1.相談員便り
確証バイアス(中村武博相談員)
私たち人間には、自分の考えに合った情報を選んで信じやすい傾向があります。これを「確証バイアス」と呼びます。たとえば、友達の噂やネット上の記事を見て、自分がもともと信じていることに合った情報だけを受け入れ、反対の情報は無視してしまうことがあります。
この確証バイアスは、新型コロナ感染症に関する多くの誤情報の拡散にも影響を与えました。例えば、「ワクチンにはマイクロチップが含まれている」「コロナウイルスは存在しない」「特定の食品を摂取すればウイルスを防げる」などの情報が、一部の人々の間で真実のように広まっていました。
確証バイアスは誰にでも生じうるものですが、中には誤情報を強固に信じ込んでしまう人がいます。そのような人々には、以下のような共通点が見られます。
- 自己中心的な思考:自分の意見や信念が正しいと強く信じ、他の意見を受け入れにくい傾向があります。
- 経験依存:自分の過去の経験に基づいて物事を判断しやすく、新しい情報や異なる視点を無視することがあります。
- 感情的反応:強い感情を伴うテーマに対して、感情が判断に影響を与えるため、確証バイアスに陥りやすくなります。
- 批判的思考の欠如:情報を客観的に分析するスキルが不足しているため、自分の意見に合う情報だけを集める傾向があります。
- 情報過多への脆弱性:多くの情報に接したときに、自分の意見を裏付ける情報だけを選び取ってしまうことがあります。
- コミュニケーションの偏り:同じ意見を持つ人たちとだけ交流することが多く、異なる視点に触れる機会が少ない。
では、誤情報を強固に信じている人々の考えをどうすれば変えることができるでしょうか?
産業保健の仕事をしていると、そのような場面も少なくないですよね。そのような時には以下のようなアプローチが有効かもしれません。
- 1)共感と理解を示す:まずは相手の立場や感情に共感し、理解を示すことで信頼関係を築く。「あなたの考えを理解したい」と伝え、対話の場を作る。
- 2)対立を避ける:直接的に「間違っている」と指摘するのではなく、「別の視点も考えてみませんか?」と提案するようなアプローチを取る。対立よりも対話を重視。
- 3)質問を使って考えさせる:開かれた質問をすることで、相手が自ら考える機会を提供する。例えば、「この情報の出所はどこですか?」や「その情報をどうやって検証しましたか?」などの質問が効果的。
- 4)信頼できる情報源を提供する:誤情報を正すために、信頼性の高い情報源を紹介する。ただし、無理に押し付けるのではなく、興味を引く形で提供する。「こんな興味深い研究がありますが、どう思いますか?」などと提案する。
- 5)ストーリーを活用する:人々はストーリーや具体的な事例に対して感情的に反応しやすいので、誤情報が訂正された実例や、それに関連するストーリーを共有することで理解を促す。
- 6)時間をかけて変化を促す:考え方を変えるには時間がかかることが多い。焦らずに、継続的に正しい情報を提供し、対話を続けることが重要。
- 7)自己発見を促す:相手自身が新しい情報を見つけて気づくことが、考えを変える最も効果的な方法。そのために、情報探索をサポートする。
- 8)信頼関係を重視する:信頼される相手からの情報であれば、受け入れやすくなる可能性があるので、信頼関係を築くことが重要。
これらの方法を組み合わせて、相手が自己反省し、新しい視点を受け入れる手助けをすることが考え方の変化につながります。重要なのは、相手を攻撃するのではなく、共に考える姿勢を示すことです。
《中村相談員の研修会》
https://okayamas.johas.go.jp/tag/nakamura_takehiro/
思索の場としての庭(山下龍子相談員)
河田病院 山下龍子
私は庭が好きです。一日の始まりと終わりには短い時間でも庭に出て植物との対話を楽しみます。植物は色々なことを言ってきます。水が足りない、栄養が足りないと言います。その声を聴きながら汗をかいています。中でもバラが好きでオールドローズからモダンローズまで育てています。時には蝶やトンボや蜂やあおむしなどのお客さんもきます。お客さんもいいものです。あおむしが大きくなるのを楽しんでいたら、有る日、蜂に食べられてしまい、自分のふがいなさが悲しくなります。もっと早く網をかけてやればよかったのです。
最近読んだ本におもしろいことが書いてあったので紹介します。本は「The little book of Rose」でその中の「Medieval Garden 中世の庭」の章です。
著者はジャック・バローというパリ自然史博物館の館長をされていた方です。
