1.相談員便り

麻疹(はしか)案件から産業保健現場で考えておくべきこと(勝田吉彰相談員)

2024年2月24日に関西空港に到着したエティハド航空の乗客から8例の麻疹感染者が発生し、さらに二次感染例と思われるケースが出たことから、連日麻疹(はしか)関連の報道が相次ぎ、筆者も何度かメディアに協力しています1)2)。今回は麻疹関連で産業保健、会社で考えるべきことを中心に紹介したいと思います。

まず事実関係、アラブ首長国連邦から関西空港に到着したエティハド航空機から8例の麻疹感染者が明らかとなりました。いまエティハド航空以外にもエミレーツ航空など中東系の航空機には中東のみならず、アフリカ・欧州など広範囲の目的地からの乗客が接続便を利用して乗っています。感染が明らかになってからその行動範囲とともに、症状3)のある人は受診するよう行政から呼びかけが行われています4)5)。

ここ最近は、世界中で麻疹の発生が報道されており、途上国はもとより、いったんはWHOから麻疹排除国認定をうけた先進国~英・米・豪・スイス・ポルトガル・イスラエルなど~での発生も目立っています。

ソーシャルディスタンスもアクリル板も無効

麻疹の感染力、その指標となる「基本再生産数」の数字は12~18と、インフルエンザの約10倍、コロナ(オミクロン)の約3倍と強大です。こんなに感染力が強大になる理由は、その感染様式の多彩さにあります。飛沫感染・接触感染はもとより、飛沫核感染(エアロゾル感染)で空中を漂うことが感染の機会をぐっと増やします。結果、コロナ対策として会社で使っていたソーシャルディスタンスやアクリル板といった手段も、麻疹には通用しないということになります。

世代に関係なくワクチンの接種歴確認を

ではソーシャルディスタンスやマスクやアクリル板が通用しない麻疹が職場で蔓延することを防ぐにはどうするか。2回のワクチン接種がほぼ唯一の解となります(生ワクチンですので妊婦には接種できないなど制約もあるので確認ください)。麻疹ワクチンについては、過去、世代によって接種回数が1回にとどまっていることの多い世代があり要注意です6)。しかしここで強調したいのは、ワクチン2回接種となっている世代においても未接種者が存在することで、実際に今回最初のケースは20歳代の未接種者ということに保健当局者も戸惑っている様子がうかがえます。ですので、職場において、世間の関心が高まっているこの機会をとらえていま一度ワクチン接種歴の確認をしてはと思います。母子手帳等での確認がとれない場合には抗体価検査も検討ください。

また、海外出張者・赴任者にあっては、肝炎や髄膜炎ワクチンと同様に「渡航ワクチン」の視点でも接種の確認をおこなっていただきたいところです7)。

BCPを

感染力の強い麻疹はコロナ前の2016年にも大きな騒動を起こしています。この年も舞台は関西空港で、空港スタッフがカウンター業務で感染したものです。このような短時間のかかわりでも感染することから、会社のなかで感染者が発生した場合はただちに帰宅させ、また周囲の感染拡大を想定する必要があります。そのなかでどう事業継続するか、BCPのいま一度見直しということも検討ください。

注:麻疹の症状

1) https://www.youtube.com/watch?v=ZCHHM0ylEWA
2) https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/1052557
3) https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/measles/index.html
4) https://www.pref.osaka.lg.jp/hodo/index.php?site=fumin&pageId=50650
5) https://www.city.osaka.lg.jp/hodoshiryo/kenko/0000622299.html
6) https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/measles/ra/measles_ra_2024_1.pdf
7) https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/name62.html

《勝田相談員の研修会》
https://okayamas.johas.go.jp/tag/katsuda_yoshiaki/

本年度の研修について(高尾総司相談員)

2024年度もどうぞよろしくおねがいします。研修等は大きくは変わりません。(1)導入研究会(企業・自治体2グループ)、(2)WEBレク、(3)産業医研修会、が3つの柱となります。

(1)導入研究会(自治体:偶数月、企業:奇数月、原則第二月曜日午後)

まず、開催曜日が月曜日に変更になりました。また内容的に労務管理を主体とする対応策を検討することから、保健師単独での参加は、なかなか実際の導入につながりにくく、人事総務担当者+産業医・保健職の組み合わせが有用と思われます。

