2022年6月1日(水)に配信された「岡山さんぽメールマガジン第173号」です。
1.相談員便り
「持続可能性」について(田口豊郁相談員)
最近,「持続可能性(Sustainability)」という言葉が,環境,経済,社会福祉,社会保障など,いろいろな分野で使われるようになりました.「持続可能性」が重要な意味を持つ公的な文献・報告書を現在から過去に遡って考察します.
1) 2015年 持続可能な開発のための2030アジェンダ(Sustainable Development Goals: SDGs)
SDGsは,2015年9月の国連サミットで採択(全会一致で)されました.SDGsは,持続可能で多様性(Diversity)と包摂性(Inclusiveness)のある社会,すなわち「誰一人取り残さない(no one must be left behind)」社会の実現を目指しています.SDGsは,持続可能な世界を実現するための17の目標(Goal)と169の標的(Target)から構成され,2030年までを達成期限としています.
2) 1987年 ブルントラント・レポート:我ら共有の未来(Our Common Future)
「持続可能な開発(Sustainable Development)」という文言は,1987年 国連WCED(環境と開発に関する世界委員会)『ブルントラント・レポート:我ら共有の未来(Our Common Future)』の中で,「将来世代のニーズを損なうことなく現在の世代のニーズを満たす開発」と定義されました.「現在および将来の世代のために(for present and future generations)」(持続可能性)を優先するということが国際的な合意事項となりました.
「持続可能性」とは,簡単に言えば,「子孫にツケを回さない(子孫のために何をすべきか,何をしてはいけないか)」ということです.すなわち,私たちには「子孫に対する責任(世代間責任)」があります.
3) 1972年 人間環境宣言
「現在および将来の世代のために」という文言は,1972年の「人間環境宣言」に遡ることができます.1972年6月ストックホルムで開催された「国連人間環境会議」で,「人間環境宣言(7項)」と「国際的行動計画(26項)」が採択されました.宣言(6)に「……略…… 現在及び将来の世代のために人間環境を擁護し向上させることは,……略…… 追求されるべき目標となった」と記載されています.さらに,宣言(7)では,「……略…… 国連人間環境会議は,各国政府と国民に対し,人類とその子孫のため,人間環境の保全と改善を目指して,共通の努力をすることを要請する.」と締めくくっています.
「人間環境宣言」は,地球環境問題に対する国際的取組の出発点と位置づけられています.
4) 1946年 日本国憲法
「持続可能性」という概念は,さらに遡り,「日本国憲法」の中に観ることができます.日本国憲法の「前文」に,「日本国民は,正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し,われらとわれらの子孫のために,……略……,政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないやうに……略……,この憲法を確定する.……略……」と宣言されています.さらに,第11条(基本的人権)では「国民は,すべての基本的人権の享有を妨げられない.この憲法が国民に保障する基本的人権は,侵すことのできない永久の権利として,現在及び将来の国民に与へられる.」と記述されています.
「持続可能性」という概念が戦後すぐに作成された「日本国憲法」に盛り込まれていたことになります.その先進性・先見性は驚くべきことです.この「持続可能性」は日本国憲法の譲ることのできない基本的精神の一つと私は考えています.
あらゆる場面での意思決定に当たって,「持続可能性」が出発点であるということが世界の合意事項(consensus)です. SDGsの17の目標と169の標的の中には,産業保健と直接・間接的に関わるものが多くあります.特に,目標8,9および12は産業保健との関わりが強いと思われます.これらの3つの目標とそれぞれの標的は,産業保健がなすべき研究課題と行動・実践の重要なヒントになると考えています.