この方の経歴を調べてみると、南太平洋のニューカレドニアで幼年時代を過ごしましたが、その体験がもとになり、太平洋の島々について関心をもつようになりました。フランスの大学を卒業後、ニューカレドニアを拠点とし、ミクロネシア、ポリネシア、メラネシアなどのオセアニア地域の自然と人々の暮らしについて民族生物学的研究を行いました。フランス本国に戻ってから、自然科学と人文・社会科学の両面にわたる総合的な考察を試みました。
以下に簡単に訳してみました。
中世の庭
バラは中世においては今日より尊ばれていた。これにはバラの薬用、食用、観賞用としてのみならずさまざまな理由がある。エデンの園以来、聖書における庭は砂漠の中の緑のオアシスのようであった。また、ユダヤ教やキリスト教では庭の姿や庭から思い描くものは、純粋さ、美しさ、調和のとれた完璧な庭であった。同様に、コーランは来世の意思が住む場所が庭であると言っており、イスラムの聖書には古代のアラビアの世界における庭に大切さが書かれている。「パンは体に栄養を与え、花は心に栄養を与える。」イスラム世界ではすみからすみまでバラは中庭や宮殿で咲いていた。中世のペルシャでは、王侯貴族がとくに獲物の多い土地を自分たちの狩猟の楽しみのために囲いこんだ猟園をパラダイスと呼んだ。
そのようなバラは十字軍の戦士によってもたらされた。ヨーロッパだけでなくイスラムの庭にももたらされた。庭には果実の木、銀梅花の木やバラが栽培され、噴水が作られた。修道士や修道女が世話をする回廊式であろうが開放的な庭であろうが、修道院付属の庭にその形は影響を与えた。葉っぱや水盤まで続くバラのある青々とした回廊は宗教者であろうがなかろうが内観(自分の意識やその状態をみずから観察すること)や、熟考(じっくり考えること)に導いてくれた。
野菜やハーブも中世の庭ではバラの傍に栽培された。これは、ヨーロッパの家庭菜園にも見られる。中世の庭の愛好家は、庭作りの功績を記録に残すことにも熱中していた。9世紀のカール大帝ご料地令第70条には果樹以外に73種類のハーブが記載されているが、ハーブの記載の中にはリリーに次いでバラが挙げられる。
以上がジャック・バローの「中世の庭」の章です。中世の西洋では、庭が思索の場であったことを知ると、小さい我が家の庭でも草をひく手に力が入ります。
《山下相談員の研修会》
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2.研修会のご案内
研修会についてはこちら
https://okayamas.johas.go.jp/training/
3.産業医研修会
産業医研修会についてはこちら
https://okayamas.johas.go.jp/tag/ss,sj,sk/
4.がん分野勤労者医療フォーラムの開催について
労働者健康安全機構(東京労災病院)では、がんにおける治療と仕事の両立支援の取組状況を踏まえて、今後の両立支援のあり方を検討する「がん分野勤労者医療フォーラム」を今年も開催します。
このセミナーでは、厚生労働省、企業、医療機関及び労働者健康安全機構(産業保健総合支援センター・労災病院)より両立支援の取組状況を講演のうえ、各演者による両立支援に係る現状と課題についてのパネルディスカッションを行います。
両立支援に関係する医療従事者、産業医・産業保健スタッフ、企業関係者など皆様のご参加をお待ちしております。
【事前申込制・参加無料】
【日時】
令和6年10月5日(土)13時00分~15時45分
【開催形式】
Web・会場のハイブリッド開催
(1)オンライン【Zoom】(500名)
(2)会場TKPガーデンシティPREMIUM品川高輪口(70名)
https://www.tokyor.johas.go.jp
5.母性健康管理研修会(オンデマンド形式動画配信)
会社が妊娠中・出産後の女性労働者へ適切に配慮できるよう、母性健康管理に関する法律・制度を専門家が解説。企業による事例発表で具体的な対応事例も学べます。
配信期間:令和6年10月~令和7年3月
https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/kenshu2024
6.産業医等が行う調査研究に対する助成(産業医学振興財団)
産業医学振興財団では、働く人々の健康保持や産業医活動の推進等に関する調査研究に対する助成を行っております。助成対象の調査研究課題は一般公募により選考決定いたします。令和7年度も助成希望者を広く募集いたしますので、ぜひ積極的にご応募ください。
https://www.zsisz.or.jp/investigation/r7.html
次回の第202号は2024年10月15日に配信予定です。