年(令和5年)4月1日から50%以上とする規定が適用されます。

(現在)月60時間超の残業割増賃金率 大企業は50%、中小企業は25%
(適用後)月60時間超の残業割増賃金率 大企業、中小企業ともに50%

就業規則、給与計算システムの見直しなど、必要な対応をお願いします。

岡山労働局ホームページ
https://jsite.mhlw.go.jp/okayama-roudoukyoku/newpage_00701.html


次回の第175号は2022年8月初旬に配信予定です。