過重労働メンタルヘルス対策とホワイト500、ブライト500について(道明道弘相談員)
健康経営優良法人認定制度は経済産業省と日本健康会議が保険者と連携して優良な健康経営を実践している法人を顕彰する制度です。なかでも大規模法人部門において特に優れた取り組みを行っている企業の中から上位法人が「ホワイト500」に認定されます。同様に中小規模法人部門の上位法人は「ブライト500」に認定されています。なお、健康経営銘柄 -は経済産業省と東京証券取引所が共同で上場企業から選定されます。
ホワイト500に認定されるためには、認定要件5つのうち4つ 1.経営理念(経営者の自覚)、2.組織体制、4.評価・改善、5.法令順守・リスクマネジメントは必須要件となっています。3.制度・施策実行にも一部ですが必須項目があります。なお、ホワイト500の対象となる法人の条件は、業種ごとの従業員数によって決められています。次に、ブライト500(中小規模法人部門における上位500法人)の認定要件も、ホワイト500と変わらず5つの大項目要件を満たすことです。大項目は同じですが、評価項目と認定要件が大規模法人部門とは異なっています。
ホワイト500、ブライト500のメリットとしては、ホワイト500の認定を受けるには、従業員の健康を保持・増進する取り組みを行う必要があります。その例として、「従業員の健康管理、メンタルヘルス対策、ワーク・ライフ・バランスの推進、過重労働の防止など」があります。これらの取り組みによって働きやすい労働環境を整えれば、従業員が健康的に働くことができます。活気ある職場づくりにも、よい影響をもたらします。さらに、生産性の維持・人材確保のコスト抑制で、環境改善に伴い離職者が少なくなれば、新たな人材を確保する手間や費用を抑えられます。人材確保のコスト抑制は、企業の経営者をはじめ人事や総務担当者にとって大きなメリットです。
対外的なメリットとしては、優秀な人材の獲得があげられ、企業を選ぶ求職者からすれば、報酬が高いことは大切な条件のひとつですが、それ以外に働きがい、安定性、将来性など、金銭以外の条件も重視しています。従業員の健康に配慮している企業というイメージが求職者に定着すれば、企業側としては優秀な人材を獲得できる機会が増えます(リクルート効果)。また、すぐに効果は出ませんが、ホワイト500に認定されると企業や商品・サービスの価値向上につながり、競合他社よりも生活者の目を引き、販売促進につながることが期待できます。さらに、投資家へのイメージアップも大きく、人を大切にする企業ということで、ESG(環境・社会・企業統治)を企業の持続的成長と結びつけて考える投資家にとっては、投資対象の仲間入りとなります。
ホワイト500の取得のためには、調査結果で高い評価を得なければなりません。調査票は、企業の従業員の人数など、基本的な情報から健康経営の方針まで、広範囲にわたって企業の活動状況がチェックできる内容となっています。その他、長時間労働者数、裁量労働者数の実態、年次有給休暇の取得状況、法定福利費、法定外福利費の実績なども調査対象となります。
また、従業員が健康的かつ生産性高く業務に取り組むためにはワークライフバランスがどちらにも偏ることなく両立できることが必要です。健康経営優良法人の認定を受けること、または認定を目指すことの最大のメリットは、社員の健康増進です。社員にとって働きやすい職場環境が実現し、生産性や社員満足度が向上します。また、社員の健康状態が改善されることで、メンタルヘルスや体調不良による休職・退職を防げます。社員に健康で長く働いてもらうことで、人材を確保できます。
以上、過重労働メンタルヘルス対策、ワーク・ライフ・バランス、働き方改革、健康優良経営法人(ホワイト500、ブライト500)は、根柢のところでは繋がっていますが、「ホワイト500」等は、従来の職場におけるいわゆる「守り」の健康管理から、さらに進んだ「攻め」の健康経営への取り組みなのです。健康経営の根本には、従業員を企業が成長する上での貴重な資源と捉え、従業員の健康増進を人的資本に対する投資として捉える考え方があり、従業員の健康に対する投資を戦略的に行うことによって、プラスの収益を実現しようとする積極的な経営手法なのです。
2.研修会のご案内
【Zoom】
★マークがついたものは、後日見逃し配信(YouTube配信)を予定しています。当日に都合が悪い場合でも、Zoom研修会にお申し込みください。
●6/6(月)13:00~14:30『「聞き方」のコツ トレーニング1』
→悩み・ストレスによる体調変化などを来した従業員に対する話の聞き方をロールプレイを通して学習していきましょう。グループワークを行います。
●6/21(火)14:00~15:00『ストレスチェック制度の概要と最近の動きについて』★
→ストレスチェック制度がスタートして6年が経過しましたが、岡山産業保健総合支援センターには、未だに多くの相談が寄せられています。この研修会では、相談のあった内容を含めストレスチェック制度について解説します。また、これからストレスチェック制度を導入しようとする小規模事業場の方にもわかりやすく解説します。
