1.相談員便り

今、必要とされる職場における「心理的安全性」について(谷原弘之相談員)

川崎医療福祉大学 谷原弘之

今、必要とされる職場における「心理的安全性」について

最近、組織の中が歪む事案を耳にします。従業員は、間違っていることに気づきながらも、声が出せないまま、損失が大きくなっていることもあるようです。間違っていることを間違いだと言えなかったり、思ったことを組織の中で発言できない環境は、心理的安全性が脅かされている可能性があります。

心理的安全性とは、企業の組織づくりに役立つ理論のひとつで、「組織の中で自分の考えを不安なく、発言できる環境や関係性」のことと言われています。

心理的安全性が注目されたのは、GoogleがThe New York Timesに「心理的安全性は成功するチームの構築に最も重要なものである」という労働改革プロジェクト「プロジェクト・アリストテレス(Project Aristotele)1)」を発表したことがひとつの契機になりました。これは、Googleの中に数百あるチームの中で、生産性の良いチームと悪いチームを分析した結果、仮説として「優れたチームは仕事以外のプライベートでも一緒に遊びに行く等、親しい関係性をもっているのではないか」と考えましたが、それは結果として支持されませんでした。逆に、チームの成功因子として見いだされたものが心理的安全性で、いわゆる何でも臆することなく話せる、風通しのよい職場でした。

WBCで侍ジャパンの優勝に、栗山監督が心理的安全性を活用したことが報告されています2)。①メンバーを集める際、栗山監督自身が1人ずつ電話でオファーし(1on1ミーティングの利用)、②「今後の野球界のために勝って歴史に残す」(トップのビジョンを明確に提示)と、心理的安全性のエッセンスを使ったことにより、各選手が本来は目立ちたい気持ちを抑えつつ、優勝するためにここはバントをしよう等、各場面での役割を自覚し、きっちりこなしたことが優勝という結果につながったと言われています。

よく職場で実施している育成面談では、上司が部下の評価を行いながら、長所と短所を示しつつ成長を促すやり方で、上司の裁量にゆだねられている部分が大きいかと思います。心理的安全性における「1on1ミーティング」では、上司が「次年度は新規事業として〇〇をやろうと思っています。あなたはどのように力を発揮してくれますか?」と上司のビジョンを提示し、部下が自分で事業への参画を宣言するやり方です。このやり方のメリットは、部下に責任感が生まれ、自主的に行動するようになることです。

組織が窮屈に感じられるときは、心理的安全性のエッセンスをひとつでも取り入れてみると、よい変化が起こるかもしれません。

引用文献
1)Charles Duhigg, What Google Learned From Its Quest to Build the Perfect Team, The New York Times, Feb. 25, 2016.
2)週刊東洋経済,特集心理的安全性超入門,東洋経済新報社,2023.

《谷原相談員の研修会》
https://okayamas.johas.go.jp/tag/tanihara_hiroyuki/

2.研修会のご案内

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3.産業医研修会

産業医研修会についてはこちら
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4.防ごう!熱中症 守ろう!いのち 熱中症対策セミナー

日時:6月10日(月)14:30~16:30
会場:倉敷商工会議所 7階会議室(倉敷市白楽町249-5)

ハイブリッド方式(現地開催、 Zoom開催の併用)、参加無料です。

・STOP!熱中症クールワークキャンペーンについて
 (岡山労働局 健康安全課)

・職場における熱中症予防対策の実施について
 (大塚製薬株式会社)

・取り組み事例発表
 (JFEスチール株式会社 西日本製鉄所(倉敷地区)、 株式会社荒木組)

来場者限定:サンプル配布、対策グッズ体験ブース、展示ブース・プレクーリングなど

https://okayamas.johas.go.jp/cool_2024/

5.高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)からのご案内~事業主が採用後に障害を把握した発達障害者の就労継続事例等に関する調査研究~

高齢・障害・求職者雇用支援機構においては、採用後に発達障害が把握された従業員に関する調査結果とともに、10企業の取組を事例として紹介した「事業主が採用後に障害を把握した発達障害者の就労継続事例等に関する調査研究」の報告書を3月末に公表しました。ホームページからダウンロードできますので、御活用ください。

https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/houkoku173.html

6.労災疾病等医学研究普及サイトのご案内

「勤労者医療フォーラム」について

労働者健康安全機構では、労災病院治療就労両立支援センターをはじめとした医療機関の取組状況、産業保健スタッフや人事労務担当者等事業場の取組状況及び国の行政施策等を踏まえて、今後の治療と仕事の両立支援のあり方の検討を行うことを目的として、「勤労者医療フォーラム」を開催しております。当フォーラムに、治療に携わる医療関係者、産業医等の産業保健スタッフ、職場関係者及び患者さんご本人又はそのご家族の方など、多くの方々にご参加いただいております。

がんの両立支援に関する当フォーラムは毎年度開催しており、今年度は令和5年9月30日(土)に開催し、多くの方にご参加いただきました。

次年度以降も当フォーラムを開催していくこととしておりますので、ぜひご参加ください。

過去のフォーラムの開催概要については、ホームページにて公開しておりますので、労災疾病等医学研究普及サイトをご覧ください。

https://www.research.johas.go.jp/kinrouforum/forumA.html

「じん肺」について

■「じん肺」とは
小さな砂ぼこりや金属粉など微細な粉じんを大量に吸入し続けることで、肺が固くなって呼吸が困難になる疾病のことです。

じん肺法では「粉じんを吸入することによって肺に生じた線維増殖性変化を主体とする疾病」と定義され、粉じん作業従事労働者は、地方じん肺診査医の診断結果によって「じん肺管理区分(管理区分Ⅰ~Ⅳ)」で区分されます。

じん肺の所見があり、6つの呼吸器疾患(肺結核、結核性胸膜炎、続発性気管支炎、続発性気管支拡張症、続発性気胸、原発性肺がん)が認められると、労災補償の対象となります。

■労働者健康安全機構での研究
当機構では過去、じん肺の合併症や診断方法について研究を行ってきました。

令和5年度からは、新たに3つの研究項目を設定し、じん肺の労災認定の迅速・適正化に寄与することを目的とします。

(1)深層学習によるじん肺診断ソフトの開発
(2)間質性肺病変を合併するじん肺症例の予後
(3)続発性気胸の治療についての検討

詳しい研究内容は、「労災疾病等研究普及サイト」をご覧ください。
https://www.research.johas.go.jp/jinpai2023/index.html

また、当機構では医師対象のじん肺診断技術研修を毎年開催しています。
https://www.research.johas.go.jp/jinpaikenshu/


次回の第198号は2024年6月14日に配信予定です。