ひさしぶりに、対面での「説明会」を以下のとおり開催したいと思います。時間も長めにとって、二部構成としメソッドの最新の情報の紹介もしたいと思います。第2部では、導入研究会を含め、さまざまな地域貢献のための支援について説明します。申し込みは、Peatixからお願いします。

https://sanngyoi20240508.peatix.com/view

【開催概要】
 講演:業務遂行レベルにもとづくメンタルヘルス対応(通称:高尾メソッド)
 研究成果報告:人工知能を活用した復職判定支援の試み
 講師:高尾総司(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科疫学・衛生学分野准教授)
 日時:2024年5月8日(水)13時〜17時
 場所:岡山大学鹿田キャンパス臨床講義棟2階「臨床第一講義室」
 開催方法:現地参加(第1部または第2部のみのご参加も可能です。どちらかのみご参加の場合、後日動画にて、内容について視聴することができます)

【詳細】
 第1部:13:00~15:00 講演・研究成果報告(内容に関する質疑を含む)
 第2部:15:15~17:00 地域貢献のための実務支援説明会

*第1部のメンタルヘルス対応の具体的な内容は、やや簡素な説明となるため、事前または事後に申込後にご案内する動画を視聴することをお勧めします。
*申込フォームにて、事前にお知らせいただいた質問等については報告内に含めて解説・回答いたします。当日にも質問時間はとります。

(2)WEBレクチャー(4月メンタル総論、7月ハラスメント対応、10月チームで臨む職場の健康管理、1月女性・男性の健康課題への対応)

(3)産業医研修会(5月16日メンタル総論、11月7日発達障害疑い対応)

回数は減らしますが、引き続き実施します。

以上、やや事務的な内容が中心となりましたが、また何かニーズ等ありましたら、ぜひ教えて下さい。

ポッドキャストで、二つの健康管理、大原則・三原則などの基礎の基礎から、産業医保健に関する具体的お困りごとまで、弁護士・社労士と三人でとりあげています。ぜひ聴いてみてください(https://anchor.fm/fukushoku-meijin)。

《高尾相談員の研修会》
https://okayamas.johas.go.jp/tag/takao_soshi/

2.研修会のご案内

研修会についてはこちら
https://okayamas.johas.go.jp/training/

3.産業医研修会

産業医研修会についてはこちら
https://okayamas.johas.go.jp/tag/ss,sj,sk/

4.『産業保健21』第116号が発行されました

特集:働く女性の産業保健

働く女性の生涯を通じた健康支援とそのポイント

コロナ禍からみた大規模な感染症とその対策

三菱重工事件(ほどなく従前の職務を通常の程度に行える健康状態になっていたとは認められない等として就業規則所定の連続欠勤を理由とする解雇が有効とされた事案)

試し出勤で復職へとステップアップ、本人の意欲と職場の期待に応える

ワイヤーロープの疲労に関する研究

など

ダウンロードはこちら(無料)
https://okayamas.johas.go.jp/21-116/

情報誌『産業保健21』は、産業医をはじめ、保健師・看護師、労務担当者等の労働者の健康確保に携わっている皆様方に、産業保健情報を提供することを目的として、独立行政法人 労働者健康安全機構が発行しています。

5.令和5年度入院患者病職歴調査基礎解析について

労働者健康安全機構では、1984年4月1日から現在まで、全国の労災病院において、入院された患者さんの病歴と職業歴及び喫煙歴等の生活習慣を併せて調査し、それにより得られた情報を診療に役立てるとともに、働く人々の職場環境と疾病との関連性を臨床的、疫学的に研究し、その研究成果を勤労者の健康の保持増進及び疾病の予防・治療・職場復帰支援に活用することを目的として、入院患者病職歴調査を行っています。

令和5年度入院患者病職歴調査基礎解析(案)
https://www.research.johas.go.jp/bs/doc/20240307.pdf

労災疾病等医学研究普及サイト(病職歴調査 研究成果)
https://www.research.johas.go.jp/bs/index.html#results

6.高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)からのご案内~難病患者の就労困難性に関する調査研究~

高齢・障害・求職者雇用支援機構においては、就労経験のある3,000名以上の難病患者、事業所、地域支援機関の調査により、難病の様々な症状による職場での支援ニーズを明らかにした「難病患者の就労困難性に関する調査研究」の報告書を3月末に公表しました。ホームページからダウンロードできますので、御活用ください。

https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/houkoku172.html


次回の第197号は2024年5月15日に配信予定です。