●6/27(月)13:30~15:00『リスクアセスメント、化学物質のリスクアセスメントについておさらい』★
→危険予知活動の重要性、ラベルでアクシヨン(化学物質のリスクアセスメント)などもう一度復習してみましょう。
●7/11(月)14:00~15:30『職場で行う睡眠衛生活動』★
→睡眠は仕事のパフォーマンスにも影響することから健康経営の分野で注目度が高くなっています。睡眠衛生全般の説明と実際の取り組み事例について紹介します。
●7/12(火)13:30~15:00『メンタルヘルス対策導入研究会』
→面接シナリオを用いた標準的メンタルヘルス対策について、複数企業の人事労務担当者が固定メンバーで意見交換・事例検討を2ヶ月ごとに継続して行います。(原則第2火曜日 13時30分~15時)※4月からでなくても、随時での参加開始が可能になりました。原則として、6回連続での参加で修了とします(単回のみでの参加はできません)。参加を希望される方は、お問い合わせフォームからご連絡ください。
●7/20(水)14:00~15:30『化学物質のリスク(危険性・有害性)アセスメント:今後の職場における化学物質の自立的な管理』★
→化学物質による労働災害を防ぐためには、事業者が化学物質の危険有害性等についてリスクアセスメントを実施し必要な対策を講じるだけでなく、化学物質を取り扱う現場の労働者が自ら取り扱っている化学物質の危険性・有害性を認識し、事業者がリスクアセスメントの結果に基づき講じた健康障害防止措置が現場で適切に履行されるよう主体的に取り組むことが大切です。リスクアセスメントの実践について具体的に説明します。
●7/27(水)14:00~15:30『ストレスチェック後の職場環境改善』★
→職場環境改善の取組みは進んでいますか。自分の職場で環境改善が進むことは、労働者のストレスの軽減につながります。職場環境改善の事例を紹介し、取組み方法についてわかりやすく説明します。
【YouTube配信+Zoom(質疑応答とグループワーク)】
約1週間前から講義動画をYouTubeにて配信します。グループワークの参加を希望されない方は、質疑応答の後、Zoomから退出してください。
●6/30(木)15:30~17:00『過重労働対策』、他
●7/28(木)15:30~17:00『新型コロナ対策(BCPの観点から)』、他
→タイトルのテーマについて、「基礎理論編」「基礎実践編」および「FAQ(よくある質問と回答)」の3モジュール(1モジュール15分目安)で構成されます。
【YouTube配信】
期間内であれば何度でも視聴できます。
●6/10(金)13:30~6/14(火)16:30『働き方改革とワーク・ライフ・バランスおよび業務改善の実際、および健康経営優良法人(ホワイト500・ブライト500)について』(90分)
→働き方改革で、労働時間の適正化や有給休暇取得率の向上などで従業員のワーク・ライフ・バランスが改善されると離職率が低下。さらに健康経営優良法人認定によって企業イメージが向上すれば、優秀な人材が集まり、社会的評価の獲得へとつながります。これらのことを分かりやすく説明します。
●6/29(水)13:30~7/1(金)16:30『熱中症予防』(90分)
→熱中症は最悪死亡することがありますが、予防が可能です。熱中症の予防について考えましょう。
●7/7(木)13:30~7/11(月)16:30『職域における健康診断と事後措置および特殊健康診断-特に石綿の健康管理について-』(90分)
→職域における健康診断と事後措置について特に、アスベスト(石綿)に係る法改正(石綿障害予防規則、大気汚染防止法)があり、アスベストに関しては、規制が強化されています。この辺りも含めて、分かりやすく説明します。
【会場に集まる研修会】
ピュアリティまきび(岡山市北区下石井2-6-41)で開催します。
●6/7(火)13:30~15:00『メンタルヘルスに関する病気について』
→過剰なストレス刺激は、精神的な病的状態の原因となります。ストレスが起因となる病気を紹介します。また、COVID-19に伴うメンタルヘルスの問題を紹介します。
●6/16(木)15:00~16:30『職場のメンタルヘルス対策体調不良者の早期発見のポイント』
→メンタルヘルス不調者の対応は難しいといわれることが多いです。対応が難しくなる理由を明確にし、早期発見のポイントを理解します。昨年度と同じ内容です。グループワークを行います。
◆参加申し込みはこちら
https://okayamas.johas.go.jp/training/
3.産業医研修会(2022年7月)
日時:7月21日(木)14:30~16:30
会場:岡山県医師会館三木記念ホール
演題1:産業医に必要な法律知識(安全配慮義務等)
演題2:職場の健康管理をめぐる訴訟事例の紹介とまとめ
講師:高尾総司(岡山大学大学院疫学・衛生学分野 准教授)
単位数:生涯専門2単位
受講料:無料
お申込みはこちら:https://okayamas.johas.go.jp/2022-0721/
次回の第174号は2022年7月初旬に配信予定です。